難問? 奇問?「影を慕いて」「酒は涙か溜息か」の作曲者名
❖戦後音楽史,「美空ひばり」が出題される時代
大学入試の日本史では,文化史がそれなりの割合で出題されます。文学史,建築・彫刻史,絵画史,芸能史,仏教史・・・・・・覚えることが多すぎて,そりゃもう大変です。試験直前にまとめて丸暗記するか,「出たら捨てる」くらいに開き直って本番に臨む受験生も少なくないことでしょう。
そんな重厚な日本文化史にあって,音楽史はスカスカなのでラクです。せいぜい滝廉太郎,山田耕筰,三浦環(オペラ歌手),宮城道雄あたりを押さえておけば事足りるだろうと。
いやいや、意外な伏兵が潜んでいました。
昭和歌謡界の女王・美空ひばり。日本史の教科書,用語集にもちゃんと載っているんですね。
「よし,ここから出題してやろう!」作問者にとってはシメシメです。
かくして,こんな問題が作られました。
❖明治大学の「求める学生像」がココに!
おっと,美空ひばりを直接問う設問かと思いきや,あさっての方向から攻めてきました。選択肢にあげられた5人の人物は,日本史の教科書,用語集には載っていません。虚を突かれた受験生も多かったことでしょう。
普通に言えば,確実に難問,奇問です。しかし,出題校が明治大学であることを考慮すると,あながちそうでもありません。
正解はCの古賀政男,明治大学の卒業生です。明治大学マンドリン倶楽部の創設に参画し,同倶楽部の演奏会で「影を慕いて」を発表しています。
つまり,この問題は明治大学の「求める学生像」を,すなわち「明治大学を志す学生なら,我が校の公式ウェブサイトをくまなく見ておくべし」と語っているのです。であれば,難問でも奇問でもありません。
❖「NHK朝ドラ・インスパイア系」入試問題
2020年3月からスタートしたNHK朝の連続テレビ小説「エール」。このドラマの主人公・古山裕一(こやま ゆういち)のモデルは,選択肢Bにあがっている古関裕而,そして古山裕一と同じ時期にレコード会社に入社した木枯正人(こがらし まさと)のモデルが古賀政男です。
同ドラマの第33話では,RADWIMPSのボーカル・野田洋次郎演じる木枯正人が「影を慕いて」を弾き語りで歌うシーンも放映されています。
作問者は,この朝ドラにインスパイアされて問題を作ったと考えてほぼ間違いありません(広い意味では時事・常識問題)。入試問題は約1年前から構想されますが,2021年度入試に充分に間に合うタイミングです。
すなわち作問者はこの問題を通じて,受験生に向けてこんなメッセージを発しているようにも思えます。
「受験生たる者は規則正しい生活をするべきであり,きちんと朝食をとり朝ドラを見てから学校に行くべし」と。
❖箱根駅伝よりも宣伝効果が高い!?
いずれにしろ,明治大学は「してやったり」です。
過去問としてこの問題に接した明大志望者は,教科書や用語集だけでなく,明治大学の公式ウェブサイトをくまなく見ることになります。予備校や塾でも,明大を志望する生徒にはそのような指導をするでしょう。
入試問題は「大学の顔」でもあります。箱根駅伝や大学野球,ラグビーに力を入れるよりもはるかに費用対効果の高い広報活動を,受験者から受験料をもらって行っている明治大学,伝統校ゆえのしたたかな広報戦略です。