HEATと96時間見たよ
このふたつの映画を、星の数ほどある映画の中から選んだのは、荒木飛呂彦が名作としてチョイスしていたのが理由。私は、荒木飛呂彦の作品を愛している。ジョジョシリーズ以外にも、変人偏屈列伝や魔少年ビーティーなどの作品も読んでいるほどと書けば、ある程度私の愛は伝わるだろうか。そんな荒木飛呂彦は著書の中で、HEATと96時間を男泣き映画の超名作として紹介していた。荒木先生の中には、長年の研究で得たサスペンス5ヶ条という、映画を評価する上での普遍的な法則があるらしいのだが、先生曰くこの2本は特にレベルが高いらしい。
まずHEATから。
一言で言うなら、「私的最高傑作の1つ」。
今まで私が見てきた、と言っても大した数は見ていないが、とにかく最近映画にハマってきた私の記憶の中で、1番と言っていいほどの傑作だった。最高傑作の内の1つという言い方に留めているのは、「今思い出せないだけで、もっと良かった作品もあるかもしれない…」という私の弱気な性格が出ているだけ。
荒木先生が挙げていた、男の悲哀といった部分の面白さが強烈に理解できた。主演のロバート・デ・ニーロとアル・パチーノどちらの演技も素晴らしく、3時間弱という大作でありながらあっという間に見終わってしまった。ロバート・デ・ニーロ演じる犯罪のプロ、ニールとアル・パチーノ演じる刑事、ヴィンセント。互いに作品内では比肩するもののいない程のプロフェッショナルであると共に、家庭や恋人との間にある大きな溝に葛藤する、1人の男でもある。どちらのキャラクターも好きにならない訳がなく、善悪の関係なしに自然と応援してしまう。最後に行けば行くほど、自分はどちらに勝って欲しいのか全く分からなくなり、なんとも形容しがたい気持ちになってしまう。私生活と仕事、仕事を理由に疎かにしたせいで錆び付いてしまった部分と、仕事の中で研ぎ澄まされていった部分、という対比が最初から最後まで存在するおかげで、本作の最も力を入れている部分であろう、銃撃戦がより印象的なものとなった。なかでも、銀行での強盗を行った後の市街地での銃撃戦は、凄まじかった。大音量で銃声がビル街に響き渡り、警官達が次々に倒れていく、アクションシーンとしての派手さもありながら、その重く乾いた銃声や俳優陣の無駄のないライフル捌きといった、徹底されたリアリティがストーリーにこれ以上ない説得力を持たせ、世界に引き込んでくる。
最後のシーンには思わず、目頭が熱くなってしまった。今まで見た事のないアクションを堪能しながらも、男の悲哀に涙する。そんな素晴らしい作品だった。
次に96時間だが、こちらもHEATと似ていて男の悲哀とかっこいいアクションといったところ。荒木先生がこの2本を並べて紹介した理由がよく分かる。
話としては、CIAの元工作員の主人公が、誘拐された最愛の娘を救い出すため、現役時代のあれこれを駆使して悪の組織と戦う、というイメージが容易なもの。殺しのプロが怒りに身を任せて暴れ回る、というのはよくある設定だが安定して面白いので見てしまう。本作は主人公のブライアンを演じるリーアム・ニーソンの表情がとても良かった。時には娘を溺愛する父親であり、時には敵を殺すことに容赦のない冷徹な工作員というブライアンの、娘のことが不安で仕方ないが目の前の敵は徹底的に潰す、という2つの感情が顔に出まくっていた。不安そうな顔をしながら、血の通っていないような復讐を淡々とこなすというこの演技は彼にしかできなかったのではないか。また、言うまでもないがアクションシーンもとてもカッコよかった。起点の効き方と、判断の速さ。これこそプロの戦い方!自分が撃たれながらも、相手を畳み掛ける為にガラスを突き破って殴り掛かるシーンが特に最高。思わず、「やるじゃねぇか!!」とスポーツバーでクダを巻くオッサンのような声が漏れてしまった。
結末は言うまでもなくハッピーエンド。ベタ中のベタではあるが面白かった。