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「つな木」のエンジニアリング①|クランプ金具とプロジェクト紹介

江坂 佳賢、瀬口 翼
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ
設計監理部門 デジタルデザイングループ DEL(NWL)

はじめに

私たちNikken Wood Lab(NWL)は、これまで様々な「つな木」プロジェクトについて主に意匠設計者の視点から紹介してきました(これまでの記事はこちら)。
今回からは『「つな木」のエンジニアリング』と題して、構造設計者の視点から「つな木」の特徴と「つな木」プロジェクトについて全3回にわたり紹介していきます。

「つな木」とクランプ金具

「つな木」とは、小径の木材とクランプを使って、だれもが簡単に組み立て、解体・移設できる木質ユニットのことです。Nikken Wood Labでは、「つな木」を提案し、普及させていくことで、木材利用の促進や森林資源の良好な循環に寄与することを目指しています。

図1「つな木」のコンセプト

建築とは異なるスケールの活動であり、新しいチャレンジとなる「つな木」の提案のため、下記のような体制で開発を進めてきました。
・三進金属工業:クランプ製造・販売、ユニット販売
・江間忠木材:木材加工・調達協力
・篠原商店:木材加工・調達協力
・もちひこ:外装膜製作・加工協力
・日建設計:企画・プロデュース
 
通常の木造建築では、仕口加工と呼ばれる特殊な凹凸部を材料に設け、それらを噛み合わせることで木材同士を接合しますが、「つな木」では、木材に加工を施すことなく容易な組み立てと解体を実現するために、締付け型のクランプ金具を使用しています。このクランプ金具は45mm角の木材を掴めるコの字型の金具二つが背中合わせにつながった接合金物です。これが「つな木」の構造的な特徴になっていきます。

写真1 接合部の比較 (左:一般的な接合部、右:「つな木」クランプを使った接合部)

「つな木」活用事例①:北谷公園

これまでNWLでは、「つな木」を使った様々な提案を行ってきました。ここからはこういった提案を実現させるために行ってきた構造的な検討についての概略を紹介します。詳細は次回以降の記事で説明していきます。
まずこちらは渋谷区立北谷公園で期間限定ブースとして活躍した「つな木」です。

写真2 北谷公園での「つな木」活用事例
(左:ユニットを組み合わせたとき、右:ユニットを分解したとき)

形状はいたってシンプルな直方体のフレームですが、3つのユニットを組み合わせることで1つの大きなユニットとして使うことも可能です。
 
こういったシンプルなフレームは今後も様々な場面で使用することが考えられるため、汎用的な構造検討ツールを作成し社内展開を行いました。

図2 構造検討ツール検討イメージ


またその他にも、簡単にユニットを移動させられるようにキャスターを付ける、屋外使用時の風対策として公園のポールに係留するための金具を用意するなど、その場に適したカスタマイズを行いました。

写真3 キャスター金具と係留金具

「つな木」活用事例②:帯広

続いて、木材とクランプ金具のみでフレームを作っていく「つな木」の仕組みを構造的に応用した事例として、2020年10月に北海道帯広の屋外に設置した直径5.4mの木造ドームを紹介します。
 
このドームは、三角形の木製ユニットの各端部をクランプ金具で接合し、それを立体的に繰り返す構造体によって構成されています。フレームは、レオナルド・ダ・ヴィンチの名を冠したダヴィンチ・ドームのジオメトリ―を活用しています。なお、この三角形の木製フレームは、ドーム解体時には椅子やテーブルにトランスフォーメーションし利用可能です。

写真4 ドームのジオメトリ (左:三角形ユニットが繰り返される内観、右:三角形ユニット)

このドームでは、クランプ金具のコの字が背中合わせになっている部分が回転する回転クランプ金具を使用しています。回転クランプ金具は、材直交方向にも若干の回転が可能なため、小径の木材のしなりと組み合わせて材軸を少しずつずらすことで、特殊な仕上げ加工を必要とせずに、立体的な空間を生み出すことが出来ました。

写真5 回転クランプ金具を使ったドームの接合部 (左:膜を支える束材とクランプ金具、右:張力導入の様子)

木製フレームの外部には透明・半透明の膜を張り渡し、膜をピンと張ることで構造物全体の安定化を図っています。フレームの複数のポイントから膜を張るための束材を出しており、この束材を膜に押し込んだままクランプ金具で締結することで、膜の形状を安定化させるための張力を導入する仕組みになっています。
クランプ金具を構造的に最大限利用することで、快適な内部空間と独特の外観をもつ構造物を作り出しました。

写真6 「つな木」ドーム設営風景

まとめ

今回は、クランプ金具の紹介と構造設計者から見た「つな木」プロジェクトの概略について紹介しました。次回の記事では、活用事例①:北谷公園についてどのように構造的な安全性を検討していったかを解説していきます。


江坂 佳賢
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ 兼
設計監理部門 デジタルデザイングループ DEL(NWL)
ダイレクター
素材の特性を活用した構造設計を目指し、接合技術の開発等にも取り組んでいる。主な担当プロジェクトは、有明体操競技場、選手村ビレッジプラザ、九州フィナンシャルグループ福岡ビル、東京スカイツリーなど。構造設計一級建築士、技術士(建設部門・総合技術監理部門)。

瀬口 翼
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ 兼
設計監理部門 デジタルデザイングループ DEL(NWL)
構造エンジニア。専門は木質材料・木質構造。適材適所の木材利用を想って日々構造設計に取り組んでいる。家中の棚をDIYで作りきってしまい木材を余らせているのが最近の悩み。

共同開発チーム
・株式会社日建設計(Nikken Wood Lab):企画、デザイン
・三進金属工業株式会社:クランプ製作・販売、ユニット販売
・江間忠木材株式会社、株式会社篠原商店:木材調達・加工
・株式会社もちひこ:外装膜製作・加工
 
クレジット情報
写真1:篠原商店

リンク
・「つな木」公式サイト(https://tsunagi-wood.jp/
・「つな木」オンラインショップ(https://kanehisa.official.ec/categories/4820191



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