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インクルーシブなデザインをどう考える? |当事者の視点を交えたプロジェクトをつくるには

日建グループは「オープンプラットフォーム(組織を開く)」を掲げ、社会の様々な課題に、社内外の多くのみなさんと共に取りくむため、ゲストからの異なる視点をかけ合わせて議論を深め、イノベーションに向かう、クロストークラジオ「イノラジ」を開催しています。今回は「インクルーシブなデザインをどう考える?」をテーマに、インクルーシブデザインの先駆者や、障がいを持つ当事者の方々をお招きしました。

車戸高介
日建設計 都市・社会基盤部門
都市開発グループ 企画開発部 プランナー

なぜ今「インクルーシブデザイン」なのか?

車戸高介さん(日建設計 都市開発部):今、世界の人口の15パーセント、約13億人が障がいを持っている(*1)と言われており、大きなインパクトとなっています。そういった方々がより社会参加できる、サステイナブルな社会の実現に向けたダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が求められています。

*1 :日本財団ジャーナル

一方、日本財団のD&Iに関する意識調査(*2)では、「日本社会には、D&Iを前向きに捉えようとする流れを感じる」と答えた人は、半数以下の45%。このような現状を踏まえ、D&Iは、日建設計としてきちんと取り組むべき課題だと考えています。

*2:日本財団「ダイバーシティ&インクルージョンに関する意識調査」

日本のインクルーシブデザイン事例のご紹介

まず一つ目の事例「注文をまちがえる料理店」。ここでは、認知症の方々がホール係として働いています。一般のお店では、注文を間違えないことが求められますが、認知症の方々は間違えてしまうこともあり、あえて「注文をまちがえる料理店」と名付け、認知症の方々の社会参加を温かく見守れる環境を作っています。

他にも、外出困難な方々が、分身ロボットを通じて接客し社会参加している「分身ロボットカフェ」。障がいの有無に関わらず子どもたちが一緒に遊べる山形県の拠点「シェルターインクルーシブプレイス コパル」など、様々なインクルーシブデザインがあります。

スピーカーのご紹介

タキザワケイタさん :私が代表を務めるPLAYWORKS株式会社は、障害者など多様なリードユーザーと新たな価値を共創する、インクルーシブデザイン・コンサルティングファームです。これまでの実績としては、白井さんもリードユーザーとして参加いただいたSONY「XRキャッチボール」 など。見える、見えない関係なく、音でキャッチボールを体験できるプロダクトです。

村田菜生さん:クリエイティブカンパニーのロフトワークで、ディレクターをしています。私は、弊社で障がいのある方を交えたイベントを企画しました。多様な方と関わることの楽しさや発見を広めていきたいです。

また弊社は、ハチハチ様、日建設計様と共にQ0(キューゼロ)という新会社を設立したため、日建設計の方とも関わりが深いです。

白井崇陽さん:本業はバイオリニストで、3歳で失明し、右目だけ光が見えるくらいの視力です。ゲームのアクセシビリティに関する活動もしています。当事者が思っていることって、意外とみなさんが思う常識からずれてることもあるんだって、実感してもらえればと思っています。
※以下敬称略

渋谷で、点字ブロックを再認識してもらうアートプロジェクト

車戸:では、僕が個人的に携わっているプロジェクトを紹介します。日建設計は渋谷のまちづくりに関わっているのですが、渋谷のまちを調べてみると、実は点字ブロックが途切れている箇所が93か所もありました。

調査では、渋谷の街に点字が途切れたところが93か所も見つかった

この課題を解決するため私達が注目したのは、晴眼者(視覚に障がいのない人)にも点字の存在意義を再認識してもらうことでした。ただ点字ブロックを敷くだけでは、解決にはならないと考えたのです。
そこで、渋谷のストリートアートの流れも汲んで「STREET ART LINE PROJECT(ストリートアートラインプロジェクト)」を実施しています。点字ブロックにアートを施すことで付加価値をつけながら、途切れた箇所に新しい点字ブロックを敷くことをミッションとしています。渋谷スクランブルスクエアでは、既存の点字ブロックにアートプロジェクトのフィルムを貼るという社会実験をしました。本日のゲストの白井さんにもご協力いただいています。

インクルーシブデザインと、ユニバーサルデザインやバリアフリーとの違いは?

