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今日は「私が授業で大切にしていること」をテーマにお話をしたいと思います。

私が授業で大切にしていることは、「楽しい」こと。もう一つは、「価値の転換」です。授業で大切にしていることは一人ひとり違っていいのだけれど、間違った指導・教育観は子どもの可能性を奪う危険もはらんでいます。子どもは授業で変わります。授業が楽しいと学校が楽しくなる。では、「授業が楽しい」とは何か?子どもの事例から一緒に考えていきましょう。

不登校から立ち直り、今は笑顔で学校生活を楽しんでいるM。Mは1年生の前期から不登校傾向になり、毎朝ギャンギャン泣いて、お母さんに無理やり連れて来られるようなお子さんでした。春には言うことを聞かなくなり、お母さんもお手上げ状態。週に1~2回は学校を休みます。驚かれるかもしれませんが、小学2年生の時点で「学校に行きたくないお子さんはかなり多い」のです。

Mが学校に来たくない理由はすぐ分かりました。朝来てから帰るまでの間、「友達との交流がない」のです。私たちも職員室で談笑すると心がほぐれるように、席に静かに座っていることほど苦しいことはありません。私は、心の通った対話が人間を豊かにすると考えています。だから、担任になってまず観察することは「その子がどれだけ自然に話しているか」です。しかし、「本来はおしゃべり」であるはずの子どもたちが、多くの教室において話すことを躊躇します。どうしてでしょうか?

春、私はMにあだ名をつけました。「ハッピーボイス」。理由は、Mは声の大きい女子だったから。Mは教室に居場所がなかったので、声という武器だけでも自覚させたいと思ったのです。そして、声が出ないときは叱りました。国語の音読で、ペアの話合いで。その貴重な声をもっと生かしたほうがいいと、かわいい2年生相手でも叱るときは本気です。そうこうしているうちに、Mが、授業中の友達の発言をノートにメモ書きしました。黒板の内容以外を書くなんて、そう褒められた他の子を真似てやったのでしょう。周囲の子の目線をちらっと確認をして、私は何も言いません。

この日から、Mの小さな挑戦がはじまりました。友達をツンツンしたり、授業中に隣の弱そうな男子から消しゴムを借りたり、誰かが指名されてから遅れて手を挙げる動作をしたり。静かにずっと座っていた今までにはなかった兆候です。そして、ついに、その日がやってきました。国語「ふきのとう」の音読劇で、Mが大声で発表したのです。その日の帰りの会では、「いいね発表」で初めてMの名前が上がりました。イケイケの女子から、がんばっていると言われ、赤面するM。このあたりから、遅刻の回数も目に見えて減っていきます。

すごい、別人のようにがんばっているね。ねぇ、どんな指導したの?そんなふうに、管理職や同僚によく聞かれます。しかし、Mに対して私がしたことは「直接的には何もない」、これが答えです。他の先生のように迎えに行ったり電話をしたり、相談に乗ることもありません。教室に連れてくるのもお母さんにがんばってもらいました。優しくない先生、傍から見ればそうかもしれません。でも、なぜか、私はMの気持ちが分かるのです。Mが心から求めているものは一瞬の優しさではなく、「自分を表現し、成長させてくれる場所」だからです。

Mは友達に認められたかった。だから、友達も納得するくらい「Mがすごくなる」必要がありました。ひどい言い方かもしれませんが、席にずっと座って何をしない奴が認められるような甘い世界はどこにもありません。会社でも使えないのに社長から「ひいき」されたら、立場がないですよね。だからこそ、Mが成長できるように場をつくります。場をつくるだけでなく、M自身に要求していくことも大切です。「友達に認められ、自分の能力を求められる」これが、Mにとって「授業が楽しい」だったのです。

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