「Cities:Skylines」人口100万人でも絶対に渋滞しない街づくり あとシムシティの話
はじめに
「Cities:Skylines」は2015年に発売された所謂「シムシティ」フォロワーの街づくり経営シミュレーションゲームだ。steamというプラットフォームにて比較的安価で発売されたこと、MODサポートが充実しておりユーザーコミュニティが活発だったこと、それ以前に街づくりシミュレーションの金字塔としての地位を築いていた「シムシティ」が不評だった事などあり、今では経営シミュレーションの定番とも言えるポジションを築き上げるタイトルとなった。
プレイヤーが市長となって街を発展させていくというのは街づくりシミュレーションゲームのお決まりの流れだが、「Cities:Skylines」の特徴は交通整理に重点を置いているところにある。商品や資源の管理、観光客の捌き方、霊柩車や消防車など都市サービスの対応スピードなど、すべての要素は交通整理という点にて交わる。要するに渋滞が頻発する街ではいずれ全てが破綻するという事だ。
右も左もわからない初心者のプレイヤーは、場当たり的に都市を発展させ案の定メインストリートが渋滞、混雑を回避するためにバイパス線を至る所に設置すると、今度はそちらが渋滞し、消防車もごみ収集車も動かずどうにもならなくなってリセット。次は知識をもって計画的に都市作りを進め、メガロポリスへの発展を目指すも結局また渋滞の問題が避けられなくなって辞めてしまうというのはよくある事のように思う(少なくともわたしがそうだったし、何人かのわたしの知り合いや、わたしが見ていたYoutube配信者がそうだった)
今回はその「Cities:Skylines」においてわたしが650時間のプレイの末導き出した人口100万を超えても絶対に渋滞しない街の作り方、それと本作と関わりの深いタイトル「シムシティ(2013)」の魅力を紹介したい。発売から7年が経ち、何度かセール対象に入っているのでもう既にプレイ済みの人も多いと思うが、これを機に今一度「Cities:Skylines」をプレイし、また「シムシティ(2013)」に興味を持ってもらえたらと思う。
なお、この記事はある程度「Cities:Skylines」をプレイしている方向けの記事となるため、当然のようにMODやハドロン衝突型加速器などの反則じみたモニュメントを使ったり、都市サービスの説明を省く場合がある。ご了承頂きたい。
渋滞の原因
まず渋滞の原因について解説したい。
当然のことだが、道路10マス当たりに収容できる車の台数には限りがある。なので、徐々に外に広げるように都市を発展させると最初に作ったメインストリート的な道路が渋滞する可能性が高い。また都市外との接続部分になる高速道路のインターチェンジ付近も都市が発展するにつれ交通量が道路の許容量を超えるので渋滞しやすい。それに併せて車両が移動経路を選択するルーチンがあまり賢くないのでほとんどの車両が最短距離の道を選んだり、3車線道路の左車線しか使わないと言った理由の渋滞がしばしば起こる。
渋滞の原因となる車で最も多いのはほとんどの場合商品や原料の輸送トラックだ。工業地区では原料を都市外や地域内の石炭や木材などの1次生産工場から搬入し、商品を作る。作られた商品は需要があれば地域内の商業地区に運ばれ、余った分は都市外に輸出される。都市外とのやりとりは高速道路、とりわけ都市と接続するインターチェンジにとって大きな負担となる。
そこで役立つのが「貨物港」や「貨物駅」などの高速道路に依存しない都市外とのやり取りを行う施設なのだが、これはこれで膨大な量の車を吐き出すため、周囲に渋滞を起こすのが課題だった。
実験の過程
もう一つの問題は、住宅地区・商業地区・工業地区(RCI)のバランスを取る事が難しい事と、大きな地区を作って隔ててしまうと地区間の道路に渋滞が発生してしまう事だ。
需要メーターの言うがままに土地を開拓し新たに市街地を広げて、「ここを工業地区とする」「ここを住宅区とする」というように都市を作っていくのは現実世界ではよく見られるが、その現実でも通勤・退勤時間に国道や県道などの幹線道路が混むのはよく見られる事で、当然ゲームでもそういった問題は起きやすい。なので、可能な限りRCIのバランスを保ちながら市民の動線が短くなるように都市を計画する必要がある。
そこでまずわたしが渋滞の解決策として考えたのは、「RCIのバランスが整い、消防や霊柩車など都市サービスもしっかり配備された1ユニットを作り、それを連続して配置する。貨物の輸出入は貨物港とだけ並列に繋いだ道路で行う。それとは別に高速道路と繋いだ"出られない"道路を引く」というものだった。
