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#35 大山詣り

 東京から電車に揺られること約1時間。向かった先は小田急線の伊勢原駅。大山の阿夫利神社が目当てだ。大山は標高が1200m以上もあり、その頂上付近に阿夫利神社はある。ここには登山を専門としない観光客も多く訪れる。
 私は大山詣りを行おうと決めた。なぜかというと、江戸時代の民衆信仰に関する話題の記事で「大山詣り」が散見されたためだ。江戸に住む庶民は私たちが思っている以上に行楽を求めた。もちろん江戸時代の行楽には様々な形が見られるが最も人々を惹きつけたのはやはり旅行だ。この旅行には「参拝」という目的がある。江戸時代には全国的にお伊勢参りが流行したが、いかんせん江戸からは遠い。そのため、江戸から1泊でいける大山は格好の行楽地であった。

 さて、そんな大山のふもとに到着すると江戸時代からの行楽地らしい参道が目に入る。

 しかし、残念ながらシャッターがおろされたお店ばかりであった。というより、すべてのお店がそうであった。「大山はもはや過去の遺物なのか?」と疑問に思ったとき、参道の突き当りでその理由が判明した。立看板にはこうあった。「本日、ロープウェイは休業」と。しまった。大山は1200m級の山だ。ロープウェイ無しに果たして頂上までいけるのか。でも、ここまで来てしまったんだ。行かない手はない。そう決心し、登山を開始した。


 はっきり言うとここは登山中級者以上の山だと思う。本当に登るのがキツかった。午前10時には開始したが頂上にたどり着いたのは14時であった。下りには3時間はかかったとと思う。だが、苦労の甲斐もあって頂上での景色は別格だった。

 頂上の鳥居から眼下に広がる景色は江ノ島などだ。普段なら観光客でごった返すのであろうが、不幸中の幸いなことにロープウェイが運行していなかったため、観光客は一人もなく、静謐な空間がそこにはあった。
 今回、私は無心に、ただひたすらに登り続けた。大山が江戸の人々を惹きつけたのはそこにあったのかもしれない。当然ながら当時はロープウェイなんてない。日々の鬱憤はこの程よい登山の苦労によって忘れ去ることができたのかもしれない。さらにこの頂上からの眺め。大山詣りは江戸時代で人気の行楽になるには十分であったろう。自身の足で登ったことによって当時の人々の気持ちに近づけたかもしれない。

 だが、登山の後悔が1つだけある。それは足回りの筋肉痛が3日はおさまらなかったことだ。

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