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人称の基本を知ろう(5)〜一人称、三人称のどちらで書くか
小説のちょっとしたコツや小技をご紹介するシリーズ。
今回は「人称の基本を知ろう(5)」です。
前回の記事はこちら。↓
前回のおさらい
前回は、内面を書くときの重要なルールを説明しました。
ルールはこうです。
内面を書けるのは節で1人だけ
節とは、空行から空行までの文章の塊の意味で使っています。
ですから、だいたい1シーンになるでしょう。
1シーンで、内面を書いていいのは1人だけです。
そうしないと、読者が混乱するからです。
ですので、他人の内面を書きたい場合は、見たままを書くか、推測して書くことになります。
たとえば、三人称で太郎視点の場合、
太郎はすばやく花子を振り返る。
花子は焦っていた。(×)
とは書けません。
花子が焦っていること(内面)は、太郎にはわからないからです。
ですからその場合は、以下のように書くことになります。
花子の顔に焦りが浮かんでいた。(○:見たまま)
花子はじっとりと汗をかき、唇を噛み締めていた。(○:見たまま)
花子は焦っているように見えた。(○:推測)
花子は焦っているようだった。(○:推測)
内面が反映された表面(見た目)は書いていいです。
また、「〜ように」といった表現を使えば、内面を推測して書くことができます。
では今回の話をはじめましょう。
どちらの人称で書くか
今回は、一人称、三人称のどちらで書いた方がいいか、おおまかな判断基準を説明していきます。
とは言え、私自身はほぼ三人称でしか書きませんので(SSなどの短いものは一人称で書くこともあります)、一人称についてはそこまで経験がありません。
ですので、参考程度にとらえてください。
さて、どちらで書くかの判断基準は、主にこんな感じかなと思います。↓
人物メインの話か、物語メインの話か
物語の規模が大きいか、小さいか
視点特有の仕掛けがあるか、ないか
それぞれ簡単に見ていきましょう。
1.人物メインか、物語メインか
最初の基準は、何をメインに書くかです。
人物メインなら
一人称で書くことを検討
物語メインなら
三人称の方が良さそう
人物メインの話とは、主人公の心の変化や葛藤、成長などを主眼にした話のことです。
主観的に物語が進み、なにかの出来事を通して主人公が成長していく様を描くのが一般的でしょう。
こういった話は一人称を検討してみるのがいいと思います。
一人称では話者=視点人物になるので、読者も主人公と一緒に葛藤や成長を経験できます。
一方、物語メインの話なら、一般的には三人称が良いでしょう。
人物の変化はあるにせよ、どちらかと言えば物語の展開を楽しむような作品は、三人称の方が適しています。
ある程度、客観的に物語が進み、視点人物が切り替わることもあるでしょう。
さまざまな視点人物から物語を浮かび上がらせるのは、三人称でないと書きにくいです。
2.規模が大きいか、小さいか
2つめの基準は、物語の規模です。
規模が大きいなら
三人称が定番
規模が小さいなら
一人称でも書けそう
物語の規模が壮大なものなら、三人称でほぼ決まりです。
関わる人物が多く、舞台も組織や国、世界など大きめである場合は、三人称で書いた方が無難です。
そういった話を一人称で書くのはかなり難しいでしょう。
規模が小さい話なら、一人称でも書けます。
たとえば舞台が近所とか、学校とか、小さなコミュニティなどの小規模なものの場合、どちらかというと人物メインの話になるでしょうし、一人称を検討してもいいと思います。
3.視点特有の仕掛けがあるか、ないか
3つめの基準は、視点特有の仕掛けの有無です。
仕掛けがあるなら
一人称は仕掛けを入れやすい
仕掛けがないなら
一人称でなくてもいい
たとえば叙述トリックなどの仕掛けのある話は、一人称の方が選択肢が広がります。
一人称は地の文を視点人物が書いているため、勘違いや誤認情報、もっと言うとウソを書いてもいいのですね。
