つな木 Challenge1 ― 木×人+人×人。「つな木」のトランスフォーメーションが生む木育 ―
大和田 卓
日建設計 設計部門 Nikken Wood Lab
プロジェクトデザイナー
徳島での つな木PJ 第二段! 多様なトランスフォームを可能とする つな木 の導入
私たちNikken Wood Lab(以下Lab)は、日建設計の木質・木造の開発研究を行うチームで、中大規模の木造プロジェクトを進める傍ら、極小木造の可能性を探る「つな木」の研究開発を進めています。これは木材利用促進を面的に広げると同時に、コロナ禍におけるライフスタイルの変化や医療現場への対応、またパブリックスペースの利活用や地方創生など、現代社会が抱える諸課題に対して社内外のコラボレーションによりゴールを目指す取組みです。
図1 本稿で紹介するつな木は、同量の木材とクランプを用いて、6種の つな木 にトランスフォームすることができます。※1
本稿では、徳島県庁のワークプレイスでの経験を生かして開発を進めた、同量の木材とクランプを用いて、いくつもの形態にトランスフォームすることができる「つな木」が、2020月10月に徳島で行われた木づかいフェアやカフェイベントに導入された様子を報告します。
今回のチャレンジで特筆すべき発見は、つな木 が短い期間の中で様々な用途として使われ、その都度、トランスフォーム・カスタマイズが行われたことです。一般流通木材とクランプだけでつくことができる つな木の可変性や汎用性の高さが、改めて実証されました。また、つな木をつくり・つかうことで生まれる木と人、人と人の交流を通じて、「木育(もくいく)」※2の場づくりになることにも、気づくことができました。
誰でもつくることができる「つな木」を通じて、徳島県産木材の活用の多様さを伝える
図2 徳島県の山村。昔から森林に寄り添った生活が営まれてきました。
さて、徳島県の森林と聞くとどのようなイメージを思い描かれるでしょうか。
実は徳島県は、県土面積の約76%を森林が占める全国有数の「森林県」です※3。一方で、そのうち約94%が民有林であり、外国産の安価な製材の輸入拡大に押され、林業の衰退が進み、管理が滞ることによって、森林の多面的な機能低下が懸念されています。この状況を改善すべく県は、県民が木に触れ、木を知り、木を使い、木の良さを伝える木材活用を通じて森林の恩恵を未来へ継承する「県民総ぐるみの木づかい運動」※4を推進しています。
誰でも簡単に組立て・変形が可能な「つな木」のコンセプトはこの運動の理念と合致していることから、徳島県庁スマート林業課の主催により つな木 を通じて県産材を県民にもっと身近に感じてもらい、木材活用の多様さを伝えるための場を、3か所で設けることになりました。
とくしま木づかいフェア ― 協力してつくる木育の発見
図3 徳島スギ材を用いて4基の つな木 をつくりました。
10月17-18日、とくしま木づかいフェア※5のメインイベントとして「つな木ワークショップ」が行われました。開催地の あすたむらんど徳島は年間約50万人が訪れる県立公園で、多くの親子連れで賑わうため、その場所性を活かして、県庁職員と親子が一緒に つな木 をつくることで木材活用の多様さを実感する「木育」の場を企画しました。
図4 材長ごとに木材を整理してクランプを取付けます。主な材料は3種類の長さの木材とクランプだけです。
図5 つな木の骨格が完成したら、ブレースと天板を取付けます。
図6 45mm角の徳島県産の一般流通木製材(徳島スギ)に、現在、開発を進めている木製材用クランプを初実装しました。クランプの穴にはブレース等の取付けができます。
図7 ワークショップでは親子と協力して組み立てを行いました。
図8 ワークショップに参加して頂いた親子には、つな木ワークショップの記憶として「つな木マイスター・ヤングマイスター」賞状をお渡ししました。
図9 開会挨拶後の記念撮影。飯泉徳島県知事(左)とNikken Wood Lab大庭(右)
このように、つな木ワークショップでは、木に触れ・木を用いて空間をつくる体験を通じて、木と人の繋がりだけでなく、老若男女が集い「協力してつくる」ことで、人と人の繋がりやコミュニケーションがたくさん生まれました。
コーヒーフェスティバル2020 ― 工夫してつかう木育の発見
図10 カフェイベントでは、部材を組替えてポップアップショップとして転用されました。
図11 イベント最終日には、臨時船着き場の受付としても転用されました。用途に合わせて様々な形態へとトランスフォーム・カスタマイズがなされました。
図12 書店としても活用されました。コロナ対策の飛沫防止フィルムや照明が取付けられました。
木づかいフェアで完成したつな木は、翌週には徳島市の「万代中央ふ頭」で開催されたジャパンコーヒーフェスティバル2020 ※6のポップアップショップとして転用されました。つな木がショップとして活躍するのは OUTDOOR LOUNGE に次ぐ2回目です。フェアで完成したつな木は、天板高さを調整し一部部材を組替えることで、飲食店や船着き場、書店へと変貌を遂げました。また、普段からDIYをしない人でも簡単にアレンジを加えていたことからも、本つな木のショップとしての利便性の高さやカスタマイズのしやすさが実証されました。
