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「ささ恋」アニメ事件で制作側に求められる対応とは[ささやくように恋を唄う]


業界で二度とこんな悲劇が起こらないように

今回の「ささ恋」アニメ事件について客観的に言えることが1つあるとすれば、「このアニメの主な関係者は、責任の所在を明らかにして、各々それ相応の責任をとり、この事件に関する情報を透明性高く公開し、二度とこのような悲劇の起こらないように業界全体で再発防止に努める」しかないと考える。

一迅社さんにせよ、このアニメの制作と製作に携わった主要関係者は全員きっちりと責任を取るべきだと思う。NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン合同会社さんからの告知では「何卒ご理解賜りますよう」と書いてあるが、何が「何卒ご理解賜りますよう」なのか。何も説明もなしに「中止します」でファンが納得しないのは当然だと思う。シンプルに考えれば、「倒産しそうな制作会社にアニメ制作を依頼するな」という一言に尽きると思うので、今回の事件は企画側に問題があると思うが。

しかし「ささ恋」のアニメがきちんと作られなかった問題と、「ささ恋」のアニメを制作する側に一体どんな問題があったのかはまた別の話であって、前者が解決されれば後者はどうでもいいかというとそうではない。後者に関しては、クラウドハーツさんが倒産しているのではないか説や横浜アニメーションラボさんがヤバいみたいな話も流れてきていて、情報がとても錯綜している。

告知されている情報から考えたら、11話12話の半年以上の放送延期といい、制作スケジュールに相当問題があったのでないかと推測できるが、原因が何なのは断定はできないだろう。今回の事件に限らず、アニメ業界はアニメーターへのやりがい搾取だとか、労働体制が根本的に問題になっているが、今回の事件も相当闇が深そうではある。

怒るべきときに怒らず、何がファンか

最近のオタクは情けないので、怒るべきときに怒らないし、正当な批判に対しても一括で誹謗中傷と捉えて、とにかく悪く言うことに対して極端に嫌う傾向がある。その点、今回の「ささ恋」アニメについての一連の騒動だったり事件についてはきちんと怒っている人たちがいたので、あぁ百合界隈は民度が良いのだなぁとだいぶマシに思ったりした。

独裁国家みたいに言論統制されているファンダムも多々あるので、そうはならないようにしたい。誹謗中傷は良くないが、批判は積極的にするべきだと思うし、正しい情報がわかったら広く共有されるべきだと思う。

「ささ恋」の熱心なファンは今回の事件に対して怒っていいし、怒る権利があると思う。筆者も「ささ恋」は相当好きだけれども、アニメ1話の時点で期待できない感じがしたので冷めていたというか距離をとって見てしまっている節がある。まさかBlu-rayの制作が中止になるとは夢にも思っていなかったけれども。

オタク生活の大部分を「ささ恋」に捧げている、ぐらいのモチベーションの高いファンからすれば今回の事件は相当腹の立つことだと思うので、その怒りの炎をもっと燃やしてより生産的な方向に注いでもらえればと思う。今後の百合作品がアニメ化されるときに今回の「ささ恋」の悲劇が起こらないようにするには、ファンにできることは一体何なのだろう。

アニメ化を期待しすぎないように考えを改めてみる

今回の「ささ恋」アニメ事件をきっかけに、今一度アニメ化されてどういうメリットがあるのかをファン側も考えたほうがいい気がする。今回の事件で「ささ恋」ファンは被害者であって何か責任があるわけではないけれど。

昨今のアニメ業界は「どれか1つでも大ヒットすれば!」という数うちゃ当たる作戦の自転車操業で毎クール膨大な数のアニメが作られ続け、作る側も消費する側も疲弊している。そのような背景を理解していれば、質の低い作品が大量に作られている=丁寧に作られたハイクオリティの作品の割合は極めて少ないことがわかるはずである。前述したように、筆者が「ささ恋」アニメの1話を見て冷めた目で距離をとっていたのはこれが理由だ。

テレビアニメのクオリティが低かったからといって原作の価値が下がるわけでは全くないのは自明だが、ではアニメと原作を全く別物と考えてアニメ化が失敗してもそれを受け入れろと言っているわけではない。「映像化するのであれば劣悪な作品だったほうが嬉しい。

なぜなら原作の良さが改めて評価されるから」と考える原作者は変わり者だと思うし、「映像化した作品の評判が良くてその流れで原作も好きになって買ってもらう」ほうがみんな幸せで健全だと思うのだけれども。だが、現実的な身の振り方・ファンとして自分の心を防衛するための1つの考え方として、アニメ化されることによって自分にどんなメリットがあるか今一度考えてみるのはどうだろう?

