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【読書記録】それでも、日本人は「戦争」を選んだ
おすすめ度 ★★★★☆
戦争はダメなこと、というのは知っている。ニュースで、教科書で、ドラマで、アニメで、戦争の悲惨さはたくさん教えられてきた。
でも、なぜ戦争は始まったのか、避けられなかったのか、国がなぜその選択をしたのか、一般市民にできることはなかったのか。それを理解していないといけない気がして読んでみた。
長編で内容も難しいので、読みながら何度も寝落ちした。でも学びが多い本だった。
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この本は、東大教授である著者が、中高生にむけて講義した内容をまとめたものだ。
帯文にはこうある。
普通の良き日本人が、世界最高の頭脳たちが「もう戦争しかない」と思ったのはなぜか?
高校生に語るー日本近現代史の最前線。
学生向けならわかりやすいかな、とおもったら、まあ難しい。どうやら、とても賢い&歴史研究会の学生向けらしい。質疑応答のレベルが高すぎる。。
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「戦争」といっても、太平洋戦争だけではない。日清戦争から5つの章にわかれて深く語られている。
また、政治の話だけではなく、当時の市民が戦争をどう捉えていたかなどもデータを元に話しているのがよかった。
序章にある著者のメッセージが刺さる。
人類は本当に様々なことを考え考えしながらも、大きな災厄を避けられずにきたのだということを感じます。私たちには、いつもすべての情報が与えられるわけではありません。けれども与えられた情報の中で、必死に、過去の事例を広い範囲で思い出し、最も適切な事例を探しだし、歴史を選択して用いることができるようにしたいと切に思うのです。歴史を学ぶこと、考えてゆくことは、私たちがこれからどのように生きて、何を選択していくのか、その最も大きな力となるのではないでしょうか。
備忘録的になるが、章ごとのポイントを書いておく。
日清戦争
・実は中国の朝貢制は列強にとってコスパの良い仕組みだった。中国に言えば他の国にうまく取り次いでくれる的な。でもその均衡が1980年ごろから崩れていく。
・意外とどの国も戦争したいわけではない。お金がかかるから。でも領土と権益は守りたい。
・朝鮮半島はずっと大変。
・戦争推進派のいってることが、今とあんま変わらない煽りっぷり。自由党の新聞↓
日本のすべての人々は、徴兵や税金の問題では、苦情を言う頑固親父が少なくない。しかし外国との関係については関心が全くなく、外交の話などすればすぐ寝てしまうのではないか。なんと無気力な奴隷根性を持った人々よ。このようなだらしのない人々では、日本がたとえロシアの属国になっても、おとなしく言うことを聞くに違いない。(現代語訳)
日露戦争
・義和団事件をチャンスとみて居座るロシア、怪しむ中国、牽制したい日本とイギリス(日英同盟)
・日本もロシアもお金がなかった。そしてやっぱり朝鮮の取り合いをしてる。
・米英から協力を得るために満州を大義名分にした。戦争のための正義。
・日露戦争後に、日本の選挙・政治が大きく変わった。犠牲が多いと社会は変革を迫られる。
第一次世界大戦
・このころから植民地主義に批判が高まる。統治領と名前を変えたり。
・日本の植民地は安全保障のため、列強のは商業と資源獲得のため。
・パリ講和会議、名前しか覚えてないけどめちゃ大事な外交戦だったと知る。
・日本はかなり警戒されていた。日本の悪い印象がのちのち響いてくる。
・関東大震災の惨状が戦場の惨状のイメージになり、人々の不安につながった。なるほど。
満州事変と日中戦争
・満州事変前、東大学生の88%が武力行使を支持していた。インテリ層は政府に批判的であることが多いのに。
・国民には、日本が獲得した条約に中国が違反しているという主張がされてきた。
一方軍部は、対ソ戦争のために中国の資源(満州)を確保したい狙いがあった。本音と建前!
・中国が国際連盟の仲裁を求めたのは、世論で日本の侵略を牽制するため。蒋介石頭いい。
・陸軍まじ問題児。ジャイアン。
物事はなにごとも八分目くらいで我慢すべきで、連盟が満州問題に関わるのを全て拒否できないのは日本政府自身、よくわかっておいでのはず。日本人の悪いところはなにごとにも潔癖すぎることで、一つのことにこだわって結局脱退などに至るのは、自分としては反対である。
・実は戦争反対派も多かったが、陸軍に反対できない政治の情勢があった。
・軍部が当時の国民が望む政策(農民救済策)を実現したために期待が高まった。
・胡適すごい。予言者レベルに先を見てる。当時の中国の政治もすごい。これ1935年の発言↓
アメリカとソビエトをこの問題に巻き込むには、中国が日本との戦争をまずは正面から引き受けて、2、3年間負け続けることだ(中略)今日、日本は全民族切腹の道を歩いている。上記の戦略は「日本切腹、中国介錯」というこの八文字にまとめられよう。
太平洋戦争
・国力の差を国民は知っていたのか?→知ってた。むしろ絶対的な力の差を克服するのが大和魂って煽ってた
・日本政府・昭和天皇はどうやって戦争を終わらせようと思っていたのか?→短期集中で終わらすつもりだった。
・アメリカは東アジアを日本だけで経済的に独占しようとしていると捉え、経済封鎖。日本はやられっぱなしでいられるかと牙をむく。
・資本主義は労働者を搾取する悪い国!ソ連、アメリカ、イギリスが中国を援助して日本を虐める!的な考えで捻くれていく日本。
・日本の判断が急にアホになる。希望的観測のオンパレード。データも恣意的。ドイツへの他力本願がすごい。ナチスへの憧れ。やれやれ。
・真珠湾攻撃がうまくいったのは、アメリカの日本軽視があった。魚雷攻撃の技術が低いとなめてた。イメージ戦略。
・戦争中の国民の食糧を世界で最も軽視した国、日本。飯は食わねどなんとやら。アホか!
全体
・生まれた頃から朝鮮半島は南北に分かれていたからそういうものというイメージがあったけど、そうではない。当たり前だ。
・いろんな戦争が実は代理戦争。今のイスラエルやウクライナの戦闘も同じだ。
・どっちの方が悪い!って批判するのも昔からおんなじ。だいたいどっちも悪い。
・今の政治家ってこの辺のことどれくらい知ってるんだろう?解釈にも違いがありそう。
・日中戦争前、庶民に向けた政策で支持率を高めたのは軍部だった。耳障りのいい話には注意したほうがいい。
最後に、戦争とは。
ある国の国民が、ある相手国に対して「あの国は我々の国に対して、我々の生存を脅かすようなことをしている」あるいは、「あの国は我々の国に対して、我々の過去の歴史を否定するようなことをしている」といった認識を強く抱くことになっていた場合、戦争が起こる傾向がある。
ルソーは考えます。戦争というのは、ある国の常備兵が3割くらい殺傷された時点で都合良く終わってくれるものではない。相手国の王様が降参しましたといって手を挙げた時に終わるものでもない。(中略)相手国の社会の基本を成り立たせる秩序=憲法にまで手を突っ込んで、それを書き換えるのが戦争だ、と。(略)倒すべき相手が最も大切だと思っているものに対して根本的な打撃を与えられれば、相手に与えるダメージは、とても大きなものになりますね。