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【読んだ】そりゃニコニコしてる人と仲良くなりたいもん

おすすめ度 ★★★★☆

深刻な社会課題を、笑ってしまうような楽しい企画で乗り越える。
不謹慎だと言う人もいるけど、多くの人を巻き込む革命だって「笑える」ほうがいい。

番組を作らないディレクター

元NHKのディレクターで、「プロフェッショナル」「クローズアップ現代」などのドキュメンタリー番組を手掛けてきた著者の小国さん。
33歳で心臓の病気になり番組ディレクターをやめ、その後「番組を作らないディレクター」として、PRやアプリの企画など、TVの垣根を超えたプロジェクトを次々立ち上げる。

経歴だけ読むと「やーさすがNHKに入る人はとんでもない人なんやな」と思ってしまうけど、全然偉ぶらないし、文章も読みやすく、ウィットに富んでいて面白い。

所々に入る一人ツッコミや自虐ネタにも、くすっと笑ってしまう(好き嫌いは分かれそう)。

伝わらないものは、存在しないのと同じ

私は、あまりテレビを見ないのだけど、NHKの番組は比較的よく見る。

朝のニュース→朝ドラ→あさイチ(たまに)が平日のルーティン。
日曜は大河ドラマを見るし、ドキュメンタリーも気になるものは見る。
Eテレは子どもが小さい時お世話になったし、今も時々見てる。

ただ、著書によるとNHKの平均視聴者は65歳以上で、若い人は全然見ていないらしい。

えーそうなんだ、NHKのドキュメンタリー面白いのにな。とモヤモヤしていたら、著者はもっとモヤモヤしていた。
心血を注いで作った番組でも、届けたい人に届いていない、という葛藤に長年苦しんでいたという。
本の中でも繰り返し繰り返し「伝わらないものは、存在しないのと同じ」だと書いている。

本では、大切なことを「伝えるために」必要なことを5つの章にわけて熱く語っている。いや、そんな熱血な感じではないけど、ひしひしと著者の熱意が伝わってくるような書き方がされている。
その5つがこれ

  • 企画

  • 表現

  • 着地

  • 流通

  • 姿勢

ぱっと見で想像できるものも、できないものもあると思う。全部を説明はできないけど、記憶しておきたいところをかいつまんで残しておく。

プロフェッショナル10周年企画

「プロフェッショナル 仕事の流儀」といえばスガシカオの曲でああいうやつ…とふんわり浮かぶけど、正直ちゃんと観たことがない。
情熱大陸と区別がつかない(情熱大陸も観たことないし)。

2016年、小国さんは番組のプロデューサーからこんな依頼をされる。

「番組も10周年だし、なんちゅーか、バーンと派手で、どーんとニュースになっちゃうようなやつ考えてみようか」という超長嶋茂雄的オーダーが届きました(テレビ局によくあるオーダースタイルです)。

第一章 企画

最初はスガシカオさんの記念ライブなどが挙がっていたらしい。
しかし最終的に企画したのは
「誰でも『プロフェッショナル』になれるスマホアプリ」。

自分の写真や動画、メッセージを入力すると、あのテイストで番組のパロディが作られるものだ。
パロディを公式がやってしまうというのは当時新鮮で、100万ダウンロードを超えるヒットになったという。

視聴者は65歳以上がメインだけど、番組のつくり(音楽とかロゴ)は知っている人が多い。
それをうまく生かして若者が手を伸ばしたくなるコンテンツにする。

そこに至るまでの経緯も面白くて、ワクワクしてしまう。

「物は言いよう」で、価値を変える

2020年、世界中で品切れして深刻なマスク不足になっていたころの話。

まとまった数のマスクを輸入できた方から、「いい形で世の中に広めるアイデアはないか?」と無茶振りされた小国さん。
医療や福祉の現場に寄付するのは簡単だけど、一回限りになるし支援の輪が広がりにくい。