結論から言うとこの方法は方向性としては間違っていなかったものの、
・単純に無駄なスペースが多く、より人口を増やすには非効率
・都市が拡大するほど貨物港への負担が大きく、オブジェクト制限に抵触して機能しなくなる(※オブジェクト制限とは、ゲーム全体の車の数・移動経路の数・建物の数などの上限を定めたシステム上の見えない壁のこと。都市を発展させられるようになるとひたすらこれとの戦いになる)
・やはりというべきか人を分配するための高速道路が渋滞する
という課題が浮かび上がった。
次にそれらフィードバックを踏まえて、新しい都市づくりを開始することにした。貨物・人を各ユニットに配るには、網状に高速道路を張り巡らせた方が効率的になるのではないかという自分のアイデアを取り込み、三叉路は渋滞になりにくいことや見栄えも重視して各ユニットは六角形にした。今思えば既にこの時から着実にディストピアへの道筋を歩んでいたと思う。
ユニットへの入り口付近と都市に接続する最初のインターチェンジが混雑しているが、都市の規模を考えれば渋滞が分配されている分まだ良い方ではないかと思う。この頃にはDLC「GreenCities」が発売され、内包するITクラスターや、自給自足型住宅区なども都市に取り入れた。人口100万人都市を目指すならこれらの存在はかなり大きい。
一方で課題も残り、既に小規模な渋滞が発生している通り都市外と接続する高速道路との接続方法を工夫しないといずれ1ヶ所のインターチェンジだけ大渋滞を起こす可能性が高いこと、そして単純に建物が四角形なので六角形のユニットは非効率である事に気付いたため早期に見切りを付けて新マップに移行した。
完成
2回の実験マップを経てついに「絶対に渋滞しない街づくり」はゴールに至った。
各ユニットは四角形にしたことで建物を満遍なく敷き詰められるようになった。また高速道路と鉄道は大規模な環状線を設置することで外部との接続にバッファーを介するようにした。
これが「絶対に渋滞しない街」の姿である。この街を以前Twitterで見せたら「こんなことして面白いの?」と半ば真面目に非難されたが、考えて試行錯誤してる間はとても楽しかったと自信をもって言えた。
労働人口が多い時期と労働人口が少ない高齢化社会期の波があるため、オフィスとITクラスターを組み合わせたRCIのバランスを整えるのに苦労したが、ここまでくると「どこまで行けるのか」を試してみたくなった。夢の大台・人口100万人の都市を目標とし、オブジェクト制限という障害(※)にぶつかるたびに鉄道の定員や速度を上げるMODを導入したり、さらには寿命の波にバラつきをもたせるMODも導入した。
(※鉄道は数時間待ちになり、何も考えずに鉄道に並んで一定時間乗れなかった市民が神隠しに遭う。霊柩車は道が空いてるにも関わらず手配が追い付かなくなり、都市サービスの低下による転出と寿命による市民の死が重なり市民の数が一気に減る。消費者と労働者も居なくなるのでRCI全てがダウンし都市全体がゴーストタウンと化す。その後空いた土地に一気に転入した市民が同時期に一気に死ぬので同じ現象を繰り返して都市が成長しなくなる)
人口100万人に無事到達できた達成感はあったものの、ここまでプレイして「どのようにプレイしても結局はオブジェクト制限の壁にぶつかる」という事と、「人口を増やしながらこのゲームの肝である渋滞を回避するにはディストピアを生み出すしか方法しか無い」という事に気が付いてしまって途端に虚無感に苛まれてしまった。考えている間はパズルを解いているようでとても楽しかったが、実に破壊的なゲーム攻略だった。何も知らないまま「わたしが考えた最強の夢のメガロポリス」を作っていた方がまだ幸せだったかもしれない。
この記事の冒頭に「ネタバレを含んでいます」と書いたが、ネタバレとは要するにこのゲームの最適解を知ってしまうことで楽しめなくなるという意味だ。その説明をここに書く事は意地悪だったかもしれないが、わたしなりのユーモアだと思って受け取って欲しい。
「シムシティ(2013)」に想いを馳せる
さて、ここまで「Cities:Skylines」を真面目に攻略したらつまらなくなってしまった話を書いたが、ここからは結果的に「Cities:Skylines」が今の地位を築き上げるのに一役買っていた「シムシティ(2013)」の話をしたい。
「シムシティ(2013)」は2003年に発売された「シムシティ4」の後継にあたる作品だ。
シリーズ初の試みとして最大16人のオンラインマルチプレイに対応し、複数の市を抱える「地域」をルームとして複数のプレイヤーでそれぞれ市長となって地域を育てられる事を特徴としている。またグローバルマーケットという全プレイヤーの取引量に応じて鉄鉱やプラスチックといった資源の取引価格が変動する市場経済的なシステムも導入され、プレイヤー同士の繋がりを重要視するゲームになった。
