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『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .02.1

開かなくなったもの、なんでも開けます。 by 鍵屋

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第二話『白雪姫の遺言』


朝に、窓に付いていた露はもうほとんどが消えて無くなっていた。
窓枠についた最後の一雫の露が外の世界を映していた。その露が映し出す世界はある場所ばかりが大きく強調されて見えて、窓から見えるそれとは性質を異にしているように思われた。
「僕らが見ている世界も、きっとこんな風に変な部分が強調された世界なんだろうな...。」
露の映し出す世界には、変な魅力があった。その世界に吸い込まれてしまえば、閉じ込められる代わりになんでもできるような感覚。そんな魅力が、その世界にはあった。



ベルが鳴る。しばらく開かなかった扉を開けに、晏理が向かった。サキもついてきて扉の前で座っていた。
「いらっしゃいませ...。大きな荷物ですね。」
「こちら、鍵屋さんですか?開けていただきたいものがありまして。」
帽子を被り、チェックのスーツに身を包んだ老紳士が大きなスーツケースを携えて、扉の向こうに立っていた。
「はい。鍵屋です。荷物お持ちします。奥へどうぞ。」
「どうも。」
老紳士は、帽子を取り、スーツのジャケットを手に持つと、店の中へと入った。サキはいつの間にかベットの上に移動して、丸まって寝ているようだった。


晏理は老紳士をテーブル席に案内して、お茶を出した。
「本日はどのような御用件で。」
老紳士は、運ばれてきたスーツケースに視線を移しながら口を開いた。
「その中身なのですが、先代から預かったものでして。しかし、私は生まれてこの方、その箱の中身を見たことがないのです。次の代に渡す前に現物を見ておきたいと思っておりまして。」
「なるほど。スーツケースから取り出してしまってよろしいですか?」
「ええ。構いません。」
晏理はスーツケースから、ひと回り小さな木製の箱を取り出し、机の上においた。
「よろしければ、中身について何か知っていることを教えていただけますか?」
老紳士は、その箱から目を逸らさずに話し始めた。


「こちらは、1950年頃に先代の父が当時の英国から持ち帰ってきたものです。中身は何かの書物であるという風に聞いております。私にその書物の価値がわかるかどうかは、なんとも言えませんが、子どもに持っていてもらうのに、中身を見たことがないとなると薄気味悪いでしょう。」
「書物ですか...。本当に開けてしまってよろしいのですね。」
「ええ。お願いします。気になりますから。」
「では、契約書にサインをお願いします。」


晏理は、ペンと契約書を渡すと、その木箱を手にとって眺めていた。
「文字列...?」
その鍵には、六つのアルファベットを合わせるダイヤル式の鍵のようだった。また、鍵のそばには文字列が添えられていた。

Pph fnzl, jxo Eacl Myacy reij rlfgs jtxldnb.

「これは、何かの暗号ですかね。シーザー暗号かな...。」
晏里はパソコンを開き、文字列を入れ替えるプログラムを動かそうとしていた。ベットの上で寝ていたサキは、おもむろに起きて、奥の作業台に消えていった。

「シーザー暗号...とは、なんでしょう?」
老紳士は不思議そうにその作業を見ていた。
「シーザー暗号とは、ジュリアス・シーザーがその名の由来となっている暗号の一つです。もっとも平易な暗号の一つで、各文字を、辞書の通り並べた時の三文字後の文字と入れ替えるという単純な暗号です。あの...もちろん三文字でなくてもいいのですが。......でも、違いますね。26パターン試しても、意味の通る平文に直らない。じゃあ、アナグラムか?分かち書きされているのが気になるけれど...。」


つづく

※フィクションです



では、また次の機会に。



参照した文献は以下

"THE CHEMICAL BASIS OF MORPHOGENESIS"  (A.M. Turing, 1952,Biological Science)



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