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【読書レビュー①⑨】尾八原ジュージ「巣」
こんばんは。PisMaです。
今日も前回の続きから。父が亡くなり、家に縛られているのを実感した美苗と母でした。
美苗は綾子と兄の居る食卓に座ります。二人は父が亡くなったというのに、顔色ひとつ変えず食事の感想を和やかに語り合っていました。
二人が「父もまだ家にいるよね」という話題に触れようとした様子に、強く怖気が走った美苗。
大家族を一気に失った寂しさとトラウマの残る綾子。死人を強制的に留めてしまうこの家に居てくれさえすれば、肉体があろうがなかろうがどちらでもいいその姿勢が、美苗はどうしても理解出来ませんでした。
喧嘩するような形でダイニングから出た美苗。
その足で桃花の居るあの部屋に向かっていました。引き戸の前で「桃花」と声をかけると、大勢の笑い声が上がります。やめてと何度も叫んでも鬼頭のように牽制することは叶いません。
「あの人、どうしてこっちに来ないの?」
「こっちにくればいいのに」
「ねぇ」
「美苗、来るな」
「どうして来ないのかしらねぇ」
複数の声の中に父の声が聞こえる、と思った刹那、背後から「美苗」と声をかけられます。
声を掛けてきたのは母でした。父に呼ばれたと言ってこの部屋までやってきたようで、美苗は「それは父じゃない、この部屋が呼んでるだけ」と声を荒げます。すっかり元気を無くした母をなんとか宥め、部屋に戻ることにした二人。
部屋には、ベッドに腰掛けて母が隠していた不動産の封筒を読む兄がいました。
「何やってるの!?」と部屋に無断で入った兄に美苗が食ってかかると、兄はこちらをじろりと睨みます。要約すると「家を勝手に出ていこうとするな、綾子が悲しむ。俺の嫁にあんだけ世話になっておいて、よくそういう態度がとれるよな」と全くもって的外れな視点で美苗たちを叱ります。
自分の言ってことがおかしいと思わないのか、と美苗が言及すると「昔の俺だったらおかしいと思っただろうな」と不気味な返事が返ってきます。まるで別人になったと言っているかのようでした。もう自分は内藤ではなく、三輪坂の人間なのだと言います。そして「俺なんだ」と最も不気味な事を口にします。
「ばあちゃんの死体を部屋に動かしたの、俺なんだ。本当はばあちゃん、あの部屋で死んだんだよ。でもそれがわかると皆怖がって、家から出ていっちゃうかもしれないと思ってさ。
それから美苗の元旦那に、美苗たちがここにいるって教えたのも俺だよ。
みんながこの家から出て行かないようにしたかったんだよ」
兄は綾子のようでした。
母がそれなら父はどうなのだと尋ねるも、知らないと一点張りの兄。すると口論に紛れて、子供の声がしました。その方角から遠ざかる足音がします。桃花かもしれないと追いかけるとあの部屋の廊下に出ました。戸が少し開いています。
そこには、ぞろりとはみ出た鮮やかな色。
振袖によく似た色で、振袖が引っ込むとおかっぱの少女が顔を覗かせます。「しいちゃん?」と美苗は直感で尋ねます。少女は部屋へと引っ込み、戸を確認しようとあの部屋の前まで進むと扉はきちんと閉まっていました。錠もついています。
「あなたがしいちゃんなの?」ともう一度扉の前で問いかける美苗。
「みんなかえってこなくなっちゃった」
幼い声が答えます。
美苗の目の前で打掛錠がひとりでに動き、回ろうとして、開かずの間を開こうとしています。
美苗は足が動きませんでした。
さて、今日はここまで。
すっかり駆け足レビューですね。最後まで終わったら一度前編と後編で総集編を作ろうと思っています。
いやはや、たくさんの家族を一気に亡くすトラウマがどんなものなのか想像もつきませんが…家族であれば亡霊でも良しとする感覚はなんだか分からなくもないような気がしてしまいます。
特に大好きな人が居なくなることが絶対に許せない人は、気配だけでも近くにあれば幸せだと感じてしまうような気もするのです。百歩譲って身内なら許せるのかもしれませんが、よく知らない幽霊が家中を歩くのは御免ですね。
また読めたらレビュー書きます。
お相手は黄緑の魔女PisMaでした。
貴方には、死んでいても側にいて欲しい人がいますか。
おやすみなさい。