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読書|津村記久子「うそコンシェルジュ」

単行本:272ページ
読了までにかかった時間:180分

「こういう話すごく悪趣味ですよね」
・・・
「でも毎日毎日情報が出るから見てる。こいつすげえクズだなって思ってたら、自分のことをゴミみたいだって思う時間が減るから」

津村記久子『うそコンシェルジュ「第三の悪癖」』

連日流れてくる芸能人のゴシップを執拗に追い続けることで、その間だけは自己嫌悪から解放されているような気がする。あるいは、母親が集めている食器を実家から少しずつ持ち出してはこっそり破壊することで、母親に対する負の感情を自己処理しようとする。

そんな非生産的な習慣を続けることでどうにか心の安定を保とうとする人と出会い、当初はその異常さに驚くもののそこに至るまでの心情に思いを馳せることで次第に打ち解けていく様子を描いた「第三の悪癖」。

誰かを傷つけたくない一心で自分を擦り減らしながら懸命に嘘をついていくうちに、人から頼られるようになり気が付けば信頼される嘘つき請負人となっていく「うそコンシェルジュ」。

散々話を聞いてあげていた相手の言動に振り回されていていることに気がつき疲れ果ててしまう話など、過去の自分の体験を思い出しながら、あの時はちょっと嫌だったなとか、少し苦手だったあの人は今頃どうしてるんだろうなんてことを思いながら読んだ。

誰もがしどろもどろで、時には嘘をつきながら、くだらないことに時間を溶かしながら、なんとかつじつまを合わせてその日を乗り越えている。そんな人間の駄目さとややこしさを肯定してくれるような全11編の短編集。

「いい人だよね」と言われがちで、自分のことよりも相手のことを考えすぎてしまう人、小さな嘘をつくことにさえ大きな罪悪感を抱いてしまうような人には特に共感できる物語たちかもしれません。

津村記久子「うそコンシェルジュ」
新潮社 2024年10月30日発売

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シマエナガ子
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