つな木 Challenge5 ― 札幌都心を使い尽くす!|公共的空間 × つな木 ―
亀井 聡
日建設計 グロ-バルデザイン部門 GD設計部(中国)
シニアプロジェクトアーキテクト
私たち日建設計は、木質・木造の開発研究を行うチーム Nikken Wood Lab(以下Lab)を中心に、中規模・大規模の木造プロジェクトを進める傍ら、極小木造の可能性を探る「つな木」の研究開発を進めています。これは、広く木材利用の普及・促進を図ることで森林資源保護と地方創生を両立させると同時に、コロナ禍におけるライフスタイルの変化や医療現場への対応、またパブリックスペースの利活用など、現代社会が抱える諸課題に対して社内外のコラボレーションによりゴールを目指す取り組みです。
今年はそのトライアルフェーズとして多彩な「つな木 Challenges」を実施中です。今回は、5つ目のチャレンジについてご紹介します。
「どこでもつな木」の開発の一環として、遊休地を活性化する試みを社内外のコラボレーションにより検討しています。今回は、札幌都心の大通公園という公共的空間を活性化する試みで、つな木の「可変性」「機動性」「地域性」へのチャレンジを行いました。
札幌都心まちづくりプラットフォーム公共空間活用プロジェクト
今回は、2021年10⽉8⽇~ 11⽇に北海道札幌市と札幌都心プレイスメイキング実行委員会が共催した公共的空間活用プロジェクト「⼤通うぇい!〜世界一コミュニケーションが誘発される街〜」の実証実験に、協力企業のひとつとして、「どこでもつな木」を提供しました。また、太陽光発電パネルと蓄電池を搭載する、開発中の「クールつな木」のトライアルも行いました。
このプロジェクトは、官民のイノベーターがタッグを組んで札幌都心の公共的空間を活用するプラットフォームをつくる、という取り組みです。そこでは、子ども、大人、行政、民間など、多様な公共的空間活用アイデアの発案者とサポーターが協働し、様々な制約や課題に立ち向かうプロセスを様々なメディアを通して公開していきます。プロセスを公開することで公共的空間活用の敷居を下げ、公共的空間活用のプレーヤーやアイデア、協働やコミュニケーションの機会を増やすことで、札幌を「世界一コミュニケーションが誘発される街」にすることを目指しています。
こちらからプロジェクトの詳細がご覧いただけます。
今回の実証実験は、札幌都心のシンボルである大通公園で、市内の高校生が考えた企画を実現するというものでした。我々は、その企画のひとつであるコワーキングスペースの家具として、つな木を提供しました。
提供した4基のうち2基の木材は、プロジェクトの実行委員会が、今回の実証実験のために、地場の製材業者さんの協力を得て準備したものです。垂木は、ヒバの集成材端材の再生材(パーフェクトウッド)、天板パネルは、道産ミズナラの無垢床材の端材から、製材所の社長さんの指導の下、地元の大学生が作ってくれました。地場の想いが詰まった、北海道つな木です。
北海道は全国の四分の一の森林面積を保有し木材量は豊富であるものの、パレットや木箱の需要が多く、細かい加工を得意とする工場は少ないそうです。クランプによる組立、解体、再利用ができ、細かい木材加工が不要なつな木は北海道の木材市場にぴったりです。これからもつな木で北海道産材どんどん活用していきたいと思います。
写真1 製材所で指導を受ける地元の大学生と道産ミズナラの床材
写真2 ヒバの再生材とミズナラの床材による北海道つな木
実証実験は、平日と週末を含む4日間の日程で開催されました。初日は朝早くから設営。共同開発の三進工業さんも大阪から駆けつけてくれました。企画に参加した高校生たちが、張り切ってつな木の組み立てに挑戦しました。最初はうまくいかなかったラチェットでのボルト締めも、慣れてくればお手の物。組み立てれば組み立てるほど、どんどんつな木のことを好きなってしまうようで、会期終了時には、学校に設置できるように企画を考えます、と言ってくれた高校生もいました。企画、楽しみにしています。
写真3 高校生とのつな木の組立作業
コワーキングスペースには、つな木以外にも北海道産木材や道内で出た廃材を活用した家具が並び、大通公園周辺で働く方々や協賛企業の方々によって、デスクワーク、web会議、打ち合わせなどに使われる実証実験が行われました。
写真4 様々な木製家具による屋外コワーキングスペース
また、今回の実証実験では、コワーキングスペース以外にも、ロンドンバスによるコミュニケーションカフェ、防災用トイレとテントによる世界一キレイな公衆トイレ、クリエイターズライブラリー、再利用水ランニングステーション、移動和室での防災ワークショップなど、高校生が考えた、もっと公園に来たくなるアイデア企画が並びました。つな木は、コワーキングスペースとしてだけでなく、他の企画のための居場所のひとつとしても使われていました。
写真5 コワーキングスペース
写真6 ロンドンバスのコミュニティカフェ
写真7 防災用トイレとテントによる公衆トイレ
地元の企業とコラボレーションして、つな木をアレンジする試みも。つな木と同様にSDGsに取り組む、「コープさっぽろ」のエコセンターとのコラボレーションで、スーパーで回収したペットボトルを使って、高校生と大学生がつな木を空間デコレーションしました。机上を照らすシャンデリア、日射を乱反射して和らげる透明簾、透明な素材を活かして光をデザインする工夫です。夕暮れ時にライトアップするとより魅力的な空間が生まれました。解体後にはみんなで踏んで潰してリサイクルのお手伝い。体積を減らすために小さく潰すのが大変だと、エコセンターから教わっていました。
写真8 ペットボトルによるアレンジとライトアップ
イベント終了後、今回使用したつな木は、北海道日建設計に展示利用されています。少し離れた北海道日建設計まで、大通公園の中を高校生たちがつな木を曳いていく姿を見ると、これから先、大通公園だけでなく、札幌都心のどこにでも、こうして活躍の場を得たつな木のある風景を想像してしまいました。
写真9 公園内を曳かれるつな木と北海道日建設計での展示利用の様子
今回のプロジェクトへのつな木提供を通して、北海道の森を見て、木材関係の方々とお話し、北海道の森特有の植生や林業の営み知り、北海道の製材工場とのこれからの協働の可能性を感じることができ、大変実り多き機会となりました。今後も、北海道の木のぬくもりを身近に感じてもらえる機会づくりから、北海道の北海道産材による中大規模木造建築の実現まで、夢を膨らませてお付き合いしていきたいと思います。
札幌都心まちづくりプラットフォーム公共空間活用プロジェクトについてもっと知りたい方はこちらの動画もご覧ください。
亀井 聡
日建設計 グロ-バルデザイン部門 GD設計部(中国)
シニアプロジェクトアーキテクト
札幌都心プレイスメイキング実行委員。北海道札幌市生まれ。
中国の大規模複合施設やTODプロジェクトを主に担当。日建設計(上海)にも勤務。生活や産業、経済活動といった人の営みと、都市や自然環境が織りなす壮大な風景づくりに関わりたいという想いで建築設計に取り組む。
グローバルとローカルをつなぐ役割になるべく、地元札幌でのリモートワークトライアルに取り組んでいる。