たとえば、「〇〇に殺されそうになった」と地の文で書いていても、実はその人が錯乱していたり、何らかの目的でウソをついていたとしたら、事件の被害者という情報はウソだったり、逆にその人物の方が加害者ということさえあり得ます。
ちゃんとした理由や理屈さえあれば、一人称は地の文でウソを書いてもいいのです。
ですから、最初からそういった狙いがあるなら、一人称を選ぶと出来ることはかなり増えるでしょう。
仕掛けがない話なら、特に一人称を選ばなくてもいいです。
三人称での地の文は、作者(カメラで見ている観察者)が書いています。
ですから、地の文にウソを書くことはできません。
地の文にウソを書いたら、読者に「アンフェアだ!」と怒られてしまうでしょう。
とはいえ、叙述トリックとは結局のところ「情報を隠す」ことで成立します。
たとえば、主人公は女性なのに、ずっと女性だとは言わなければ(情報を隠す)、読者は主人公が男性だと思い込むかもしれませんよね。
(また、そのように描写を重ねて誘導する)
そして最後に、主人公が女性であることが明かされれば、読者は「そうだったのか!」と驚くことでしょう。
(女性であることの意味は必要でしょうが)
ですから三人称でも、トリックを仕掛けることは十分可能です。
すれっからしの読者の中には、一人称だとトリックを警戒する人もいるでしょう。
三人称で上手く仕掛けを作れれば、そういった読者も驚かせることができるかもしれません。
オススメの決め方
さて、3つほど判断基準を説明しましたが、オススメの決め方はこんな感じです。
まずは三人称を検討する
判断基準を見て、一人称で書く理由が重要なら一人称にする
一般的に言って、三人称で書くことに慣れておいた方が、作家になったときに役に立つと思います。
一人称では書ける物語が限られるからです。
単純に言って、三人称の方が書ける物語の幅は広がるでしょう。
もちろん、どちらでも書ければそれに越したことはありませんが、長い話を書くなら、三人称の方が書きやすいことは確かです。
ですので、いま一人称で書いている方は、いずれは三人称に挑戦してみるといいと思います。
ただ、最近のネット小説を見ていると、一人称が多い気はしますね。
一人称の方がとっつきやすいという読者が増えれば、一人称が主流になる日も来るのかもしれません。
三人称でも一人称的に書くことはできますから(人物の背後にカメラを固定する)、ネットを意識するなら、一人称に寄せていくのもいいかもしれませんね。
今回のまとめ
小説のちょっとしたコツ「人称の基本を知ろう(5)」でした。
どちらの人称で書くか、おおまかな判断基準がある
メインは?
人物メイン:一人称を検討
物語メイン:三人称が書きやすい規模は?
大きい:三人称が書きやすい
小さい:一人称でも書ける仕掛けは?
仕掛けがある:一人称の方ができることは多い
仕掛けはない:一人称にしなくてもいい基本は三人称→積極的な理由があるなら一人称
ネット小説は一人称が多い傾向?
ネットを意識するなら一人称、または一人称に寄せた三人称にするのも手
ネットでは長い作品を一人称で書いている場合も多い印象です。
読者にとっては、一人称の方が親しみがあって読みやすいのかもしれませんね。
そういう理由があるなら、積極的に一人称を選ぶのもいいでしょう。
それではまたくまー。
(おまけ)
今回のタイトル画像は画像生成AIで作ってみました。
呪文はこんな感じです。↓
solo,{{{flat color}}}, monochrome,ultra detailed, grey hair, {{{writing novel}}}, white background, best quality,{{{1girl}}}, school uniform, looking at viewer,
こんなのとか。↓
けっこう面白いですね。
(手は苦手みたいです)
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(2023.3.23追記)
サポートしていただきました!
Love the PTA Toshi Inuzukaさん、ありがとうございます!!