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一般病棟が感染病棟に早変わり

宮坂 裕美子、伊藤 昭
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ 

毎日ニュースで聞く、新型コロナウィルスの新規陽性者の数に、最近は驚かなくなっているのは私だけでしょうか。感染の拡大傾向が収束に向かっているとは思えない中、リアル飲み会で盛り上がれない自粛生活を送りながら、今後冬に向けて更なる感染拡大の懸念が喧伝され、安心が約束されない新常態に戸惑っている人は多いのではないでしょうか。

感染者の受けれ状況

主に軽症患者用に、ホテルなどの宿泊施設を受け皿として自治体が工面していますが、受け入れる側もリスクを持っての対応となり、容易なことではないと思います。
一方、病院では、感染症患者用の病室は数が限られており、多くの患者の受け入れは困難な状況です。感染者の大半は軽症者であることから、軽症患者、更に中等症患者までを対象とした入院施設の確保が求められています。

病院の感染病棟への転用の可能性

今ある病院の一般病棟を、一時的に新型コロナウィルス感染症の患者受け入れができる感染病棟に容易に改変・改修できれば、軽症から中等症へ悪化した患者や、中等症から軽症への改善患者に対して、医療対応がしやすくなるかもしれません。なお、中等症より症状の重い重症患者は、高度な医療設備が整っている集中治療室(ICU)で診る必要があるため、病棟からICUへ移動することとなります。

感染病棟へ改造するための注意点

一般病棟を感染病棟に改造するためには、以下の点に配慮して計画する必要があります。(図1参照)
① 感染病棟に関し、清潔エリア(グリーンゾーン)と汚染エリア(イエロー・レッドゾーン)を明確に区分する。
② 患者、医療従事者、物品の動線を、清潔と汚染がクロスしない一方通行にする。
③ 病室(レッドゾーン)に単独の排気ファンを設置し、陰圧を確保して汚染空気を廻りの室に漏らさないようにする。

図1

図1:感染病棟のゾーニングと動線の考え

モデル病院での検証

図2は、あるモデル病院の一般病棟を臨時的に感染病棟へ改修する計画案です。病棟に地上から直通の専用エレベーターや階段があると、動線の一方向システムが容易に成立できます。

図2

図2:モデル病院での感染病棟計画案

個室病室に専用の排気設備を設置する際、図3,4のように病室にバルコニーや庇があると、天井を壊す大掛かりな工事を行わずに、屋外に個別の排気ファンを容易に設置することができます。この対策は、病室の空調更新など、病棟を使いながら一部屋ずつ改修工事を行う際にも、感染対策として使えるので、病棟の庇やバルコニーは大変有効な建築要素となります。

図3

図3:病棟庇に排気ファンを設置したイメージ(窓下部をガラリにする)

図5

図4:病室の改修工事にて、感染対策用に設置したファンの事例(窓下にガラリ設置)

図4

図5:病室の改修工事にて、感染対策用に設置したファンの事例(庇上部にファンを仮設置)

おわりに

病棟専用エレベーターや病棟の庇(又はバルコニー)は、使いながらの改修時だけでなく、臨時的に感染病棟にリノベーションする際にはその存在が大変有用となります。予測できない将来に対して、いかに改修しやすい計画とするか、社会変化へのフレキシビリティの高さが求められる施設であるだけに、設計時に配慮したい計画ポイントであるといえます。


宮坂

宮坂 裕美子
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
ダイレクター
医療施設や教育施設の他、様々な用途の空調・衛生設備設計を多く手掛ける。愛育病院では、放射冷暖房による病室の快適性の向上と、スマートエネルギーセンターとのエネルギー連携による省CO2を実現(省エネ大賞)。国立西洋美術館の改修、有明体操競技場など。


伊藤

伊藤 昭
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
アソシエイト
30年近く医療施設の空調・衛生設備設計に携わる傍ら、2008年には順天堂大学大学院医学研究科において感染制御科学の分野で博士課程を修了。高齢者施設、ホテル、美術館、研究教育施設の設計、大規模高層複合施設でのCO2削減運用アドバイザリーコンサルなど。



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