インダストリアル建築の進化と未来|vol.04|インダストリアル建築のポテンシャル Industry4.0から次の未来へ
五十君 興
日建設計 設計監理部門 設計グループ
デザインフェロー
Industry4.0がもたらした進化の方向
これらの事例から分かるようにインダストリアル建築は複合化、多様化してきています。その背景にはIoTでモノやコトがつながっていくIndustry4.0があり、製造業や物流業の立地稼働の自由度が増して都市内立地の可能性が高まっていることが考えられます。ヤマト港南ビルのように物流とオフィスと展示施設の合体や、香港AMCのようなフレキシブルな製造を受け入れ物流と製造が一体になった施設が今後も生まれてくるでしょうし、先にインダストリアル建築の用途別定義を示しましたが、もはや単一機能や用途で建築を分類する範囲を超えた状況が生まれているのです。将来は建築物の用途ジャンルという概念が再構築され、都心に建つ生産施設・物流施設も増えるでしょう。半導体製造工場を核として工場以外の用途を包含した建築やそれらが集積した半導体都市が生まれようともしています。また今まで考えられなかった学校や病院と合体するような生産施設・物流施設なども生まれてくるかもしれません。用途の複合化はインダストリアル建築をますます社会に開かれたものにし、その立地も都心回帰が予想されます。
都市とインダストリアル建築の融和 パブリックスペースのひろがり
インダストリアル建築という概念はさらに広がり変化していきながら、より個人の生活や感性に寄り添ったものになり身近な存在になっていくと考えています。その中で注目していく事象がインダストリアル建築にパブリックスペースが組み込まれていく進化です。羽田クロノゲートや豊洲市場では広大なパブリックスペースがあり市民が利用できるようになっています。ヤマト港南ビルの展示ギャラリーも営業時間内は誰でも入館でき、香港AMCのロビーは隣接するビルをブリッジで結ばれ行き来できます。4例とも守秘性の高いエリアはしっかりとガードしながら一般の方が入れるパブリックゾーンが組み込まれています。敷地がフェンスで囲まれ都市から隔離されたものではなく、開放された空間が豊かにデザインされ用意されていることはこれからのインダストリアル建築のあるべき姿でしょう。
インダストリアル建築こそ環境に貢献
2050年CO2排出ゼロにむけて社会が進むなかで、これからのインダストリアル建築は一般建築以上にエネルギー消費を抑え脱CO2に率先して貢献していく建築であるべきです。製造過程や物流ネットワークの中での脱炭素への取り組みだけでなく、建築としても消費エネルギーを減らしながらエンボディカーボン削減に貢献していくことが求められます。都心回帰で複合化されたインダストリアル建築の未来像は、生活者に寄り添った多様な用途の複合体でありながらエネルギー消費を抑えたクリーンなものと確信しています。
インダストリアル建築の未来
ここまで事例を通してインダストリアル建築の進化について探ってきました。私たちの生活に直結するインダストリアル建築のポテンシャルの高さに気づいていただけたでしょうか。変化のスピードが速いのもインダストリアル建築を取巻く環境の特徴です。コロナ禍を経て私たちの働き方が劇的に変化したように、インダストリー環境は無人化、省人化が加速しています。しかし人間の介在がゼロになることはありません、人どうしのつながりや快適性がこれまで以上に重要なファクターになってくるでしょう。これからもインダストリアル建築に関心を持っていただければ幸いです。
五十君 興
日建設計 設計監理部門 設計グループ
デザインフェロー
1983年日建設計に入社。単体の建築だけでなく、複合化された都市レベルの巨大建築設計まで広範囲に手掛ける。「成田空港旅客ターミナルビル」「明治イノベーションセンター」「羽田クロノゲート」など空港ターミナル、研究施設、物流施設において時代の先端を切り開く施設を設計。医薬品・食品・電子機器などの工場・研究所をはじめ、長野オリンピックフィギュアースケート会場「ホワイトリンク」のようなアリーナ、重粒子線がん治療施設「佐賀ハイマット」なども手掛ける。JIAサステナブル建築賞、公共建築賞、日経ニューオフィス賞などを受賞。
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