天女の「羽衣」は英語でなんという?
鶴田知佳子
学生と話していると、ときどき???としか、言えないような場面に遭遇する。
学生いわく、「日本的な表現がどのように英語で表現されているのか」、探そうと思いながら静岡のある観光パンフレットをみていたときのことだそうだ。
「羽衣は、robe of feathersというのですね。」
「???」
どうしてこういう結果になるのかは、文字を眺めていればわかる。羽と衣、これが機械翻訳であればまさにこのような訳になると容易に想像できる。
しかし、いかに何でもこれはおかしい、そもそもなぜこの訳になるのかと学生は疑問をもたなかったのだろうか。ためしに「羽衣」を画像検索すると、「シーチキン」(これも和製英語)の缶詰の写真がでてくるのは、企業名、「はごろも(羽衣)フーズ」との連想なのだろうと、これも容易に想像できた。
おそらく、羽衣は、羽のように薄い被り物、という知識がないから、こういう訳語でも疑問を持たないのだろうと思えるのだけど、羽衣、天女、などのようにいれないと、DeepLでもグーグルでも、上記のような訳語がでてくるのだろう。
※ちなみに、Deep Lでは羽衣の「羽」が付いている限り、変換するとfeathers の訳がついてきます。「天女の衣」と「羽」を抜いて初めて「robe of a celestial maiden」という訳が出てくる。
あらためて、羽衣について検索してみた。すると、竹取物語で最後にかぐや姫がかぶって天に昇っていくときのかぶり物が「天の羽衣」で、これをかぶされると心のありようも違ってきて、翁に育てられて翁を恋しく思う気持ちも断ち切り、天に帰っていくのだという。
あるいは、天女と羽衣伝説が有名だ。世界各地にこういう伝説があるそうだが、天から羽衣を着て降りてきた天女が、水浴びをしているときにその美しさに見とれた男が妻にしようとこっそりと羽衣を隠してしまい、天に帰れなくなった天女は、仕方なく妻になるというもの。このお話を知らないのだろう。さて、知った上でどう訳出するのか。
お話の趣旨を考えると、天女が着ている衣、なので、robe of celestial maiden?
heavenly nymph? しかし、そもそものお話が分からないと何のことかわからないだろう。
ところで、はごろもフーズはどうしてこの命名にしたのか?調べてみると、「幸福をもたらす天女の「はごろも」が平和と繁栄のシンボルにふさわしいということで、社名と商標に採用されたそうである。静岡県に本社・本店があることから、三保の松原(清水区)に伝わる羽衣伝説からとった。ちなみに、ツナ缶を日本に持ち込んだ最初の会社だそうである。こういう場合、corporate identity はどう説明するのだろう。
そう思って英語ページを見ると次のように出ている。
https://corp.hagoromofoods.co.jp/ja/english.html
この「はごろもフーズ」の後藤社長は女性で、後藤缶詰創始者の孫にあたる人である。この説明では自然にやさしい持続可能性を追求するとは説明されているものの、羽衣についての言及はなかった。やはり、これは説明したところで背景知識がない人には理解が出来ないからなのではないか、と思われる。
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