しかし発売当初はセーブデータがサーバー上にのみ置かれオンライン環境が必須であった事と、その割にサーバーが貧弱であったことなどありサーバーがダウン。プレイすることすら出来ない購入者が続出し、そもそものバグの多さやオンラインマルチプレイならではのトラブルも相まって多くの批判を招いた。
また、新しいゲームシステム自体もあまりプレイヤーに受け入れられなかった。
「シムシティ(2013)」の市域マップはお世辞にも広いとは言えない。3Dの美麗なグラフィックで都市を見渡せるようになったものの、市域の狭さは「シムシティ4」が発売された2003年からの10年間のハードウェアの進化にとても見合っていなかったし、「超巨大都市を作りたい」という恐らく全街づくりシミュプレイヤーが抱く夢を叶えられるゲームデザインではなかった。
さらに、本来一人でのんびりやるものであった街づくりシミュレーションゲームはマルチプレイになったことで他のプレイヤーにペースを乱されるようになった。他人の都市と比較して自分の都市が大きく見劣りすると落ち着かないし、それだけならまだしも治安維持を敢えて他人任せにして犯罪者を押し付けるプレイヤーや、他人の地域からリサイクル品を掻っ攫っていく非協力的なプレイヤーが後を立たなかった。対策として遅れを取らないように早急に体制を整える必要があり、少なくとも"野良"においてはマルチプレイは明確にメリットよりデメリットの方が大きかった。
(誤解のないように付け加えておくと、セーブデータがサーバー上に置かれていたためオンライン環境は必須だったが、マルチプレイは鍵部屋を作ることで回避できた。)
今ではアップデートによってオフラインプレイに対応し、バグもほとんどは修正された。大型DLC「シティーズオブトゥモロー」を購入するとサイバーパンク作品に登場するような巨大ビルが建てられるようになり、多少は「超巨大都市」に近づけるようにはなった。
しかし制作を担当したmaxisスタジオは2015年に閉鎖。理由は明らかになっていないが、以降PCの「シムシティ」シリーズは音沙汰が無く、リリース当初と180度違う方向性になったアップデートの事を考えるとたとえ売上が悪くなかったとしても影響があったのではないかと憶測してしまう。結果論ではあるが、「シムシティ(2013)」の失敗をきっかけとして「シムシティ4」を基に作られた「Cities:Skylines」が商業的成功を収めている事を考えると尚更である。
改めて気付くシムシティ2013の魅力
そもそも、なぜこのシムシティというゲームが従来のスタイルを大きく転換しオンラインプレイに対応したのかというと、どうやらパブリッシャーのEAによれば「新しい技術を取り入れMMOを作りたかった」とのことだ。
当時わたしはこの記事をはじめとする「シムシティ(2013)」の開発者に対するインタビュー記事をいくつか読んでいて「街づくりシミュなんて究極の一人プレイゲームなのにマルチプレイなんて何を考えているんだろう。どうせ一人でやるんだからオンライン認証は無駄に手間がかかる。マップも凄く狭いし、なぜ血迷ってしまったのか」というネガティブな印象を抱いていたし、その評価とは対称的でサンドボックスゲームとしては圧倒的に自由度に勝る「Cities:Skylines」にはかなり満足できた。
しかし「Cities:Skylines」を突き詰めて攻略し、渋滞解決のアイデアを出してゲームクリアになってしまったわたしの経験を踏まえると、確かに「シムシティ(2013)」が従来の街づくりシミュレーションの常識を覆しオンラインプレイ重視に方向転換したのは間違っていなかったと考えを改めるようになった。
かなりポジティブに偏った見方をすれば「シムシティ」は「シムシティ4」の時点で既に完成形で、そのまま最新のグラフィックになったところで新鮮さは欠けていただろうし、「Cities:Skylines」のように渋滞を解決したらもう終わりのゲームになっていたかもしれない。
そしてこれも「Cities:Skylines」の攻略で分かった事だが、渋滞をシステマチックに解決するとマップは大きくてもただただ人口と構造を増やすだけで冗長的になる。そしてどれだけ広くしてもいずれシステムやハードウェアに由来する制限に直面するのは目に見えている。であれば小さいマップをいかに有効活用するかを考える方がゲーム性が高いと言える。
