自作ジェルのメリデメと作り方
僕が壱岐ウルトラマラソンでサブ9を達成した時やKyoto Great Roundで100マイル完走した時、メインの栄養補給はフラスクに入れた自作ジェルでした。この記事では、僕流の自作ジェルのメリット・デメリットや作り方、携行の仕方を紹介します。
どんな見た目?
125mlのフラスクに自作ジェルを詰め込み、こんな感じになります。ジェルの色は、後述するように、混ぜる商品によって無色にもなるし、他の色にもなります。
ジェル用のフラスクを使うメリット・デメリット
自作ジェルの話をする前に、まずはジェル用フラスクを使うメリット・デメリットについて紹介します。なぜなら市販のジェルを買ってジェル用フラスクに入れるだけでも恩恵があると感じるためです。
メリット1: 摂取量を自分好みに調整できる
市販ジェルをそのまま使う場合、一度開けたら一気に全て摂取するのが基本かと思います。60gのGUのエナジージェルの場合、60gを一気に摂取するのが普通ですよね。しかし、これをフラスクに入れることで、一度の摂取量を自分好みに調整することができます。
僕の場合は、30分ごとに約30g摂取するようにしており、この少量を頻繁に摂取するやり方が今のところ合っているようです。
摂取量の目安として、僕はメモリ付きのハードタイプのフラスクを使っており、一目盛りを約30gとして、30分ごとに一目盛り分を摂取しています。
メリット2: 開ける失敗が無い
市販ジェルを使っていたときには、開けるのに失敗してエイドでハサミを借りたことが何度かありましたし、冬にグローブをつけているときには開けづらさを感じることもありました。フラスクはそのような失敗・イライラが少なく快適です。
メリット3: 手が汚れない、ゴミが出ない
また自作ジェルの場合、開けるときに少し飛び出して手がベトベトしたり、摂取後のゴミがベタベタして不快なことがありました。その点、フラスクであればそのような汚れ・ベタベタの不快はないです。
僕が使ってるKODAのフラスクはロックできるので、漏れる心配もありません。
メリット4: ジェル以外の携行食が減る(かもしれない)
これは他の方に当てはまるか分からないのですが、僕自身は、小まめに少量ずつ摂取することで空腹感を覚えることが減り、結果的にフラスクジェル以外の携行食を摂取する機会がかなり減りました。100マイルのようなロングレースでも、行動中は全てこのジェルのみ、あとはエイドの補給のみで足りました。そのため、羊羹やグミタイプの補給食などサイズ的にも大きめの固形補給食が不要となり、後述する容器自体の大きさのデメリットと相殺できるかなと思っています。
デメリット1: フラスク自体の大きさと重さが嵩張る
僕が使っているのはハードタイプのフラスクなので、容器自体の重量(24g)がありますし、厚みもあります。そのため、市販ジェルを携行するのに比べて、全体の重さと容量は大きくなってしまいます。
下の写真はKyoto Great Roundで100マイル走った時の携行品で、右下にある16本のボトルが自作ジェル入りのフラスクです。16本全てを一度に携行するわけれはなく半分はドロップバッグに入れて残りの半分(8本)を携行したのですが、それなりの容量になることが見て取れるかと思います。容器自体の重さが一本24gなので、8本携行すると容器だけで約200gになります。
これらのデメリットはソフトタイプのフラスクを使えば低減できるかと思いますが、僕の場合は「30分ごとに一目盛り」という一度あたりの摂取量をコントロールできることが大事で、それによって大会ごとに全部で何グラムのジェルを作るかを逆算し、途中で尽きることのないようにすることができます。ソフトフラスクの場合、このあたりの摂取量の管理が難しいような気がします。
デメリット2: 入れる手間、洗う手間、そして保管スペース
これら自明ですが、一つ一つのジェルに入れる手間がかかるし、大会後には一本一本洗う手間がかかるし、それらを保管するスペースもある程度必要です。ただ僕の場合はこれらのデメリットよりもメリットの方が大きいです。
デメリット3: フラスク代の初期投資が必要
僕が使ってるのはKODAのフラスクで一本500円します。僕はこれを16本持っているので、初期投資として8,000円しました。まずは一本だけ買って普段の練習で試してみることをお勧めします。
ジェルを自作するメリット・デメリット
ここまでがジェル用フラスクを使うメリット・デメリットで市販ジェルを使ってもその恩恵を受けることができますが、今度はジェルを自作する場合の話です。
メリット1: 自分好みの成分比率と味
市販ジェルを使う場合、ジェルによって成分やその比率が異なりますが、自作ジェルの場合は自分が欲しい成分を一つのジェルにまとめることができます。例えば僕の場合はマルトデキストリン(炭水化物)、BCAAやクレアチンなどのアミノ酸、クエン酸、塩分などを全部混ぜていますし、これにマグネシウムを混ぜるのも今後やろうかなと思っています。
