見出し画像

マキャベリの家

                             鶴田知佳子

イタリアのミラノに住んでいた頃、糸杉の並ぶ美しい光景が好きで、週末に小旅行でよくトスカーナを訪れたものだった。ガイドブックをみると「君主論」で有名なマキャベリの家があるという。彼の一家は地主でワイナリーを所蔵していて、「君主論」を執筆したという博物館になっている家の地下室は赤ワインの熟成庫になっているという。

発音が違うと。。。
イタリアに住みますますワイン好きになった私、ワインも楽しみに夫の運転でいそいそと一家で向かった。1980年代当時、カーナビなどない。イタリア語ができるようになっていた私は、近くと思われるあたりで「Dov'è la casa di マキャベリ?」と何人もの人に道を尋ねた。ところが、全然通じない。知らないと言われ続けて5人目だったか、ようやく「ああ、マキャヴェッリのこと?」と聞き返した人がいて、無事にたどり着いた。雄鶏印のワインを手に入れて帰ったが、複雑な気分だった。Machiavelliはこう発音しないと通じない。

アクセントの位置も問題で、「キャ」ではなく「ヴェ」にアクセントが正解である。通訳をしていてつくづく思うが、音と名前が結びつかないと通じない。どう表記するのか、はどうでもよい問題ではない。しかし、一度定着してしまうとなかなか変更は難しい。この一件のように、発音が違うとまったくの別物になってしまう。

画像2

                    Photo by Kym Ellis on Unsplash

同じ名前のはずが???
中には同じ名前のはずが、複数の日本語表記が存在する場合がある。オードリー・ヘップバーン(Audrey Hepburn)とヘボン式ローマ字のヘボンさんは同じHepburnである。そういえば、「ギョエテとはオレのことか、とゲーテ言い」という川柳があったように思う。

名前だけではない。単語もそうだ。野球のカウントでとるストライクと労働争議のストライキは同じ単語、strike から来ている。時代の流れと共に変わっていくようで、milkshakeは、かつては「ミルクセーキ」いまは「ミルクシェーク」と言われるようだ。

それ以外にも
表記の問題と言う表記の問題と言うよりも、個人のくせで訛って呼ぶ場合もある。そういえば、いまはもうなき我が家の愛犬アンディのドッグトレーナーは、なぜか「アンデー」と呼んでいて、うちでは「きっとこの人、キャンディーといわずにキャンデー、というよね」などと話していたものだった。

画像3

                                                                 Photo by Olya Kobruseva from Pexels

最近、授業でお餅は英語でrice cake という、とテキストに出てきた。cakeの連想で、唐突だが私はいまも販売されるS社の石けんの名前、「ホネケーキ」はhoney cake なのでは?と思った。商品名になぜ?音からは別の連想もしかねない表記になったか定かでないが、honeyを「ホネ」と発音する人は今はいないだろう。

最近ニュース解説で知ったが、ルーズベルトはローズベルト、リンカーンはリンカンと、教科書では原音に近くする変更が加えられているという。道に迷わないためにも、誤解を生まないためにもこれは望ましい変化では、と思った。
                                                                                             (2020年11月27日)

シェア歓迎


いいなと思ったら応援しよう!