失敗事例4 小さな約束も大切にする
皆さんは子供の頃、親に約束を守ってもらえなくて悲しかったり傷ついた経験はあるだろうか。
大したことではなくても子供にとってはきっと一つ一つが大切で、裏切られたことはしばらく心に残ってしまう。
私はそんな気がしている。
ある女の子の話
先日ある公園に行った時、スパルタなお母さんがいた。
どうやら6歳の女の子にどうしても運動をさせたいらしく、その日は雲梯をやらせようとしていた。
女の子はしばらく嫌だと泣いていたが、お母さんの「一つ進むだけでいいから、一回チャレンジしてみよう」の一言で渋々分かったと了承した。
彼女は運動が苦手なのだろう。
次の棒に手を伸ばすが失敗して着地してしまう。
そこで親は形だけ褒める。
「一回チャレンジできたね」
「ご褒美に抱っこしてあげる」
すると抱き抱えられた女の子は激しく泣き出した。
嫌だ嫌だと叫んでいた。
抱っこしたまま雲梯のスタート地点に母親が移動して行ったのだ。
一回と言われてやったのにまたやらされる。
きっと女の子にとってはそれが日常的に繰り返されているのだろう。
何分も大声で泣き叫ぶので周囲の視線を気にして居た堪れなくなったのか、母親は諦めて退散して行った。
見ていた私は心が痛んだ。
子の子にとっては母と公園に来ることは楽しいものではないのだろうなと思った。
これはほんの小さな約束を破った親の一コマだが、これが当たり前になるとどうなるか。
親子で繰り返された悲劇
私の母はよく幼児の私に愚痴をこぼした。
自分はピアノに人生をかけてきたし、いくつもトロフィーをもらうほどコンクールで入賞もしてきた。
ずっと音大に行くのだと言っていたのに、高校生になる頃、急に親に手のひらを返された。
お金がなかったのだ。
音大進学が近づいてきて、現実味が増してようやく、費用について考え出したのだろう。
その後の彼女の人生は家でをし、歳を偽ってスナックで働き、夜の社会の住人と壮絶なお付き合いをし、しまいには既婚者に言い寄られ、どんどん真面目な優等生だった面影をなくしていった。
音大進学を断られたことが母の人生の転機となったのだ。
それほどまでに当時の彼女は傷ついたに違いない。
それから20年近く経って、私は高校生。
自由に大学を選ぶ権利はなかったが、親が指定したいくつかの大学の中なら選んで進学していいと言われていた。
両親は高卒と高校中退のため、大学に行く意義を理解していなかったのだと思う。
いい大学に行かないのなら高校に行く意味もないとよく言われていた。
当時は北海道の実家を離れ、東京の高校に通っていたのだが、テストで少しでも成績が落ちれば、頑張ってその程度なら高校はやめて家に戻りなさいと言われたりした。
実家が嫌だたことも大きかったし、その頃敬愛していた教師に「そのままでは代々貧乏スパイラルに陥るよ」と言われ絶対に大学に行きたいと思っていたこともあって、とにかく勉強ばかりしていた。
周りの誰よりも早く受験校を決めて1人で受験勉強に励んだ。
貧乏で特別な教材など買ってもらえなかったので、図書館に通ったり、先生に泣きついて問題集のコピーをもらったり、自分なりにできることはやった。
親が指定してきた大学はどれも偏差値60かそれ以上で、その中で一番偏差値が低い大学を目指していた。
高三の夏だった。
模擬試験でB判定を出した。
まだ時間はあったのでこのペースなら合格できるかもしれないと喜んで親に伝えた。
親は、本当に私が入れるとは思っていなかったのだと思う。
大学にどれくらい費用がかかるかなんて知らずに話していたのだろうか。
突然、大学に行くお金なんてあるわけないだろうと言い出した。
大学に手紙を書いて事情を説明してただにしてもらえとか、特待生になって学費免除されたら入れるなどと言うのだ。
世間知らずな私はどうしても諦められず親の言うとおり手紙を書いた。
予備校も行かずに教材もなしに私の頭だけで特待生になるのは無理だと言うのは理解していた。
ただで大学に通わせてくれと手紙を書くなんて、今思えば恥ずかしくて引きこもりたくなるような黒歴史である。
そんなこんなで行きたい大学には行けなかった。
私の両親は住宅ローンが払えず自己破産した経験があるため借金にトラウマがあるのだろう。
奨学金を借りることさえ許されなかった私にできることはなかった。
今は給付型の奨学金が充実しているので羨ましい限りだ。
母は何も感じていないかもしれないが、自分がされて嫌だったことをそっくりそのまま私にしているのだ。
私が大きくなってから4人目の子供を作ったり、犬を飼ったり、ディズニー旅行に行ったりしていた親を見て、今いる子供達のために少しでも貯金しようとは思わなかったのかと親の行動が理解できなかった。
もちろん尊い命に罪はなく、弟は何も悪くない。
