日建設計・設備フォーラムから生まれたアイデア①「学校×After/with COVID-19」
ウイズ・アフターコロナの学校に求められる機能は?
海上 亜耶
日建設計 エンジニアリング部門 環境デザインスタジオ
アソシエイト・アーキテクト
子どもの世界はどう広がってゆくか
子どもにとって属性の最小単位は家庭であり、そこから学校へ、さらには街へ…私たちは無意識に子どもの世界の広がりを一方向的にしか捉えていなかったかもしれません。子どもたちの「ソト」の世界が一時的に閉ざされたCOVID-19という災禍と急激なICT化を経験し、どのように世界を広げて豊かな体験を育んでいけるのか、多方向からの視点が求められています。
「学び」の自由は、社会全体が支えなければ
場所を選ばない学習やバーチャルな居場所の「選択の自由」は前向きな可能性の反面、成長過程に及ぼす影響も大きく子どもや家庭だけで判断することは容易ではありません。家庭での学びが、かえって「閉じこもり」を助長し不登校児童数が増えたというデータも見られます。個々に生活や学習の自律を委ねられる場合、社会による多様なフォローがより必要となるでしょう。
学びを支える根本の精神として、私たちはこんなシンプルな願いからアプローチを試みました。
~リアルにせよ、バーチャルにせよ、子どもたちにはたくさんの「他者」との出会いを育んでもらいたい~
“五感+αスクール”
リアルな学校の在り方として提案するのは、「感覚」を研ぎ澄ます学校。
暑さ寒さ・日当たり・授業形態に応じた明るさ等々、自分たちで感じながら建具や設備をコントロールし、環境を作っていく空間です。環境配慮を肌感覚で学ぶこと以上に、皆が快適に過ごせるように考えアクションを起こす、個々によって身体感覚が異なることを知り他者に寄り添うことを学ぶなど、やさしさをもって共生する力を育むことをイメージしました。
我々エンジニアは、教室と外部を仕切るいくつかのレイヤー(植物・すだれ・オーニング・欄間…)やそれに対するアクションで実際に起こる光・熱・風などの効果検証からメニューを作成。実際の子どもたちの感覚や授業効率などからフィードバックを得て、さらなる対策を打っていくことも可能です。リアルタイムのセンシングや天気予報から、「そろそろ西日が強くなるかも」など子どもたちの端末にヒントが送られ、アクションポイントを貯めていく…など楽しみながら経験を積んでいく展開も考えられます。
“ふるさとツイン・スクーリング”
リアルな居住地の学校のほかに、もう一つのどこかの学校に籍を置ける。ちょっと学校に行きづらい、受けたい授業がある、今日はあの子と話したい、そんなときはオンラインでもリアルでも「ツイン先」に登校できる…というのが「ふるさとツイン」構想です。
既にデュアルスクールと称して都会の小学生が地方の学校に通う試みが始まっていますが、高音質や映像の共有・オンライン参加座席などの技術導入により、リアルとデジタルを両立した運用も充分可能になると思われます。
子どもにとって帰属先が増え、出会いが広がるだけではなく、複数の学校と地域で子どもを支えることは、周囲の大人たちの世界も広げていきます。時にはリアルに家族でツイン先を訪れてスクーリングする、地震など災害時に馴染みのある「ふるさと」に避難できる等々、そのためのワーケーションや宿泊スペースなど、学校施設の在り方にも可能性が広がるかもしれません。
経験と交流の蓄積
日常生活の中で子どもたちが人・社会・自然などあらゆるものに出会い、交流の経験が蓄積されること、またその経験の場を家庭・学校・地域という枠を超えて支えていくこと。リアルな空間の設えとバーチャルの技術両面から、教育の新しいシステムが議論されていくことで可能性が広がることに期待をしたいと思います。
この議論を基礎に2022年度日本建築学会技術部門設計競技「将来の環境変化を見据えた学校施設の改修設計」に参加しました。千代田区立の中学校をモデルに、耐震改修と自然環境の取り込みを大胆に融合させた提案で優秀賞を受賞しました。
海上 亜耶
日建設計 エンジニアリング部門 環境デザインスタジオ
アソシエイト・アーキテクト
2008年日建設計・上海入社、2019年日建設計入社。14年間中国プロジェクトを主担当。環境戦略からのデザインアプローチを見据え、環境デザインスタジオに在籍中。
主な担当プロジェクト:寧波国際金融中心北区、寧波国際貿易展覧中心、長寧88中心、馬蹄寨希望小学校、常州金融商務区など。