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お店やりたい! 仕事辞める!

 それまでのおれは雑誌の仕事をしていて、季刊誌だったから比較的ゆるめのスケジュールではあるが締切に向けて日々原稿を出し入れして忙しくしていた。それはそれで楽しんでいたのだけど、そんな時に震災が起きた。

 きっとその日を境にみんな何かが変わったように、おれも変わった。こんな時になんで仕事に行かなきゃ行けないのか、もちろん今日入稿しないといけない原稿はあるけれど、なんかもっとさ。そしたら、どこかの誰かの余暇のために作っている雑誌のことさえどんどん熱を持てなくなってしまった。

 どんな思いをしても絶対に家を出て、誰かのために働きたい。そして見えないどこかの誰かのためじゃなくて、目の前でちゃんと反応が見れる仕事がしたい。閉めているお店も多いなか開けてくれているラーメン屋でいつもの味を啜りながら、仕事ってこういうことじゃないのかなと思う。そう、ごはんを作る仕事! ステキ!!

 もうすぐにでも仕事を辞めて貯金でお店を始めたい! そう思った。けれど、もちろん上司に止められ、会社を辞めることも皆に止められ、そしてまったく経験もない飲食店を始めるなんて。考えてみたらそんなに料理も上手くない、はて。飲食店で働いたのは学生時代のバイトのみ。これはダメだ、まずは飲食店へバイトでもなんでも潜り込まなければ。

 意志固く、数ヶ月後に会社を辞めたおれは早速途方に暮れる。飲食店のバイトはわりと若い人が多く、なんか会社勤めの後開業を目指してます! みたいなおれとは年も温度も合わないのかただ何かダメなのかわからないままに最低賃金のバイトに落ちまくる。履歴書を送って返事も来ないとは思わなかった。そして開業! と思ってカフェ本などを読んでみるも、正直何から始めたらいいのかわからないし、そんな状態で何百万も使っていいはずがないことは自分でも分かっていた。

 離職票を出しに行ったハローワークはわりとカジュアルな場所で、重苦しく暗いイメージだった分なんだか過ごしやすく、募集の案件を眺めたりチラシを集めたり相談したりとなかなか充実した時間を過ごせた。その充実の結果、おれは職業訓練校の調理科を受験することになる。

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