また、市販ジェルは僕にとっては甘すぎて途中で歯が痛くなることもあったのですが、自作の場合は材料を選ぶことで無味に近くすることも、適度な甘みにすることもできます。
メリット2: コストを抑えられる (先日の100マイルでは8,300円節約)
使う材料によりますが、一般的にはコストをかなり抑えられます。
僕はGUのエナジージェルをベンチマークとしてなるべく重量あたりの成分比率が近くなるように調合しているのですが、GUのエナジージェルが一本60gあたり320円に対して、自作ジェルの場合同じ60gあたり46円ほどで、だいたい7分の1に抑えることができます。
先日の100マイルの大会では、結果的に僕が摂取した自作ジェルは13本で1820g。これを全て市販のGUジェルに置き換えると約9700円ですが自作ジェルでは1395円。差額8,300円です。僕の場合は、この差額をカツサプやベスパ、MAGMAなどのリカバリー系のサプリに充てています。なおフラスクの購入費用は含まれてません。僕が使ってるのは一本500円なので、13本で6500円です。
デメリット: 調合する際の計算や原料選びが面倒
初めて調合する際には、まずは目標とする成分品目とそれぞれの分量と水分に対する比率を決め、それにあった原料を購入し、作りたい総量から水分量や原料の量を逆算し、それらを実際に調合していく手間がかかります。僕の場合のレシピは別途共有しますが、これが結構面倒くさいと思います。
特に、ベンチマークとする市販商品と全く同じ成分品目・成分量に近づけようと神経質になると原料選びや調合レシピの計算もかなり面倒になるので、結構大雑把に作ることになります。あとは、実際に普段の練習や大会で試してみて結果オーライなら問題なしです。
自作ジェルの作り方:原材料選び編
さて、ここまで読んで自作ジェルの覚悟が決まった方は、実際に作ってみましょう。まずは、購入する原材料を含めた計画を立てます。
なお、僕自身は栄養学とかは全くの素人なので、全て鵜呑みにせず、あくまで自己責任でお願いします。
ベンチマークを決める
何もない状態で自分で成分品目やその分量を決められる方は無視してください。僕の場合は全く分からず、とりあえずそれまで摂取していたGUのエナジージェルをベンチーマーク、比較対象とすることにしました。
このGUの成分表をホームページで確認すると、以下のようになっています。
メインは炭水化物とBCAA(ロイシン、バリン、イソロイシン)であることが分かります。なので自作ジェルでも、炭水化物とBCAAの原料を探します。なお大雑把に、炭水化物は脳と筋収縮のエネルギー源、BCAAは筋肉の分解や疲労感の低減、といった感じでしょうか(知らんけど。。)。脂肪燃焼の回路を回すためにもある程度の糖質は必要らしいですね。
炭水化物は粉飴
炭水化物は、僕は粉飴を使っています。主成分はマルトデキストリン。粉飴を使う理由は、先輩ランナーにお勧めしてもらったためです。いろんな商品がありますが、僕は以下のH+Bライフサイエンスの1kgの粉飴を毎回買っています。この商品であるこだわりは特になく、なんでもOKだと思います。
BCAAは好みの味で
BCAAは、僕はこれまで2種類試しました。
一つ目がパワープロダクションのグレープフルーツ風味。
二つ目がXtendオリジナルのレモンライム味。
最近は後者のXtendばかり使っています。そしてこれを混ぜているので、僕が作るジェルは黄色ぽい色になっています。
Xtendを使ってる理由は、ぱっと見でパワープロダクションと比較してビタミンB6やナトリウム、カリウム、クエン酸などが含まれており、なんとなくより幅広い成分が含まれているように感じたためです。実際のところは分かりませんw
自作ジェルの作り方:分量計画編
さて、メインとなる炭水化物とBCAAの原材料が決まりました。
次は、水とこれらを何グラムずつ混ぜるかの計画です。目標とするのはGUに近い成分量です。
とはいえ、何かコツがあるわけではなく、テキトーに混ぜていきます。
gあたりの炭水化物量をGUに近づける
まずは、ざっくりと、粉飴と水の量を計算します。
GUは100gあたり38gの炭水化物量です。一方でH+Bライフサイエンスの粉飴は100gあたり炭水化物量が95.5gなので、156gの水と100gの粉飴を混ぜると、95.5/(156+100)=0.37となり、gあたりの炭水化物量がほぼGUと同じになります。
95.5/(x+95.5)=38/100
gあたりのBCAA量をGUに近づける
GUは100gあたりのロイシンの量が642mgです。一方で、XtendのBCAAは、1スプーン14gあたり3500mgです。仮に100gの粉飴とスプーン一杯14gのBCAAを136gの水で混ぜて合計250gにすると、250gあたりの炭水化物量が95.5g, ロイシンが3500mgなので、100gあたりに換算すると炭水化物量が38.2g、ロイシンが1400mgになります。ロイシンの量がGUの約2倍になりますが、粉飴100gあたりBCAAスプーン一杯というのが分かりやすいですし、BCAA2倍入ってる方がなんとなく良さそうなので、この構成で行きます。
