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「人生の役に立ちそうにない本を」

「受験に無関係で、人生の役には立たなそうででもちょっと面白そうな本を買いなさい。ただし、小説以外」

そう担任に言われたうちの高校生が、さっそく本を買ってきた。

普段はもっぱら小説ばかり読んでいる子なので、どんな本を選んでくるのだろうと興味津々だったし、万が一変な本を選んできてしまったらどうしようとちょっと不安に思ったりもしたのだけれど、実際に買ってきたのはこの2冊だった。

「人間心理のふしぎがわかる本」と「日本史 不適切にもほどがある話」。


普通に役に立ちそうじゃないか‥。「役に立ちそうにない本」を選ぶって難しいんだな。というか、そもそも「役に立ちそうにない」って何なんだ。

と思いつつも、「そうした発想で選ぶ」ということが重要なんだろうと思った。

明日の自分に直接役立つものとして選んだものではなく、ただなんとなくの直感で選んだものが深層心理に潜む好奇心をくすぐることもある。

いつの日かそれが自分の土となり、もしかしたら生活にちょっとした楽しさをプラスしてくれるかもしれない。視野を広げるきっかけにもなるかもしれないし、場合によっては今後の進路にだって少なからず影響を与えるかもしれない。

視野が狭くなりがちな受験期の子どもたちに、「人生はまだまだ長いよ、面白いことがいっぱいあるよ、知らないことがまだまだたくさんあるよ」という担任のメッセージが込められているような気がして、いい声掛けだなと思った。


にしても、本を選ぶって実はきわどい作業なのかもしれない。

キャッチーなタイトルだったり、魅力的な装丁だったり、作家の名前だったりで選ぶのは簡単だ。

でも、人を貶めたり、科学的根拠がないのにあるような顔をして過度に不安を煽ることで儲けようとする本も書店には存在するから、一冊との出会いが良い方にも悪い方にも人生を導いてしまう可能性がある。

知識や経験に乏しい一般読者がそれを見極めないといけない。

だから、書店のポップだったり新聞の書評や賞レース、レビューサイトや選書サービスといった信頼できる誰かのフィルターが存在するのだけれど、そういう意味では、心揺れ動く多感な時期の生徒たちのことをよく分かっている学校の図書館というのは、一定の信頼を担保された安心感のなかで本を選ぶことができる貴重な空間なんだなと思った。そのありがたさに気がつくのは、きっと卒業して何年も何十年も経った後だろうけれど。

さて、我が子はこの本たちをいつ読み終えるだろう。小説は一気読みすることが多いようだけど、細切れでも読み進めやすそうな本だし時間が掛かるかもしれない。(受験生だし。)

この本たちがいつかこちらに回ってくるのを母は気長に楽しみに待っているよ。

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シマエナガ子
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