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空想

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#つくるのはたのしい

『春霞』Part.2

『春霞』Part.2

『春霞』のつづきとなっております。

短編小説です。

「おはようございます。」
昨晩は、意識がまどろんでいる状態で眠りについたらしく、起きたときに状況を理解するのに多少の時間がかかった。カーテンから漏れる光を見て、体をなんとか起こし、寝室らしき部屋を出るとダイニングテーブルに拓哉さんと見知らぬ青年が座っていた。体型は細身でいて、その乱れた髪と服装のイメージから、高身長と認識するのはもう少し後にな

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『花火と夜のあつい夏』

『花火と夜のあつい夏』

短編小説です。

「花火見に行きませんか?」
「花火...苦手なんですよね。音が。」
「音ですか?」
「ええ。あの、空気を裂いた音がそのまま胸に突き刺さる感じが...苦手です。」
「なるほど。では、手持ち花火はどうです。浴衣を着て、そこの河原で、二人で。」
「...それなら。少しなら。」
「決まりですね。」

「浴衣お似合いですね。きれいです。」
「ありがとうございます。久々に浴衣なんて着ましたよ

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『彩雲』

『彩雲』

”彩雲”
太陽光の回折によって虹色に見える雲のこと
太陽光が雲粒を回り込み、太陽光の中の角食の波長の長短によって曲がる角度が異なるため。色が分かれて虹色になるもの。

碧い空、真っ白に湧き立つ積乱雲、そして突き刺さる太陽の光が窓の外側に見え、部屋の中とは対照的に夏の季節を物語っていた。
そんな窓というキャンバスがかかっている薄暗い部屋の中で、コーヒーを飲みながらそのキャンバスを眺めていた。
突き刺

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『紫陽花と欲』

『紫陽花と欲』

もし、全てをわかってくれる人がいたら。

じめじめとした灰色の風が私の身体をなぞるように吹き抜けていく。
その風の色に導かれるように視線を移すと、そこには赤紫に彩られた紫陽花が咲いていた。
「あじさい...」
吸い込まれるように、ゆっくりとそれに近づくと、刹那、実体を帯びたような感覚を足元に受け、そちらに意識を持っていかれた。
「濡れっちゃったな......あ。」
一粒の水滴が紫陽花から水たまりに

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