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中国:農業から監視社会へ


 中国が独裁国家である理由には、地理的な要因が深く関係している。中国の多くの地域では、降水量が少なく、米の栽培には大量の水が必要であり、そのため、灌漑という技術が発展した。灌漑とは、用水路やダムを建設し、水を人工的に管理する方法である。なぜこれが独裁性の元になるかといえば、集団行動が必要になるからである。一人ではダムを建設したり用水路を掘ったりして川から畑に水を引っ張ってくることはできないので、大人数が共同作業する必要がある。効率的に集団行動を行うには、独裁者が大量の労働者を一括管理して灌漑工事に駆り出さなければ農業は成り立たない。

 灌漑工事が終わってからも独裁者は必要だ。水量の管理にしても水路の補修にしても個人単位ではとてもできない。また、灌漑施設はその地域の人々全員が使う公共物であり、誰かが勝手に乱用すれば全員が被害を受ける。例えば、誰かが用水路の流れを勝手に変えて水を余分に使えばほかの人々が水を使えなくなる。よって、独裁者がすべての用水路を所有管理して個人単位での乱用を取り締まる必要があったのだ。

 この話はあなたも日本史の授業で聞いたことがあるのではないだろうか。弥生時代には、稲作の伝来に伴って誰かが灌漑工事を指揮したり高床式倉庫に納めた収穫物を誰かが泥棒から守る必要が出てきた。これが社会階層や国家という概念を生み出した、というものだ。文明が乾燥地域の大河川流域で最初に形成されたのも灌漑が理由である。

 さらには、中国の北には遊牧民が住んでいて、遊牧民は、時に強力な軍隊を率いて黄河流域に侵入し農耕民の収穫物を略奪した。遊牧民はあまりにも強く個人や村単位ではとても対抗できない。そこで中国では、皇帝が大規模な軍隊を組織して指揮を執ったのである。

 灌漑に独裁が必要なもう一つの理由が、天候不良の影響が広範囲に及ぶことです。乾燥地域ではほぼ全員が同じ灌漑施設に依存しているから、天候不良などで川の水量が減ってしまえば全員が被害を受ける。通常、こうした天災に備えて農家は備蓄をしておく。

 しかし、農家が各々備蓄するのはあまり得策とはいえない。結局全員が被害を受けるので、国中で奪い合いが起きるのだ。よって、よりよい方法は、備蓄も皇帝が一括管理することである。こうすることで備蓄を国全体に分配することが出来る。そうして皇帝は強権を用いて農家から毎年農作物を徴収し巨大な倉庫で管理して必要な時には平等に分配した。

 中国にはこれらの理由で、絶大な権力を持った皇帝が必要になった。中国で他に類を見ない巨大建造物が多いのも皇帝が絶大な権力を持っていたおかげである。そして、中国における独裁的な統治は、単なる過去の遺物ではなく、現代にも引き継がれている。

 現代の中国は、2億台以上の監視カメラによって市民の生活が監視され、ネット通販やスマホ決済の利用履歴を基にした「ジーマ信用」などのシステムが、個人データを収集し国民一人ひとりを格付けしている。しかし、この「監視社会」にも、多くの中国人は肯定的であり、政府主導で国民の最大多数の最大幸福を追求している。

 たとえば、世界最大のダム三峡ダムも強力な権力なしには作り得なかった。大量の労働者を統率するのもそうだが、なにより、建設地に住む120万人以上の人々が移住しなければならず、なかには、それに抵抗する人々がいる。しかし、少数の反対者に配慮していては、何億人もの下流の人々が洪水か干ばつに苦しめられるため、政府は強制的に反対者を追い払った。

このように中国では、独裁性というのはそれなりに理にかなったものなのです。

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