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「90歳、何がめでたい」は教育書である

いわずもがな、佐藤愛子さんのベストセラーエッセー
90歳を超えているおばあちゃんが感じるままに言いたいことを言っている
人生を十分に生きたのだから、言いたいことを言ってもいいじゃないかという潔さと小気味よさが本全体からあふれ出てきていて、読んだ後書店でこの本の前を通るときは、なにか素通りできないような恐縮するような気までしてくる
とにかく面白くて、声を出して思わず笑ってしまう
ここまで笑える本も珍しい
ちょっと泣ける場面もある
考えさせる場面もある
ベストセラーは伊達じゃない。

佐藤愛子さんは90年以上生きているので、昔の不便だった時代もよく知っている
かつての日本と今の日本を実際に生きていた人が比較するのだから、面白い
昔は不便だった分、一つ一つが大変だった
だから、周囲の人と協働しなければならなかっただろうし、地域との連携も必要だったのだろう
まさに、今の文部科学省の方針がそこに見えるから面白い
生きていくために必要なことを、もう一度考えていく必要があるのだ
以前、中国に行ったとき、生きている実感がわいてきた
道路には穴が開いているし、段差だらけであった
つねに気を付けて歩いていないと、危険が迫ってくる
それでいて、人は優しい
満員の超巨大なバスに乗ったときには、小さい子を連れたお母さんに、
「ここが空いているぞ」
みたいにバスに乗っている人たち全体で声をかけ始め、わいやわいやと空気が湧いて活気がでてきて、その子がどこに座るか、争奪戦みたいになった
もちろん、その子が座ったら、ちょっと「わーっ」となって笑顔になり、それでまた他人の顔のようなバスの乗客に戻ったのであった
人が生きていくということはこういうことかと、改めて感じた中国の生活であった
日本は、本当に生きやすい
スマホをいじって歩いていても、道路に穴が開いていて落ちるなんてことはない
助け合わなくても、便利なものがそこら中にあって一人で生きていける
すごく親切だし、便利な国だと思った
佐藤愛子さんは、こう書いている

日本は便利になることを、もうやめた方がいい。井戸があったことに喜んだ、ポンプに感謝した。今では水道をひねれば水が出る。さらに高いビルの上でも普通に水が出る。こうした歴史も知らず、水が止まったら水道局に苦情が行く。日本人は、便利な生活と引き換えに、努力や忍耐、感謝という言葉を忘れてしまった。もっと快適に…新幹線が3分短くなった…え?そんなに早く生きていくことが大切なのか?進歩すべきは日本人の精神力。日本人総あほ時代がくるかも?

今、当たり前だと思っていることは、先人のたゆまない努力と苦労の結果なのだということを忘れてしまうと、人は生きていくことに傲慢になる
水道、電気、ガス、テレビ、電話、オンライン通話、携帯、スマホ…
幸せってなんなのか?ということを考えて、自分自身がきちんと生きていかなければならない
日本全体が引っ張る幸せの価値観について、本当にそれって幸せなのか?と自分自身が問いたださないといけない
そうしないと、本当の幸せを自分で決められなくなる

私は、布団を発明した人に感謝している
一週間、野宿を繰り返した
8日目に布団で寝たときは、宇宙で浮遊している感覚のまま、瞳を閉じたら一秒後に朝が来た
寝る、という当たり前のことを支えてくれる布団さん、ありがとう

犬には吠えて、泥棒から家を守る仕事があった。子どもが大きな声で鳴いて叫ぶのは、未来へ向かって駆け上がっていく勢いがあった。町はエネルギーに満ちて、うるさいほうがいい。でも、今は音が出ないようにみんながしていて、元気がなくてよくない。

犬も犬らしく生きてほしい
子どもも、子どもらしく生きてほしい
病院へ行って、騒いでいる子どもを見るとホッとする気持ちがする
やけに静かだと思っていたら、だいたい子どもたちはスマホかゲームをしている
その保護者も、スマホをいじっている
この前、スマホをいじっている子どもに、看護師さんが靴下をはかせていた
子どもはゲームをし続けて、表情が変わることもない
看護師さんは、ベテランなので笑顔でその子に声をかけ続けているが、反応もない
親も、お礼を言いなさい、という一言もない
日本はどうなってしまうのか怖くなった
時代遅れのおじさんの、取り越し苦労なのか?

せめて!せめて、学級の中だけは、人と人が生身で会話する世界を守りたいと思う
大きな声で、何かを言える
大きな声で、言いたいことを叫べる
友達とケンカできる
教室は社会から切り離された異世界とやゆされることがある
しかし反面、人と人とのコミュニケーションを昔ながらにでも行える最後の砦になるともいえる
学校という場所はどんな場所か?
地域に開かれたカリキュラムマネジメントの重要性が問われている今、もう一度議論したいことだと思う

人として生きていくことの本質を、佐藤愛子さんは伝えてくれる
教育者、必読のベストセラーではないだろうか
                          三浦健太朗

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