車戸:私のイメージでは、ユニバーサルデザインは最大公約数的にみんなが使えるものを作り、マイナスをゼロにすること。インクルーシブデザインは、当事者のインサイトをデザインプロセスに組み込んで、新たな価値を生んでいるもの。よりプラスを作っていくことかと思います。
 
村田:両方のデザイン手法について、アウトプットの違いをまとめられた記事を読んだことがあります(*3)。そこでは、絆創膏のデザインを考えることが例に出されていて、ユニバーサルデザインはどんな人の肌でも対応できるように透明の絆創膏を、インクルーシブデザインでは多様な肌の色の絆創膏がつくられていました。一人ひとりの課題に焦点を当てるという姿勢が大事なんだなと考えさせられました。

*3: 排除を考えることから始めるインクルーシブデザイン

白井:インクルーシブデザインの場合、もはや絆創膏じゃなくていいというか、絆創膏は「貼る」のが当たり前だけど、塗っても良いんじゃないか?といったように、枠組みを超えてもその役割を果たせて、 誰にでも使えるものに思考変換していくといった違いがあるように思います。

タキザワ:極端には、傷が残っても逆にいいよね、これが自分の個性だよね、ぐらいの価値観で固定観念を壊してくれることが、インクルーシブデザインの可能性では。健常者向けにデザインされた空間に後付けで貼られる点字ブロックは、ユニバーサルデザイン的です。設計の段階からリードユーザー(*4)と共に作っていったら、違うものになっていたかもしれません。

*4:インクルーシブデザインにおいて、新たな気づきを与えてくれる役割の人。障がいなど、特別なニーズ等のある人の意見を取り入れることで、 より包括的なデザインを目指す

車戸:確かに、インクルーシブデザインを突き詰めていくと、 点字ブロックがいらない空間に、視覚障がい者の方々も健常者もみんな歩いている状態が理想的だと思います。
 
タキザワ:先行事例のコパルでは、健常の子や車椅子の子が、自然と出会える設計です。ハードで解決する必要はなくて、お互いが仲良くなれる「場のデザイン」を行なっているのが面白い。ソフトの部分をいかにハードでデザインするかですね。
 
白井:知っていくこと、対話がすごく重要ですよね。先ほどの点字ブロックのアートプロジェクトには、僕もリードユーザーとして参加しました。そこでお話ししたんですが、視覚障がい者にも色々いて、今回のデザインを一番気にするのは、全盲の人より、点字ブロックを目で認識してるロービジョン(弱視)の人たちです。そのため、ロービジョンの人たちにも意見をもらうことになりました。他にも、ベビーカーとかキャリーバックを持ってる人とか車椅子の人たちにも一緒に考えてもらったり。様々なリードユーザーの参加とが重要だと思いますが、リードユーザーってどこで出会えるんだろうという悩みもあります。

新しい視点をくれる「リードユーザー」の巻き込み方

タキザワ:インクルーシブデザインのプロジェクトでは、テーマや課題に対するリードユーザーのマッチングが肝。なので、多様なリードユーザーの仲間を増やすことにも注力しています。その人の趣味とかパーソナリティも知った上で、プロジェクトにリードユーザーとしてアサインしています。
 
車戸:僕らも白井さんと出会うまでは、リードユーザーを見つけるため、SNSでDMを送りまくりました。きっと近くにいるはずなのに、いざとなると出会うのが難しいなと。
 
白井:あと、やっぱり最初からプロジェクトに入れてほしい。最近、アクセシビリティに配慮したという、あるゲームを試したんです。でも、テキストを読み上げてくれるものの、肝心のナビゲーションがなくて、僕はプレーできなかったんです。多分、ある程度システムができあがった状態で、 後から視覚障がい者の人たちが参加したからでしょう。
 
村田:「視覚障がい者はこれ」「車椅子ユーザーはこれ」と一括りにしてしまうのは違うなと感じます。白井さんのお話のように、後から参加するのも良くないし、数名の話を取り入れただけでその障がいのことをわかった気になってしまうのも良くない。一緒に考える過程が大切だと思います。
 
