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【書評】投資家の思考法 奥野一成

概要

本書では「時間」「才能」「お金」の3つの資産をどう活用するかというスコープで投資を論じている。

そのうえで、投資家の思考法を実践するために必要な①付加価値②競争優位性③長期潮流をはじめとしたフレームワークを概念的に示すだけでなく、そのフレームワークをどうやって使っていくのかも具体的に説明されている。

加えて、個別のフレームワークの裏側にある信念・価値観の部分もしっかり書かれており、そもそもどういう考えに根差したものか理解したうえでフレームワークを学ぶことができる事は価値が高いと思う。

評価軸は

  1. 視野の広さ

  2. 思考の順序

  3. 企業分析のノウハウ

詳細

1.視野の広さ

株式投資に限らず、自分自身を含めたジブンポートフォリオの観点で全体最適を目指すもので、読者が本書で学んだ内容を実践したとすると、極端に言えば今は株式投資に精を出すよりほかのことを優先した方が良いと判断することもありうる。

投資家の目線で自分自身を眺めることは、長い目でいえば自らの付加価値を高めることに役立つだろう。
株式投資の本というより広い視野の本なので、全く投資に興味がないという人が読んでも面白いと思う。

2.思考の順序

私が本書を通じて感じたのは、思考の順序・因果を意識した記述が多いということ、例を挙げると以下の様なものがある

  • 企業が利益を上げられるのは誰かの問題を解決しているから。

  • 競争優位性を築いているから利益が上がり高い株価が実現する。

他にも思考の順序・因果を意識的に取り上げた記述は多い。
このような内容は暗黙の前提として書かれていないことも多く、個別のフレームワークの土台としてどのような考えがあるのか明らかにするうえで重要だと思う。

3.企業分析のノウハウ

企業分析の手法はかなり具体的である。
また、分析の視座も財務諸表分析の範囲にとどまらず、どうしてその企業は競争優位性を獲得できるのか?に答えを出そうとするもので、競争優位性が築けていれば利益を出すことができる。利益が出せれば株価は利益に応じて評価される。というロジックの元に組み立てられている。
ただし、丁寧に説明されているので一見簡単に感じてしまうが、いざ自分の投資のために実践するとなると大変労力のかかかる手法である。労力はかかるが、そのぶん、よく言われるなぜその企業に投資するのかを子供にでもわかるように話せるレベルまで消化することができるだろう。
この分析手法は、先に述べた自己投資にも応用が可能で、著者がインベスターシンキングが自己投資にも役立つというのは納得である。

総評

読者個人の視点から見れば、ジブンポートフォリオで投資を見るというのは重要な視点だと思う。
私自身の興味から言えば、本書が面白かったのは、財務諸表分析よりも上流に遡ってそもそもの戦略レベルの議論がされていたことだ。
投資関連の書籍ではせいぜい財務諸表分析までしか述べられておらず、ビジネス・経営の良さと財務の良さの間にミッシングリンクがある本が多いなか明確にそのリンクをつないでいる良書だと思う。

以下の本を併せて読むと参考になると思う。

競争優位・参入障壁を考えるうえでぜひ読んで欲しい原典みたいな本。

産業の枠組みを見直すうえで非常に参考になる本。

投資先企業がどのようなプロフィットモデルの上に成り立っているのかを見ることで強い競争優位性の上にいるのか弱い競争優位性の上にいるのかを判断する参考になる。


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