アマチュアによる将棋の研究発表方法の変遷
従来の棋書はプロ棋士およぴ出版社による商業出版がほとんどであり、アマチュアによる自費出版や私家版、同人誌はほとんど確認されていない。(中には元奨励会員の希少かつ高度な必至問題集などもある)
しかし、近年は電子書籍の登場によりアマチュアでも気軽に戦術書を出版できるようになった。さらに「かんたん棋書エディタ」の登場により、Wordを調教せずとも簡単に商業出版書籍と遜色ないレイアウトを作れるようになった。これからもアマチュアによる棋書が増えていくかもしれない。
そこで本記事では電子書籍を中心にアマチュアによる研究のアウトプットの変遷を辿っていく。
1.インターネット登場以前(~1990年代)
近代将棋の中でアマチュアが考案した戦法というのは少なくない。ざっと思いつくだけで
「立石流四間飛車」
立石勝己氏が考案、2004年升田幸三賞特別賞受賞。
「メリケン向かい飛車」
横山公望氏が考案。『公望流 メリケン向飛車戦法』三一書房 1995年出版。
「英春流」
鈴木英春氏が考案。『必殺!かまいたち戦法―英春流のすべて(1988)』他多数書籍を出版。
などが挙げられる。この他にも学生将棋の間で広まっている定跡や戦法も存在するようです。特に鈴木英春氏は多数の棋書を出しており、現在のアマ強豪による戦術書出版の先駆けと言って良いのではないでしょうか。
2.ホームページ、ブログによる研究発表(2000年前後~現在)
2000年前後から、インターネット上で戦法の検討を行う人が現れました。色々な戦法の基本的な変化や独自の研究を無料で閲覧できるので、筆者も色々みて勉強しました。また、筆者自身もホームページを作って研究を載せていました(ヤフージオシティーズ終了により閉鎖)。この頃はまだ趣味で研究を発表している人がほとんどで、マネタイズしようという考えはなかったと思います。ただ、2000年代後半になるとアフィリエイト収入を得る将棋ブログが出てきたと思います。今でも残っているサイトで印象に残っているものは
白砂青松の将棋研究室(2001~)
升田式石田流や相振り飛車の手筋が載っている老舗サイト。棋譜アップローダーがあり、当時ネット上に棋譜を挙げるのに非常に便利だった。
四間飛車党の備忘録(2005~)
四間飛車中心のブログ。当時四間飛車のブログは少なく勉強になった。
将棋・序盤のStrategy(2009~)
管理人の棋力がかなり高い。当時はソフトによる序盤研究ができなかったため、高段者の研究が載っているこのブログは非常に価値が高かったと思う。
ゴキ研(2009年~)
ゴキゲン中飛車のブログ。
現代振り飛車ナビ(2013年?~)
アマ六段の二歩千金氏の運営しているブログ。角交換系の振り飛車を詳しく解説している。
将棋はソフト指しでおk(2015年~2018年)
将棋ソフトAperyを用いた高度な研究を発表している。この頃になると将棋ソフトによる研究が有力になってきている。
あらきっぺの将棋ブログ(2017年~)
元奨励会三段の荒木隆氏の運営しているブログ。プロの将棋の最新傾向を中心に、高度な内容を分かりやすく解説している。「現代将棋を読み解く7つの理論」を出版。有料版をNoteで販売してマネタイズしている。
3.電子書籍(2011年~)
将棋界の裏世界「Amazon Kindle セルフ出版 電子書籍」 販売書籍一覧に、2019年までのアマチュアによる電子書籍一覧が載っている。
山木耕路氏(2011年)
ゴキ研管理人。「ゴキゲン中飛車超急戦研究 第1章」「ゴキゲン中飛車対超速 銀対抗相穴熊 対袖飛車の研究」をDL-MARKET(運営終了)でPDF形式で出版している。レイアウト、内容ともに上質な様子。
松田基弘氏(2012~2013年)
「定跡裏街道~角交換振り飛車編~」「定跡裏街道~陽動振り飛車編~」を出版。当初はDL-MARKETで販売していたようだが、現在はAmazon電子書籍で販売している。
kindle登場以前はDL-MARKETにてPDF形式で販売されている。上記二つの電子書籍は電子書籍黎明期の本にもかかわらずレイアウトも内容もかなり上質な様子。当時はアマチュアの電子書籍が目に付くことは少なかったと思う(少なくとも筆者は知らなかった)が、もっと評価されても良いと思う。
レベル8氏(2013年~)
「B級戦法の切り札 風車右玉戦法!」「つめとき デラックス240」「メイドシステム」シリーズなどを出版している。電子書籍だけでなく、製本直送.comでプリント本も販売している。また、「棋書創刊術」にて棋書出版のノウハウを出している。
タップダイス氏(2014年~2017年)
トマホーク開発者。「アブノーマル三間飛車」シリーズや「トマホーク」シリーズを出版している。「棋書作成マニュアル」も出版しており、棋書作成テクニックをブログで紹介したり、アマチュアによる研究共著・雑誌出版の画策を試みたりと、筆者がやろうと思っていることをすでに検討していたが、難しかった様子。
しめりけ氏(2018年~)
あぴまる流将棋定跡シリーズとして、三間飛車の指しこなす本形式書籍を中心に出版されている。表紙もかわいくレビューも高評価。プリント本も出してほしいですね。
よっしー氏(2018年)
「筋違い角新定跡」、「平成最後の石田流破り」出版。ややマニアックな研究書で、掘り出し物かもしれない。表紙に高級感を出せばもっと評価されるのではないか。
つる氏(2018年)
定跡書、詰将棋多数出版。こちらも表紙やレイアウトの見栄えをさらに良くできそうな気がする。
「かんたん棋書エディタ」登場以前はみながレイアウトに四苦八苦している。とくにリフロー型の書籍は読み手が読み慣れておらず、不評な様子。将棋ブログやNoteならレイアウトに苦労することはないので、ブログ研究家の電子書籍参入の障壁となっている。
4.「かんたん棋書エディタ」登場(2020年~)
「かんたん棋書エディタ」登場で、電子書籍執筆のハードルがグッと低くなりました。特に将棋youtuberの参戦が顕著で、もともとのフォロワーの多さが売り上げに直結しているようです(羨ましい)。
5.今後(2021年~)
もともとアマチュアの土俵だったyoutube将棋実況にプロ棋士が参入していることから、kindleセルフ出版にもプロ棋士が参入する可能性がわずかながらあります。出版社を通さないメリットは、自由に執筆できる点、印税が高い点、デメリットは販促・流通が非常に弱い点。そもそも出版社を通さないのはタブーなのかもしれませんが…。
もしそうなればkindleセルフ出版にスポットライトがあたり非常に面白いと同時に、これまで以上にアマチュア棋書の品質を向上していかなければならないでしょう。
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