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多くの人がしている「忘却曲線」に対する勘違い

教育工学、EdTechに関する事柄に触れていると、多くの人が「エビングハウスの忘却曲線」を話題に出す人が多いです。私はこれに一言を物申したいと思います。

まず、エビングハウスとは誰か。

ヘルマン・エビングハウスとは、1850-1909年に生きたドイツの心理学者です。
現代の心理学における実験心理学の先駆者の一人であり、特に記憶と学習に関する研究で知られています。

エビングハウスの忘却曲線

忘却曲線について

忘却曲線(Forgetting Curve)は、1885年に提唱された概念で、情報の記憶が時間とともにどのように失われていくかを表したものです。

エビングハウスの研究によれば、新しい情報を学んだ直後は記憶が鮮明ですが、時間が経過するにつれて徐々に忘れていきます。この忘却のプロセスは最初は非常に速く、時間が経つにつれてその速度は緩やかになります。

忘却曲線の特徴は以下の通りです。

  1. 急速な忘却の初期段階:学習した情報の大部分は最初の数日間で急速に忘れられます。

  2. 忘却の減速:時間が経つにつれ、忘却の速度は徐々に減少します。

  3. 長期記憶の安定(一部):一定期間を超えると、忘れる速度がかなり緩やかになり、一部の情報は長期記憶として残ります。

エビングハウスの忘却曲線

ここまでは、感覚的にもわかる話です。(これを定量的に検証したのがエビングハウスということになります)

復習の話

さて、そしてEdTechの話でもよく出てくるのが復習の話です。

簡単話、復習をすれば、記憶の保持力が向上していくというものです。

情報を繰り返し学習することで、それをより長く記憶に保持できることをエビングハウスは発見し、スペースドリピティション(間隔反復学習)の基礎となりました。

エビングハウスの忘却曲線×復習

よって、このように適切に復習をすれば、効果的に記憶を保持できるので、

「エビングハウスの忘却曲線に基づいて、復習すべき問題を出し分けるべきだ。」

ということがよく言われます。

まず、よくよく考えれば分かる驚き

先ほど私の述べた「エビングハウスの忘却曲線に基づいて、復習すべき問題を出し分けるべきだ。」というのは現代のICT化が進んだEdTech(Education×Technology)でよく言われる話です。

さて、エビングハウスの忘却曲線はいつの話でしょうか?

エビングハウスは1850-1909年を生き、1885年にこの忘却曲線を提唱しました。
つまり、約150年前の理論を、現代のEdTechに含めようとしているのです……。

私からしてみれば、AIによる自動運転の車に150年前のエンジンを搭載しているようにしか見えません……。
もっと考えるべきことがあるように思えます。

エビングハウスの実験を誰も理解していない

さて、ここまでは皆がエビングハウスの忘却曲線を正しく理解している前提で話をしましたが、根本的にエビデンスハウスの実験を勘違いしています(というより正しく知らない)。

エビングハウスが行った実験では、先入観や既存の知識の影響を避けるために、意味を持たない無意味音節(例:DAF、QEHなど)を使用し、それを学習した後に、どれだけ覚えているかを一定間隔後にテストしています。

ここで重要なのが、意味を持たない用語を使って実験しているということです。

例えば、意味づけを持つような以下のような用語の暗記はいっぱいしてきましたね。

Sophisticated

では、以下はどうでしょう?

LZPXFGAZFQPAN

同じ文字数なのに難易度がグッと上がります。そして、今回の実験ではもちろん語呂合わせも禁止です(語呂合わせは意味づけをする行為であるため)。
覚えるの、難しそうじゃないですか?

つまり、一般的に人間が行う「記憶」とエビングハウスの実験における「記憶」は大きな乖離があります。
意味づけがあれば、記憶は一気にしやすくなります。逆にエビングハウスの実験では、故意にその意味づけをなくし、覚えにくくしています。

この前提を履き違えている人が非常に多いです。

最初に戻り、「エビングハウスの忘却曲線に基づいて、復習すべき問題を出し分けるべきだ。」というのは、問題や英単語といったものはランダムな文字列のような意味づけのないものではなく、意味を持つものです。
つまり、エビングハウスの忘却曲線はそのまま適用できないということになります。

エビングハウスの忘却曲線から学べること

私が言いたいのは、エビングハウスの忘却曲線を知ったかぶりして、わかったつもりになって使うなということ、そして、いつの時代の話をしているんだということです。

ただ、文句ばかり言っても仕方がないので、本記事を読んだみなさんに押さえておいてほしい今回のポイントは2つあります。

①エビングハウスの忘却曲線をそのまま使う場合には、意味のないランダムな文字列にしか適用できないということ

②エビングハウスは意味づけをされると困るからランダムな文字列で実験をしたということ

①は散々話してきましたね。エビングハウスの忘却曲線は意味づけのあることには使えない概念です。
大事なので再掲です。

②が大事です。なぜエビングハウスはランダムな文字列で実験したのでしょうか?

それは、意味づけをもつものは記憶しやすいからです。
例えば語呂合わせが意味づけのよい例ですね。無理やり覚えようと意味を持たせようとします。また、電話番号なども意味づけですね。

要するに、エビングハウスの忘却曲線から学べることは、物事に意味を持たせれば記憶しやすいということです。
だから、結局のところ、問題をいつ再出題するかなどという根本からズレた話ではなく、いかに物事に対して意味づけをするかが大切になります。
→EdTechの開発の文脈でいえば、ユーザーに対して、いかに意味づけを提供できるかという話になります。

少しでも勉強・参考になれば幸いです。

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