図13 出展者がつな木をトランスフォーム・カスタマイズし、各々の個性を表現していました。
特にショップへの転用では、つな木の特徴である木枠が活躍しました。各々の出展者が木枠を有効活用しながら、店舗サインや照明、コロナ対策の飛沫防止用ビニール布等を取付けるなど、木を使ったトランスフォームやカスタイマイズがそれぞれの店舗の個性として現れました。つな木を「工夫してつかう」こともまた、木育に繋がっています。
おわりに ― つな木の組立・トランスフォーメーションが生む木育
フェアやイベントを経験したつな木は現在、3か所目の住処として徳島県農林水産総合技術支援センターにて、農業生産の道へ就職就農を目指す農業大学校の学生が育てた野菜等を販売するスタンドとして活用されています。ここでも、県庁職員や学生が中心となり組立てを行い、日々、使い方に応じたトランスフォームがなされています。
このように、今回のチャレンジにより、つな木の組立てやトランスフォーム・カスタマイズのしやすさを通じて老若男女が必然的に 協力してつくる ことや 工夫してつかう 機会が生まれることを実感しました。木と人、人と人の新たなつながりを生む。これが、つな木の持つ「木育」の力ではないでしょうか。
Nikken Wood Labでは、本チャレンジでの発見や反省を今後の開発にフィードバックし、つな木がより多くの人にとって愛されるものになるよう、そして、木材利用の促進の拡大や木育に貢献できるよう、尽力していきます。
図14 現在、農業大学校の農作物の販売スタンドとして活躍中。
これからも自治体や民間企業とのコラボレーションにより、様々なトライアルも計画をしており、「つな木 Challenges」として紹介していきます!
注釈・補足等
※1:「在宅×つな木」:本つな木の開発ではコロナ禍で在宅勤務が増えた反面、住宅の労働環境改善が進んでいないことに着目した。最大の特徴は、状況に応じて同じ部材・数量でワークデスクやブース、ベッドブース(コロナ対策)、棚やソファ等の異なる形態に変形すること。材長の種類を限定し、いずれの形態でもクランプ固定位置を統一することで組替えのしやすさにも配慮した。開発当初は在宅勤務環境を整備するために検討を進めたが、今回のチャレンジを通じてショップ等としての利便性・トランスフォームのしやすさも実証された。
※2:「木育(もくいく)」は、幼児から高齢者までを対象とした、生涯にわたる幅広い活動。木についての様々な体験は、単に木についての理解を深めるだけでなく、鋭い感性や自然への親しみ、森林や環境問題に対する確かな理解の基礎を育むもの。(www.mokuiku.jp より引用)
※3:平成29年3月31日現在、林野庁調査より。全国平均は67%。
※4:「木づかい」とは、毎日の生活に国産材製品を取り入れるだけで誰でも手軽にはじめられるエコ運動。「木づかい=木を使うこと」木を知り・木を使い・木を活かし・森を育む 地球環境への気づかい。(林野庁 木づかい普及啓発テキスト「木の基本」より。)
※5:つな木ワークショップ|とくしま木づかいフェア
日時:2020年10月17日(土)、18日(日)、場所:あすたむらんど徳島
コラボレーター:来場者、徳島県庁、とくしま木づかい県民会議、徳島県木材協同組合連合会
木づかい運動のひとつである「とくしま木づかいフェア」は、とくしま県民会議に所属する団体が中心となって行うイベントで、木を体験することで木づかい意識の醸成を図ることを目的としている。イベントでは、保育所に木のおもちゃが当たる抽選会や子供から大人までが応募した木材作品から優秀な作品が表彰、展示されるなど身近な木づかいの体験がいろいろな形で提供された。
※6:つな木ポップアップショップ|ジャパンコーヒーフェスティバル2020
日時:2020年10月23日(金)-25日(日)、場所:万代中央ふ頭(徳島市内)
コラボレーター:アクア・チッタ、徳島県庁、とくしま木づかい県民会議、徳島県木材協同組合連合会
※7:「つな木」は、2020年11月現在、特許・商標登録の出願中。
※8:「つな木」関連の note 記事へのリンクはこちら。
共同開発チーム
・株式会社日建設計(Nikken Wood Lab):企画、デザイン
・三進金属工業株式会社:クランプ製作、ユニット販売
・江間忠木材株式会社、株式会社篠原商店:木材調達
・協力:キョーラク株式会社(外装膜製作)
クレジット
図14 徳島県庁撮影
大和田 卓
日建設計 設計部門 Nikken Wood Lab
プロジェクトデザイナー
Nikken Wood Lab に所属し、主に木関連プロジェクトに従事。
ドイツ南西部、モミの木が豊かな黒い森の村で育つ。設計業務の傍ら、スイスの板倉造りや日本の農山漁村の景観を研究。「景観をつくる」をモットーに、木文化を通じて人/自然/生業/建築のネットワークを強くする活動に勤しむ。
渋谷区北谷公園、旭川空港国際線増築棟、日本平山頂シンボル施設プロポなどを担当。