そこで小国さんが考えたのが「おすそわけ」というスタイルだ。
55枚分の価格で、50枚入りのマスクを買う。5枚分は福祉現場におすそわけ(寄付)するという仕組みだ。
これであればみんなが堂々とマスクを売り買いできるし、福祉現場にとっても有益だ。

小国さんは、このマスクの箱に「50/55」という記載をいれた。
もちろん詳細な説明も書いてあるのだけど、この数字を入れるだけで

「本当は55枚あったんですけど、50枚はあなたのもとに、残りの5枚は福祉の現場に届きますよ」

というおすそわけのストーリーを購入者に伝えることに成功した。
普通のマスクでも、表現の仕方・伝え方で価値が変わるという例。

手堅いヒットを繰り返しても意味がない

著者が手掛けたNHK1.5チャンネルという動画コンテンツの話。
NHKの番組を1分ほどの動画に再編集したもので、残念ながら2020年で終了してしまったらしいんだけど、面白そう。めっちゃ観たい。

SNSとテレビの表現方法の違いなども興味深く読めるのだけど、面白かったのが企画会議のシーン。

「1.5チャンネル」をはじめてすぐに気づいたのは、企画会議ででてくる企画が、動物やら料理やら、ハウツーものやらに偏っているということでした。理由は簡単で、その手の動画はネット動画のヒットの報道で、ある程度の再生回数が見込めるからです。(中略)
企画の方向性がそちらに流れれば流れるほど、自分たちじゃなくても作れるものを作ることになるし、それでは、自分たちが存在する理由がなくなっていくと思いました。(中略)
僕たちが「1.5チャンネル」を立ち上げたのは、圧倒的な価値があるのに届けきれていないNHKのコンテンツを、これまでにない方法で届けきりたいと思ったからです。
大げさに言えば、それは自分たちの誇りをかけた闘いだったのではないかと思います。

うーん、熱い。おちゃらけた文章の端々にこういう熱量がみえるのがすごくいい。

そしてこれは、コンテンツ制作に限らず自分の仕事にも当てはまる。
新しいアイデアや意見を求められた時に、ついつい「失敗しないこと」を優先してしまうことはよくある。

今流行っているもの、競合が攻めている領域、自社でできそうな技術…

無難で、炎上しない、そこそこの企画を立てていれば、大失敗することはない(大成功もない)。
結果、どこかで観たことのあるような二番煎じ感のある企画がゆるりとが量産される。

うぐぐ…わかっている。
わかっているけど、変えるほどの情熱もないのが、今の私だ。

新しいものに対して貪欲な姿勢、純粋に楽しむ気持ち、やりたいことを推し進める熱意…どれも私の中で滅びつつある気がする。

あかるく、かるく、やわらかく

しまった。めちゃめちゃ面白い本なのに、暗い感じになってしまった。

著者は、自分のしていることは「趣味」だと言っている。

他にも紹介されているLGBTQ+、認知症、がんなど社会的なテーマを取り扱うプロジェクトはどれもすごくユニークで、「すごいなぁ」と素直に思えるものばかりだ。
想像を超える努力や熱意、覚悟がないとどれもできないような気がしてしまう。(実際そうだと思う)

だけど、著者は仕事じゃなくて「趣味」だという。
仕事なら、やめてしまうかもしれないけど、趣味だからできる。
やりたいからやる。面白いから熱中してしまうのだと。

眉間にシワを寄せて、肩に力を入れて、拳を振り上げて社会を変えることが必要なときもあると思う。それがいいとか悪いとかではなく、単純に苦手なだけだ。
僕は、プロもにわかも、できるだけ多くの人が手を取り合って、肩を組んで、へらへら、にこにこ、わっははと笑いながら、気がついたら世界の風景がかきかわっているくらいの感じがすきだ。

あぁ、いいなぁ。
私もなんかこう、、、(今はなんも思いつかないけど)こういう事ができる人になりたいな。明るく、軽く、柔らかく。

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