実際、「シムシティ(2013)」では観光や石油、半導体などの専門的な施設をアンロックできる特化産業というシステムが存在するが、特化産業に必要な施設はマップの大きさに対して占有面積が広く、住宅地や工業地区を削らざるを得ないので複数の産業に特化することは事実上不可能というバランスになっている。しかしこれらの特化産業は市の収入において大きなウェイトを占め、もはや特化産業無しでは市民を満足させられるサービスの維持が不可能な程であるため何らかの産業に特化した方が遥かに収支が良い。
すると、各都市は「炭鉱都市」「ハイテク都市」「遊興都市」といった風に特化産業によって個性を際立たせる事になる。プレイヤーとしてもシステム上都市の方向性がバラエティに富んでいることは飽きにくくなるメリットがあり、マルチプレイにおいてはコミュニケーションが生まれる理由になる。
DLC「シティーズオブトゥモロー」においても同じ方向性を持つようにデザインされている。「シティーズオブトゥモロー」ではメインの要素としてメガタワーの建設が可能になり、マップを上下に開拓し大量の市民を住まわせる事が可能になる。住民税の税収は大きく増え、しっかり教育を受けさせ高度な技術を必要とする産業に就職させれば莫大な利益を生み出す一方で、メガタワーは住民が転出しやすいため要望をよく聞き入れ入居者で満室にしないとすぐに赤字になり、要求される電力や下水処理能力も増える事からも維持管理の難易度は通常の住宅区より高い。
つまり、「シムシティ(2013)」ではマップの空間自体も財政や資源と同じようにリソースとして扱われ、リソース管理能力が求められているわけだ。
そういう背景を頭に入れた上で今一度「シムシティ(2013)」をプレイすると一層楽しめるはずだ。
特に、この記事でも度々紹介しているDLC「シティーズオブトゥモロー」はより高度なリソース管理を求められるためゲーム性が高く、かつSFチックな施設はとてもロマンがあり見栄えも良いためかなりおすすめできる。
個人的に好きなのは本DLCに含まれている特化産業「Omega Co,」で、巨大コングロマリットOmega社が鉱物から作る謎の物質"Omega"を服・食料品などあらゆるものに使用し、フランチャイズ収入で莫大な利益を上げるスタイルだ。市民は謎の物質OmegaとOmega社製バイドローンに依存し、渋滞によってOmegaの配給が滞ると商業区も工業区もたちまち廃墟になってしまう。そして無数に飛び交うドローンによって怪我人やゴミの量は増え、依存症で気性が荒くなるのか治安も悪化。Omega工場からは尋常ではない大気汚染が広がる非常に行儀の悪い都市へと進化する。"Omega"が具体的に何なのかは各々の想像に任せるが、皮肉が効いた設定といかにもサイバーパンクな都市の景観には思わずにやけてしまう。
それともう一つ、「シムシティ(2013)」の大きな魅力は豆苗のタイムラプス動画のように建物がニョキニョキ伸びる過程を眺められる事だ。「Cities:Skylines」でも区画を設定すれば設定された密度に応じて住宅や商業ビルが生えるが、「シムシティ(2013)」がそれと異なるのは建物に"密度"というパラメーターが存在し、道路の道幅と通行量、需要に応じて建物の"密度"ポイントが加算され、一定値に達すると建物のランクが上がり成長する部分だ。
密度が低いうちは米粒のような小さい家々が立ち並ぶが、ポイントが加算されるにつれて西洋のアパルトメントのような建物、さらに高層ビルへと進化する。「Cities:Skylines」より建物が建て替えられる頻度が圧倒的に多いため、ビルの成長を眺める機会も多くなる。「シムシティ(2013)」は眺めているだけでも楽しいゲームなのだ。
まとめ
「シムシティ(2013)」はパブリッシャーがEAであるため発売当初はSteamに対応しておらず(現在でも対応していない)、最近Steamを導入した人の中には知らない人も多いかと思う。しかし「シムシティ(2013)」も「Cities:Skylines」に負けず劣らず、違った魅力のあるゲームである。発売当初は批判に晒され現在でも失敗作と評される事も多いが、「Cities:Skylines」を遊んだ後にプレイするとまた新たな発見がある。発売から9年も経っているおかげか、安い方のea playとea playに互換性のあるxbox PC game passでもプレイできるので「Cities:Skylines」のような街づくりシミュレーションが好きな人は是非プレイしてみて欲しい。そしてEAは”2013”の教訓を経て街づくりシミュレーションの元祖たる「シムシティ」の新作をリリースして欲しい。
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