それを分かった上でも、弟が生まれていなかったら少しは状況が違ったのではないかと当時は思っていた。
教訓
公園の女の子と、私たち親子の話をしたが、これはどちらも根っこは同じだと私は考えている。
子供との約束をただの道具として使っていて、子供の意思や感情を完全に無視している。
親の都合で約束をし、それを反故にするというのは、子供の尊厳や権利を蔑ろにする行為だ。
小さな約束を破り続けるとそれが当たり前になり、子供の痛みに寄り添うこともなくなる。
人間日常的にやっていることには何も感じなくなっていくものだ。
そしてどんどんと大きな約束を無視するようになる。
親に裏切られ続けた子供は人との信頼関係を築けなくなる。
私の母のように、結局は子供との約束を守らない大人になってしまうのだ。
それがいかに傷つくか、よく分かっているはずなのに。
そしてそんな親が言う「約束を守りなさい」はとても薄っぺらい言葉に成り下がるのだ。
子供だって賢い。それをきっと見透かしている。
社会の怖さを知らない子供を守るため、親子で上下関係は必要だと思う。時には社会生活を営むために子供をコントロールしなければいけないこともある。
それでも私は子供の意思や感情を想像できる親であり続けたい。
日常の小さな場面から、実践していきたい。
ほんの些細な約束でも守るようにしていこうと決めている。
意識的にやることで自分への訓練にもなる。
たとえば、もうご飯食べたくないと言われた時、「最後に一口だけ食べたらおしまいにしよう」と私はよく言うのだが、素直に子が食べてくれると、もう一口いけるんじゃない?という邪念が湧いてきてしまう。
しかし約束は約束なので一口できっぱり終わりにする。
何か別のもので遊ぼうとした時、「今遊んだものをないないしてから、触ってもいいよ」と言う。この時も次に触ろうとしていたものがあまり触ってほしくないものだとしても、子が素直に片付けたなら少しだけでもいいから触らせるようにしている。もちろん危なくないものに限る。
そうやって私が子供との約束を守るから、子供は安心して毎回一口食べてくれるし、ものを片付けてくれる。
昨夜もそうだ。
お風呂上がりとても眠かった息子は早く寝たくておっぱいをせがんできた。
「服を着てからね」
と伝えるとぐずりながら、おっぱいに手を伸ばそうとしながらも、着替えに協力してくれた。
袖を自分で通そうとしたり、ズボンに足を差し入れようとしたり。
歯磨きは諦めなきゃいけないのかなとなんとなく思っていたので歯磨きについては伝えなかった。
服を着終わって、この調子なら歯磨きもできるなと思ったので、どうしたら歯磨きする気になってくれるかなと考えた。
とりあえず約束を守ろう。
寝てしまう危険性もあったがその時はその時と腹を括った。
「頑張って着替えできたね、偉いね」
「お父さんが歯磨きしようって待ってるよ、歯磨きできるかな、お魚とかりんご食べたから歯を綺麗にしないとね」
「歯磨きしたら一緒に寝ようね」
と授乳しながら背中を撫でつつ声をかけ続けた。
動かなくなったので寝ちゃうかなと思い、
「抱っこして歯磨き行ってみる?」
と聞いてみるとさっと顔を上げて、
「だっこ」と答えてくれた。
洗面所に連行しても泣かずに歯を磨いていた。途中から眠さの限界がきて泣いちゃったけど。
きっと途中で授乳を挟まず無理やり歯を磨いていたら反り返って泣き叫んでいただろう。
約束が違うぞと。
親は約束を守ってくれる、その安心感があるからこそ子供も約束を安心して守れるのだと私は感じた。
小さな約束を大事にしていけばきっと良い信頼関係が築ける。
そう信じて続けていきたい。
終わりに
ちなみにあくまで私の場合ではあるが、大学に行けなかったことや実家が貧乏だったことにそこまで親への恨みはない。
ただ大学に行けるかのような期待をさせ、努力を強いておいてその仕打ちはないだろうと思っているだけだ。
「うちはお金がないから大学には行かせてあげられないけど、働いてからも大学には行けるから一緒に就職先探してみよう」
たとえばこんな風に説明されて協力的な姿勢を見せてくれたなら私の感じ方も全然違ったものになっていただろう。
約束を破らないということはできない約束をしないことだ。
もしくは何がなんでも達成しようとすることだ。
状況が変わって約束を守れなくなることもあるだろうが、約束を守るために奮闘する親の姿を見て何も感じない子供はいないだろう。
もし達成できないのであれば誠心誠意子供に寄り添い謝ることだ。
これがこどもではなく社会人同士なら当然そうするだろう。
なぜ我が子となったらどんな扱いをしてもいいと思ってしまうのか不思議で仕方がない。
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