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【書評】欲望と幻想の市場―伝説の投機王リバモア

書籍情報

書名:欲望と幻想の市場―伝説の投機王リバモア
著者:エドウィン・ルフェーブル
訳者:林康史
出版社:東洋経済新報社
出版年:1999年

20世紀初頭に活躍した相場師ジェシー・リバモアへのインタビューをもとに書かれた小説。実態としてどこまでが事実かはわからないがノンフィクションに近いものとして扱われていることが多いように思う。”三国志演義”や”ローマ人の物語”の様な位置づけの本と思って読んだ方が良いと思う。

本書の面白さは20世紀初頭の相場師がどのような考えをもって相場と向き合っていたかを見ることができるという点。前に書評を書いた”デイトレーダー”の中でも推薦書籍として挙げられていたのだが、本書の評を見たところ、高く評価する人の多くは、市場を具体的な相手(売り手・買い手)との勝負という様に見ているように感じる。本書では株価操縦やインサイダーに関わる記述が結構多く、市場の中のだまし合いのために様々なプレーヤーがどう立ち回ったかなど面白く読めると思う。何しろ100年以上前の話なので、今だと違法だろうなーと思いつつ読むところも多数ある。

また、もう一つの視点として、成功した投機家に学ぶという読み方もあるが、ジェシー・リバモアは4度も破産を経験しているということで、成功した投機家と見るのはあっているのか?と思う。

破産と復活を何度もしているというのはたくましさを感じさせる話だし、1度でも成功させるのはすごいことに違いはないのでその話を聞いてみたいというのは分からなくはないが、彼の投資哲学や手法を真似すれば成功に近付くと考えるのは恐らく筋が悪いと思う。

加えて、2つジェシー・リバモアと普通の個人には違いがあるので、哲学や手法を学ぶという意味では限定的な意味しかないように思う。
違いの1つ目は時代背景、ジェシー・リバモアが活躍した時代上場企業は数百社しかなかったような黎明期と言っても差しさわりのないような時代で制度設計が現代とは全く違う。先にも少し触れた通り今だと明らかに違法な取引が平然と行われていたり、具体的な売り手買い手を特定できるという状況だった。

2つ目は、かなり大きな資金力を持って取引をしているということ。もちろん種銭を作る段階では個人と同様にトレーディングで稼ぐわけだけれど、株価操縦やピラミッディングといった手法は合法非合法以前の問題として、そもそもかなり資金力がないと実行できない。

このように考えると投機手法を学ぶために読むという目的にはあまり向いた本ではないと思う。ただし、純粋に読み物として面白い本なのでこの点が本の価値を下げるものではない。20世紀初頭の相場師の物語として十分価値のある本だと思う。

併せて読むと面白い本

当時の投資環境を知るうえで下記の本は面白い。現在とはあまりにも環境が違っているので安易に株式市場のイメージを固め過ぎないでおくためにも併読をお勧めしたい。

投機手法の本としてみると評書はそもそも小説ということもあり、感覚的過ぎる。投機の格言や心構えという意味では良い本だと思うが、具体的な手法への落とし込みはできていない。本書を読んで「このように投機をすればよいのか!」と思う様では解像度が低すぎると思う。
下記の本で投機手法を網羅的にカバーしているとは言えないかもしれないが、少なくとも具体的な方法論を考える上では役に立つ一冊と思う。

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