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第32回: ルーマニア版『鬼滅の刃』?! 農民たちが立ち上がった吸血鬼狩りの真実と映画大ヒットの秘訣


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鬼は外、福は内。

節分には邪気を払うとされる大豆を投げながら、こう叫ぶ。しかし、今の日本経済からすると「鬼」は大歓迎といったところか。

過去最速で興行収入100億円を達成した『鬼滅の刃 無限列車編』。それに伴う作品の経済的貢献度は計り知れず、コロナ禍で重傷を負った日本産業界に、まさかの「鬼」が「福」となって現れた形だ。そして、この奇妙な逆転現象は日本だけで起きているわけではない。

◼️ ルーマニア🇷🇴における『鬼滅の刃』的伝説

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ルーマニアは"バルカンのスイス"とも称されるほどに、自然が豊かなことで知られる東欧の国だ。意外にも日本と同じくらいの国土面積をもつなど、共通点も多い。

自然溢れると聞くと、ルーマニアは穏やかな国に違いないと思うだろう。しかし、そのイメージには似つかわしくない物騒な伝説がルーマニアには伝わっているのだ。そして、その内容は誰もが知っている。

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そう、吸血鬼伝説である。

15世紀、悪魔と恐れられた男がルーマニアにいた。その者の名はヴラド3世。敵国兵士を無惨に扱ったことから串刺し公との異名もある。

その残酷さをベースにブラム・ストーカーという作家が小説『ドラキュラ』を発表した(本人曰く、フィクションではないとのこと)。その物語の中で、吸血鬼はルーマニアに現存するブラン城を文字通り、根城にしている。

そして、その城こそ、"串刺し公" ヴラド3世の祖父・ヴラド1世が建てたものなのである。ドラキュラのモデルになった者がいること、そしてその居城が国内にある、などの要素からルーマニアは「ドラキュラ発祥の国」として名を馳せる事となったのだ。

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(写真: ドラキュラ伯爵の居城・ブラン城)

◼️ ドラキュラハンターの存在とその正体

先ほど紹介した小説『ドラキュラ』では、ドラキュラ伯爵はなんとルーマニアを抜け出し、新天地・イギリスへと向かう。そして、物語では吸血鬼ハンターであるヴァン・ヘルシング教授との戦いが描かれている。

ここで疑問符を浮かべた読者も多いかもしれない。ドラキュラがルーマニアにいないではないか、と。ごもっともである。だが、安心してほしい。勘違いされがちだが、ドラキュラとは個人の名前であり、ヴァンパイアや吸血鬼全体を指す言葉ではない。言ってしまえば「ウォシュレット」や「カットバン」などと同じ理屈である。

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となると、ドラキュラ伯爵以外の吸血鬼にも対処する必要が出てくる。そこで立ち上がったのが農民だった。この話はどこか、登場当初はただのあどけない少年だった竈門炭治郎と被る。

退治といっても、ヘルシング教授のように吸血鬼それ自体と対面しての戦いというわけではなく、あくまで「闇討的退治」だった。当時、吸血鬼は今で言う所のゾンビのように、襲われた者も吸血鬼になってしまうと信じられていたのだ。

例えば、村で何らかの説明しがたい怪事が起きたとする。そうすると、村人たちはどこからともなくこれは吸血鬼の仕業であるとして、疑いのある者の墓を暴き、吸血鬼としての命を終わらせる。

その方法は地域によって様々だが、「首を斬り落とす」あるいは「心臓に杭を打ち込む」などといった方法がメジャーである。

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(写真: 疑わしい者の墓を掘り返し、吸血鬼の退治を行う様子)

◼️ ドラキュラ伝説に見る『鬼滅の刃』ヒットの秘訣

これまで紹介してきたドラキュラ伝説は、日本で大ヒットしている漫画作品『鬼滅の刃』とかなり類似性があると言える。

① 化物(鬼)と人間との戦いを描く。
② 吸血鬼は襲った人を吸血鬼に変えることができる。(『鬼滅の刃』の中でこの能力があるのは無惨様のみ)
③ 大衆に広く受け入れられ、大ヒットしている。
④ 映画が一大ヒットの契機となった。 (後述)

吸血鬼はブラム・ストーカーが『ドラキュラ』を著すまで、科学が十分に発達していなかったこともあり、反キリスト教的な悪魔崇拝と重なるなどして、一時期は大規模なヒステリーを引き起こすほどに恐れられていた。

多くの人に畏怖された吸血鬼伝説が、大衆の人気を得る作品になるきっかけとなったのが、映画だったのだ。ベラ・ルゴシの怪演が光るブロードウェイ舞台が映画化され、その大成功は吸血鬼伝説がレジェンド古典と化すトリガーを引いた。奇妙なことにこれも『鬼滅の刃』と重なる。

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ルーマニアの『ドラキュラ』、日本の『鬼滅の刃』。闇の恐怖と光の正義を対比させて描く両者共通のスタイルは、観衆の心を揺さぶり、惹きつける。19世紀の大古典『ドラキュラ』はヒットの末、後々の作品に多大なる影響を及ぼした。果たして『鬼滅の刃』は後世においても存在感を放つ鬼才的作品となりうるだろうか。今後に注目である。


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【本記事のテーマガチャ】

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「ルーマニア」の吸血鬼伝説では、たとえ中身が「ガイコツ」だろうと疑いがあれば墓が暴かれていました。それで今回のテーマというわけです。また、今回から世界の国とランダムワードで記事を書く企画をスタートしましたので宜しくお願い致します。

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参考文献

- Oscar Urbiola: 『吸血鬼はノンフィクション? 伸びる爪、腐らぬ体の謎』, ナショナルジオグラフィック, 2020年2月9日, https://style.nikkei.com/article/DGXMZO54893680X20C20A1000000/?page=3

- Stanley Stepanic: 『How did Dracula become the world's most famous vampire?』, TED-Ed, 2017年4月20日, https://www.youtube.com/watch?v=7uiyz3139tE







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