#2
母親に、約20年間騙されていた話。
母親のことを、それなりに尊敬していました。
旧帝大卒で、アパレルの店長経験がある。視覚障害などもあり、色々苦労したものの頑張った人。僕には無理なことをやっていて、すごいな、と思っていました。
薄々感じてはいましたが、そんなすごい人間が、中卒の父と結婚するわけないですよね。
少し前に、母が倒れたんですね。僕の家にはほぼ身内がいなくて、唯一身内と言える叔母に連絡を入れました。一応母親の妹だし、色々助けてもらいたかったので。
話は変わりますが、僕の家は何故か汚部屋です。部屋の片づけがひどく苦手で、ゴミ捨てもまともに行けないタイプの人間です。あまりにも苦手なのでADHDの類いを疑っているのですが、五年ほど前に検査した結果は健常でした。そして、キッチンはゴミ袋に埋もれ、シンクは生ゴミで満ち、トイレは使用済みの衛生用品の山。そんな家で育ったせいか、直し方もわからない状態で成人してしまいました。
叔母が我が家に来た時に、掃除を手伝ってくれました。何年もかけて溜まったゴミをゴミ袋に入れたり、粗大ゴミをゴミ収集所にもっていってくれたりと、至れり尽くせりでした。
ふとした時、母の話題になりました。
「うちの家族に、高卒は一人もいないよ」
それを皮切りに、僕の母への感情は潰れました。
進学校に行ったものの、学力がついていかず一年生の時に辞めたそうです。
騙されて高額で服を押し付けられたそうです。
旧帝大卒の彼氏がいたものの、そこまで続かなかったそうです。
僕の父親ではない、一人目の旦那と一緒に部屋を汚いままにして逃げたそうです。それの処分は祖母と叔母がしたそうです。
尊敬していた母親は、どこにもいませんでした。
全てが虚言で、虚像だったんです。
旧帝大卒の母親に比べ、市内の隅っこのFラン大学に通う僕はダメ人間だなぁ。そう思っていました。
進学校卒の母親に比べ、県内の端っこの偏差値40以下の高校に通う僕はダメ人間だなぁ。そう思っていました。
いくら進学校に入学出来る頭があったって、卒業出来なきゃ意味がないんじゃないですか。そもそも、嘘を吐くのはいけないのではないですか。
うそつきは泥棒の始まりだと口酸っぱく教えてきたのはあなたじゃないですか。
それらを聞いた時の僕は、何も考えられなかったです。
結構、母親の事を色々なところで自慢してきたんです。
僕に嘘を吐くのはいいけれど、僕以外のみんなが騙され続けるのが可哀そうで。そして何よりも、こんなことを僕が誰かに伝えたら、僕の育ちが悪いと思われて、僕の友達が減ってしまうのではないか。そう思いました。その思考になる自分すらも、母親に似たようで気持ち悪くなりました。
でも、育ちってそういうものだと思いませんか?
家庭と子どもって、よく似ると思います。必ずどこかでボロが出るんです、きっとそういうのは。
大学、高校の友達になんて愚痴れたものじゃないです。幼馴染にも話せませんでした。
だけど、あまり会わないけれど僕を信じてくれる、大好きな人にこの間やっと話せました。その子はとてもやさしくて、僕を肯定してくれました。
「そんな中、よく頑張ったね」と言ってくれました。
わかってくれました、とても嬉しかったです。
その子がいなかったら、僕はたぶんおかしくなっていたと思います。その子の事を、猶更好きになってしまいました。
母親がこんなんでも、思っているよりもまともに育っていたみたいです。
人生なのでほかにもいろいろあるのですが、結構頑張っててえらいと言ってもらうことが多いです。何もできないのに。
その話はまた追々書きたいな。
ではまた。
ぽつりぽつり、と。
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