タキザワ:僕は、リードユーザーの仲間を増やしていくため、彼らにとっても学びや成長の機会となり、ワクワクする体験を提供することを心がけています。そうすることで、プロジェクトに参加した方が、新しい方を紹介してくれます。
 
車戸:そのワクワクが、結果的に健常者にも還元されているような気がします。リードユーザーとの話し合いで生まれたプロダクトは、健常者にも便利というか。
 
白井:何かプラスで助けなどを必要とする人たちが楽しめるものは、意外とみんなにも楽しい結果になることも多いんです。だから、誰かのために…ではなく、 みんなが楽しめる感覚で考えていくのがいいと思うんです。ただ、アイデアを形にするのが本当に難しいなと。タキザワさん、どうしたら形にできるんですか?

アイデアを形にする方法と、日建設計のこれから 


タキザワ:アイデアをいかに社会実装するかは、プロジェクトに伴走支援しながら常に考えています。企業のコンサルティングの場合、最初の段階でプロジェクトのゴールを明確に決めて、いつまでに、どういった成果を出したいのかのすり合わせが大切です。既存製品の改善から始めたい企業、新しい製品やサービスを生み出したい企業など、様々です。
ただ、企業でインクルーシブデザインのプロジェクトをやる場合、他の大多数の社員さんからは、売上につながらないことを好き勝手にやっているように見えて、分断が起きてしまうことも。そこは、ワークショップでリードユーザーと共創したり、ユーザーリサーチの場に見学に来てもらうなど、みなさんを巻き込むプロセスのデザインが大事です。車椅子ユーザーのお話を聞くだけでなく、実際に車椅子に乗って体験してみることで、自分ごととして理解できます。
 
白井:疑似体験ってすごく大事だし体験してもらいたい反面、当事者からすると、あくまで疑似体験であると認識してほしいです。疑似体験で視覚障がい者の見え方がわかった じゃあ…と答えを出すのではなく、こんな人たちもいる、こういう苦労もあるって認識してもらえれば。
 
タキザワ:本来は時間をかけて様々な体験や対話を通じて、徐々に理解していくことが大切ですよね。プロジェクトの時間が限られる中で、いかにバランスを取るかは常に模索しています。
 
車戸:日本のまちづくりに携わる日建設計も、 一歩前に出てインクルーシブなまちづくりや体験を提案していかないといけないと感じています。先ほどの点字ブロックでも、新たな基準を作ってスケールしていくとか。インクルーシブデザインを社会実装するためのプロセスも提案していけたらと思います。

<ゲストプロフィール>
 
タキザワケイタ
PLAYWORKS株式会社 代表取締役 インクルーシブデザイナー
障がい者など多様なリードユーザーとの共創からイノベーションを創出する、インクルーシブデザイン・コンサルティングファーム で活動。
 
村田菜生
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
前職、ユニバーサルデザインの会社で、障がいのある当事者の視点を活かしたバリアフリーマップやロゴマーク、イラストなどの制作をした経験から、「わかりやすいデザイン」とは何なのかを考えて活動。 
 
白井崇陽
ヴァイオリニスト、視覚障がいリードユーザー
全国各地での演奏の他、学校での講演(トーク&ライブ)・舞台音楽への参加・アニメやゲーム音楽のレコーディング・ラジオパーソナリティ・囲碁など、幅広く活動。


車戸高介
日建設計 都市・社会基盤部門
都市開発グループ 企画開発部 プランナー

日建設計での都市開発コンサルティングの傍ら、「アートでつなぐ、視覚障がい者の新たな道。」をコンセプトとした取り組みSTREET ART LINE PROJECTで活動。


イベントは、2023年4月にオープンした、日建設計が運営する共創スペース“PYNT(ピント)”で開催されました。社会を共有財の視点で見つめ直し、思い描いた未来を社会に実装するオープンプラットフォームを目指しています。暮らしにある「違和感」を一人一人が関わることのできる共有財として捉え直すことで、よりよい未来を考えるみなさんと共同体を作りながら、イベント・展示・実験などを通して解像度を上げ、社会につなぐステップを歩みます。

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