この時点で、自作ジェルとGUの成分比率は以下のようになります
Xtendはロイシン:バリン:イソロイシンが2:1:1なのに対してGUはロイシンの比率がかなり高いのですね。なんとなく自作ジェルの方がたくさんBCAA入ってて良さげな気がします(知らんけど。。)
コストを計算してみる
自作ジェルでは、全体250gに対してH+Bの粉飴を100g、XtendのBCAAを付属スプーン一杯分入れることにしてみましょう。
粉飴は1kgで1,100円、BCAAはスプーン90杯分で7,500円だとすると、粉飴100gあたり110円、BCAA一杯あたり83円なので250gあたり193円で、60gあたりだと46円となります。一方でGUは60gで320円です。BCAAが2倍以上含まれてるのに、値段は7分の1以下です。
自作ジェルの作り方:調合編
とりあえず、まずは上記に従って250gのジェルを作ってフラスクに入れてみましょう。
水を弱火で温めながら粉飴をBCAAパウダーをゆっくり溶かすだけ
手順は簡単で、136gの水を鍋に入れ、弱火で温めながら、粉飴100gとBCAAパウダースプーン一杯を混ぜていきます。
最初は粉飴がドロっと塊になると思いますが、たまにヘラなどで混ぜならが時間をかけると、徐々に溶けていきます。
最後まで溶けたら、冷まして、フラスクに入れます。
一回あたりの摂取量計画を決め大会毎の総量を決める
さて、ようやく、125mlのフラスクにジェルを入れることができました。ここで、ランニング中にどのくらいの量を一回あたり摂取するかも計画します。
KODAの125mlフラスクに入れて重さを測ると、125mlの容器に対して、約140gの自作ジェルが入ることが分かりました。このフラスクはメモリが3つあり1/4ずつ接種できるのですが、145/4=35gなので、一メモリあたりGUの60gエナジージェル半分、一本あたりGUのエナジージェル2本分が入ることになります。
なんとなくの目安で、1時間に一本のGUエナジージェルを摂取すると考えると、1時間に2メモリ分に相当するので、僕の場合は30分に一回、一メモリ分を接種することで、30分に一回GUのジェルを半分摂取する感覚でエネルギー補給をすることにします。フラスク一本で2時間分です。
そうすると、2時間のレースでフラスク一本で140gなので、100マイルのレースで32時間かかると予想すると、フラスク16本、2240gの自作ジェルを自作する計算になります。
これまでの計算で、水136g、粉飴100g、BCAAスプーン一杯で合計250gという比率を作れたので、2240gを作りたい場合には9倍の量を作れば良いことになります。面倒なので10倍にして、水を1360g、粉飴1kg、BCAAスプーン10杯にして余った分は練習などに使うことにします。
僕が使ってる材料まとめ
以上をまとめます。
フラスクはKODAの125mlを使っています。
粉飴は僕はH+Bです。
BCAAは僕はXtendオリジナルです。味はレモンライムをいつも使ってます。
分量比率は、250gを作るのに水が136g、粉飴100g、BCAA付属スプーン一杯です。
KODAの125mlフラスクに対して140g入れることができ、このフラスク一本分でGUのエナジージェル2本分です。
あとは適宜、炭水化物とBCAA以外の材料も加えてください。
僕はアミノ酸の一種クレアチンも加えています。
その他、クエン酸の顆粒や塩を少量加えたりもして、味の微調整をしています。
なお、BCAAやクレアチンは普段の練習後のリカバリーや筋力アップのためにも使えるため、自作ジェル作り以外でも日常利用ができますね。
どうやって携行するか
デメリットのところでも触れたように、ハードフラスクを使う場合、フラスク自体の容積と重さが課題になります。フラスク一本あたりGUのエナジージェル2本分で、高さと横幅はほぼ同じなのですが、厚みは2~3倍くらいになってしまいます。
まずは一本分などで試して実際の携行スタイルをイメージしていただきたいですが、僕の場合は、以下のようにして多いときで9本、時間にして18時間分を全て手の届く範囲に携行しています。
スパッツのポケットに1本
ウェストベルトの前後に2本ずつ計4本
ザックのウエスト部分に左右2本ずつ計4本
結構な量になりますが、僕はその分固形食を持つ必要がなくなって実質携行食はこのジェルのみで足りるので、結果として携行食全体の容積はそんなに変わらない気もしています。
最後に
分量を測るところが面倒でしたが、一度自分なりの式ができてしまえば、あとは大会の目標タイムから逆算してそれぞれ何グラムずつ配合するか決めるだけです。あるいはまとめて全てx10で作ってしまってフラスクに積めて余った分は次回使うなどでも良いと思います。
課題はやはり嵩張ることであまりスタイリッシュではないので、半分は自作ジェル、半分は市販ジェルをそのまま持ち運ぶなどでも良いかもしれません。
ぜひ最初の一本から試してみてください。