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*5【原発映画】核の脅威と放射性廃棄物という負の遺産♯キーワードから新しい映画ジャンルをつけてやる

見えない恐怖と人類の選択:原発映画が問いかけるもの

核や放射能がもたらす恐怖は、これまで数多くの映画やマンガで描かれてきました。『はだしのゲン』や『黒い雨』は、原爆の被害を受けた人々の苦しみを克明に描き、特に放射能の見えない影響がいかに人間を蝕むかを読者や観客に突きつけました。髪がごそっと抜け落ちる描写や肌のただれは、目には見えない放射能の恐怖を形象化した象徴的な表現です。放射能という存在は、触れることも感じることもできないため、その脅威を認識するのは、健康被害や環境の変化といった「結果」を通じてのみ可能です。その意味で、放射能の恐怖は、私たちの想像力を超えた領域にあります。
一方で、技術進歩と豊かな生活を求める中で、原子力発電所は「クリーンで効率的なエネルギー源」として推進されてきました。化石燃料に代わる持続可能なエネルギーとしての原発は、エネルギー需要が増大する20世紀中盤において魅力的な選択肢でした。原発はその効率性と持続可能性から、世界中で建設され、社会の基盤として機能してきました。この選択は、いわゆる原発の「安全神話」によって支えられていました。

安全神話とその破綻

1986年、チェルノブイリ原発事故が発生。この事故は人類が直面した未曾有の災害であり、放射能が広範囲にわたって漏洩し、無数の命や環境を脅かしました。HBOのドラマ『チェルノブイリ』は、この事故の恐怖を緻密に描写し、目に見えない放射性物質が空中に拡散する様子を幻想的に描いており、無知ゆえに外で走り回り、遊ぶ子どもたちの無防備な姿が強い印象を与えます。つまり、放射能の存在は不可視であるがゆえに恐ろしいのです。

にもかかわらず、当時の原発推進の流れは大きく変わことがなく、「徹底した管理さえ行えば安全」という楽観的な安全神話はその後も唱えられ続けました。2004年公開の映画『東京原発』は、この安全神話を皮肉たっぷりに描いたブラックコメディです。劇中、石原都知事をモデルとしたキャラクターが「原発は安全だ!」と豪語する姿は、当時の社会の楽観的なムードを象徴しています。しかし、今見ると、この映画の風刺は現実における安全神話の破綻を予見していたようにも感じられます。


3.11における転換点: 世界のFUKUSHIMAへ

そして時は2011年、東日本大震災による福島第一原発事故が発生しました。この事故は、原発の安全神話を根底から崩壊させる出来事となりました。Netflixのドラマ『THE DAYS』では、この事故を現場の視点から詳細に描き、現場作業員たちの壮絶な努力や絶望がリアルに再現されています。この作品は、原発事故がいかに人間の手に負えない事態を引き起こすかを、感情的かつ具体的に示しています。
(なお、『東京原発』の知事と『THE DAYS』の所長役がいずれも役所広司というのも見所の一つです)

福島の事故以降、原発推進の是非だけでなく、これまで見過ごされてきた「放射性廃棄物」という問題にも注目が集まるようになりました。原発が稼働する限り、使用済み燃料や放射性廃棄物は生成され続けます。そしてそれらの廃棄物は、数万年単位で安全に管理されなければなりません。この問題に真正面から取り組んだ映画が、ドキュメンタリー作品『100000年後の安全』です。


放射性廃棄物という「負の遺産」

『100000年後の安全』は、フィンランドで進められているオンカロ計画を追った作品です。この計画は、放射性廃棄物を地中深くに埋めることで、未来の人類に危険を及ぼさないようにするという壮大なプロジェクトです。しかし、10万年という時間は、人類の歴史や文明のスケールをはるかに超えています。この映画は、私たちが現在抱える問題が、未来にどれだけの負荷をかけるかを痛感させるものです。
100000万年後は想像が及びませんが、それでもその場所が禁域であり危険であることをどのように継承していくのかという点も興味深い内容となっています。

日本では、放射性廃棄物の問題についてほとんど議論されてこなかったことは大きな課題の一つです。原発事故の影響が直接見えにくい分、廃棄物問題はなおさら社会の意識から遠ざけられがちです。しかし、福島の事故をきっかけに、汚染水の問題も含めて、この問題に真剣に向き合わなければならない時代が来ています。

原発ゼロの議論と現実

原発ゼロを掲げることは理想的なように見えますが、現実には多くの課題があります。エネルギー価格の上昇や生活水準の低下を招く中で、再び原発依存に戻らざるを得ない現実が存在します。また多額の交付金をこれまで受け取っていた自治体の住民が、突如として反対デモを行ったりしたとしても、「対案なき反原発」という状況が続く限り、議論は進展しません。

結論:未来への選択

原発をめぐる議論は、単に「推進か反対か」では済まされない複雑な問題です。それは、現在の生活水準を維持しつつ、未来の世代にどのような影響を及ぼすかという倫理的な問いでもあります。映画やマンガは、この問題を多面的に考えるきっかけを提供してくれる貴重なツールです。これらの作品を通じて、原発が抱えるリスクと可能性、そしてその先の未来を真剣に考える必要があります。

またこの他にも、チェルノブイリ原発事故以降にも危険区域内で生活をする人々を描いた作品も多く存在します。そうした作品も合わせて見る事で、この問題についてまずは知り、考えてみてはどうでしょうか?

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