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読書記録『さまよう刃』
「さまよう刃」は、2004年に発行された東野圭吾による長編小説。
最愛の娘をもっとも残酷な形で亡くした主人公が、その人生を賭して復讐を図るという重ための内容。
それぞれの登場人物の生々しい感情表現に胸が痛みながらも、予想を裏切る展開に一気に読み進めてしまう。
それでいて少年犯罪という非常に難しいテーマに勇気をもって切り込んでいる作品だと感じた。
同じく娘を持つ父親という立場として、もし自分が同じ状況になったら・・・と想像せずにはいられない。
主要人物から脇役まで様々なキャラクターが「自分だったら・・・」とそれぞれの立場から考えを述べる場面が多いので、より読者に自分事として考えさせる作りになっているのかもしれない。
「気持ちはわかるけど、復讐(殺人)はだめだ」というのが大半の意見だろう。
自分も理性ではもちろんそう思う。
一方で、どれだけ重大犯罪を犯しても数年で赦される若者に対して、「自分がやらなければ誰が彼らを裁くのだ」と考える主人公の気持ちも非常に共感できる。
なにより、自分の命より大事な愛する人を奪われた苦しみの前では、そんな真っ当な理由などなんの意味もなさないのかもしれない。
究極は、その立場になってみないと分からない。
ただ、この小説を読んだうえでの自分の考えとしては、「亡くなった者が悲しむような未来は選ばない」ということだ。
そして、亡くなった者が一番悲しむこととは、「自分が好きだったあなたらしさが死んでしまう」ことではないかと私は考える。
復讐鬼と化しても、最後まで本来の優しい心根を失わなかった主人公。
この小説では何が正しくて何が間違っているというような結論は一切存在しない。
主人公の辿った最期に、亡くなった娘は何を思うのか。
ただ胸を締め付けられるだけではなく、深く深く考えさせられる物語だった。