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ようやく映画「ルックバック」の感想を書きました


『ルックバック』です。原作が好きでして長文感想を書いています。


 超好きなものは遠ざけるタチです。
 だって刺激物だからね。アタラクシア。
 しかしまぁみちゃった。
 映画館でもみてました。
 アマプラでもみました。
 感想を書きます。
 ネタバレを含みます。

映画冒頭。静止画にだんだん動きがついてくる感じ、マンガからアニメへ移っていくようで印象深い導入でした。

そして机に向かって四コマ「ファーストキス」作成に没頭する藤野。ここはさっそく原作にない描写でしたね。マンガにはやはり最初から真剣そのもの。「ちょっと忙しかったから五分で描いたんだけどね~」じゃ全然ないっていうね、知ってたけど笑。 アイディア一発勝負ではなくて「絵」のクオリティにもこだわっている後ろ姿。

このシーンに限りませんが映画だと演出+追加シーンのおかげで、もともとシンプルなお話だったのがいっそう分かりやすくなっていると感じました。

確かに絵への執念は小学生藤野の特徴ですね~。藤野はクラスメイトからももっぱら「絵の上手さ」を褒めてもらっています(「すっごく面白かったよ」とも言われてますが)。大人たちは絵だけを褒めている感じで、本人もとにかく絵の質を気にする。四コマでヒーローになれる時代を(たぶん)過ぎてからも描き続けていたのは京本に「絵」で勝つため。

絵に固執し続けたのはあくまで客観的な優劣がみてとりやすいから、みんなに勝ちだと示しやすいからだと思います、私の予想では。でも本当にみて欲しかったのは「マンガ」だったんでしょう。

そうそう、「ファーストキス」の映像化はアニメならではの演出でしたね。原作とは異なり、四コマの枠を外れて一続きのアニメ映像になっています。その映像のあとで改めて藤野の四コマが映る。凝っていて面白かったのですが、笑えるのは元の四コマの方。四コマのスピード感、一コマ前との乖離感が笑いにおいては重要なんだなぁと。でもこういう工夫が必要だったことはよく分かります。映画で四コマ漫画をみせるのは難しいね。

そして京本に褒められた藤野がだんだんと高揚していきスキップし爆走する名シーン。

ここは映画版の演出もよかった。

激しく揺れるランドセル、水たまりに片手つっこんでバシャー、ジャンプして両足からドボン。躍動感あります。

私はクルクル回転もしたんじゃないかと思っていました笑 いろんな奇行で想像していきたい。

入賞賞金を貰った藤野のセリフが、「この金でじゃんじゃん経済ぐるぐる回していこうぜ」から「この金でじゃんじゃん生クリーム食べに行こうぜ」に変わってます。このシーンに限らずですが、映画版は絵柄も含めて、藤野-京本の描写が幼くなっている気がしました。年相応‥‥かはちょっと分かりません、大人ぶって「経済回してこうぜ!」って言う小学生も割といそう故。

そういえば藤野の貧乏ゆすりとか、職員室で後ろ手をもみもみしてるところとかも映画版での追加要素ですね。これは人間味がでていてよい。私は藤本タツキさんの絵がめっちゃ好きですが、子供も無機質で大人びてみえますので、映画作品としては劇場版の絵柄や描写が合ってるのかも(嗜好でいえば原作絵>映画絵ですが)。

二人で映画を鑑賞するシーンにも言及したい。ここ印象に残ってます。映像の「KICK BACK」に……、ではなくて、私は集団の中では泣きたくないので、その意味で危険な「ルックバック」は文字通り斜に構えて鑑賞していたのです。すなわち映画館では映画館の藤野と瓜二つの姿勢でした。あえてやっていることとはいえ、自分の小学生ぶりには苦笑した方がよいのでしょうね(真顔)。アマプラ版では正面に構えてどっしり観ました。自宅サイコー! 

藤野-京本ペアが各地を遊び回りながら連載を重ねていくシーンでは、京本が藤野に手を引かれるシーンがいくつか追加されています。藤野に追いつけなくなりつつあって、これでは足を引っ張りかねないという京本の焦りが察せられます。そんな中で背景美術の本で描かれる作品たちに圧倒され、美大進学と一人立ちを決意する。藤野が回想した通り、絵がうまくなれば、早く描けるようになるとの考えもあったことでしょう。

映画版だと藤野がプロになってからアシスタントへ不満を述べるシーンが追加されていますが、京本と一緒にやりたいという気持ちがベタに表されております。

で、ここから悲しいシーンと。うーん。こっからはきつい。

殺人犯の方も苦しそうな表情。自己コントロールの余地なんて全くなさそうで、まぁ本来の性格というかは脳の病気ですよねこれは……。世界の理不尽さ。やるせない。

別世界シーンに関しては現時点でも以前の記事通りに解釈しています。あれは妄想の世界であります。換言すれば想像の世界。扉の内から想像する世界と、扉を開いてからの現実の世界とは全く異なる別世界。

扉をみて過ごすのか、誰かの背中をみて進むのか。どちらがよいのかは遂にはっきりしないまま、時間はつみ重なっていく。

映画版は藤野と京本との思い出の回想が原作よりも充実していますね(泣

あと、エンドロール中に藤野の後ろ姿が長尺で描かれているのも、最後に扉を閉めるシーンで終わっているのも映画オリジナル。良さを感じました。

終わったんだな、とか、続いていくんだな、とか。

いずれにせよ、藤野と視聴者との世界の扉は閉められたのだな、とか。

余韻がありますね。



余談

背景美術がよいですね。テントウムシとかもなぜか印象に残ってる。





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