アニメ化されることで作品の良さを今以上に多くの人に知ってもらえる、動いて喋るキャラクターたちを見たい!気持ちは確かにわかる。しかし前述の通り、昨今の粗悪品が大量生産されるアニメ業界において熱心なファンの求める理想のアニメ化を実現できるケースは非常に稀だ。

アニメ化の敷居が低くなった現代において、大昔のようにアニメ化は喜ばれることではなく、むしろ失敗する可能性の方が高いというリスクを孕んでいると不安に思うほうのが普通ではないかと筆者は考える。そのリスクを負ってまでアニメ化されることで、あなたにとってどんなメリットがあるのか?今一度冷静に考えてみると、私たちが思っている以上にアニメ化のメリットはファン目線だと少ないのではないかと思えてくる。

声優陣と音楽は間違いなく良かった、それ以外は……

今作はとにかくキャストのメンツが凄まじかった。発表されたときや追加で告知されたときにはあまりの豪華さに当時も今も笑いが込み上げてきた。キャストの豪華さだけでいえば、2024年春クールでも屈指だったのではないか。瀬戸麻沙美、古賀葵、小松未加子、小原好美、加隈亜衣、上田麗奈、安済知佳、東山奈央(敬称略)。銀河系集団すぎる。

さまざまな作品で主演級の役をいくつも持っていらっしゃる、今をときめく実力派声優の嵐。中華ゲーをやってる人なら名前を見たことがない人はいないだろうし、プリキュア声優もたくさんいらっしゃる。この国の現役女性声優の30代付近の世代のなかでトップクラスの人たちをよくこれだけ集められたと感心したものだ。

キャスト陣へのギャラが高すぎたからアニメは失敗したのか?冗談はさておき、彼女達以外にも、今作が初主演の嶋野花さんは期待感抜群で、原作屈指の人気キャラ泉志帆を担当された根本優奈さんも大変良かった。ヴォーカル担当の笹倉かなさんも水上スイさんも、楽曲だって良かったはずだ。演技の面では全く問題はなかったように思う。

ただインターネットでも話題になってる通り、あまりにもアニメ本編が酷すぎた。作画が崩れまくってる。ほとんどの人が言っているが、1話の時点で地雷感はあったが回を重ねるごとに酷さが増していった。

今回Blu-ray制作を中止した理由には、テレビ放送版からあまりにも修正する箇所が多いからというのも大いにありそうだ。作画崩壊しまくったと悪評のアニメはBlu-rayも売れる見込みが低いのだから、そこにリソースを割いても……と考えてのコストカットなのだろうけど。

それとアニメの構成的にも疑問ではあった。作中屈指の人気キャラ泉志帆の物語が一段落する原作9巻までをアニメ化するというアプローチはわからないでもないが無理があった。筆者も泉志帆が大好きなファンなので、泉志帆が活躍せずにアニメが終わるのは勿体無いと思っていたので。とはいえ、あまりにも物語が急展開すぎたし、わかりきっていたことだが12話でやるにはハイペースすぎた。

詰め込みすぎたのもクオリティの大幅な低下の原因な気もしている。余談だが、筆者は「ささ恋」は百合姫での初連載から読んでいるが、正直最初の頃は百合姫でのプッシュしてる感が否めず作品自体もそこまで魅力的に感じていなかったが、泉志帆の登場からモチベーションが復帰した勢なので。

原作者があまりにも可哀想

今回の騒動で一番被害を被ったのは原作者である竹嶋えくさんじゃないかと思う。「ささ恋」を愛しているファンはもちろん、演者や製作陣のなかにも作品愛のあった人たちはいただろうから、その人達も辛い思いをしたに違いない(もちろん作品愛のない人もいるかもしれないが)。

その中でも特に、原作者が一番辛いのではないか。本当は思うところがあるのかもしれないが、何も言わずに黙っていたのは大人の対応という感じだった。筆者が原作者の立場だったら、もっとSNSで怒りの炎を撒き散らしていたであろうし、こんなに大人な対応は絶対にできないだろう。

原作者の中には「自分の携わってない作品の質に関してはどうこう言わないし、どうでもいい」と考える人も実際にいるけれど、大抵の場合は自分の作品に対して愛があって、他メディアで表現される場合(特にアニメ化など)にも一定のクオリティを期待するのが普通だと思う。

そう考えたら、「心中お察しします」だし、「ささ恋」アニメの出来が酷すぎて今後の原作のクオリティに支障が出てもしょうがないとさえ思えてくる。原作者さんのファンや周りの人が原作者さんの心の傷を少しでも軽減できればなと願うばかりだ。

また、「竹嶋えくさんには『わたなれ(わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?))』があるから」みたいな意見もみたが、「わたなれ」の原作はみかみてれんさんであって、竹嶋えくさんはあくまでイラスト担当でしかない。

イラストだけでなく、キャラクターを産み出したり漫画のストーリーを考えたり脚本を練ったりとありとあらゆる作業をゼロから全てお一人でされた「ささ恋」とは比べられないのは自明だ(※厳密には編集の助力はあるのでお一人ではないだろうが)。

リメイクに期待するしかない

百合姫の愛読者ならわかるだろうが、「ささやくように恋を唄う」は百合姫の押しも押されもせぬエース作品といって間違いなく、アニメがこれだけ大失敗しようが原作はこれからもコンスタントに売れ続けるだろうし、内容面でも評価されるだろう。

なのでファンのできることとしては、原作に今後もお金を使い続けて応援することで、別のちゃんとした制作会社から2作目のアニメが作られることを気長に待つしかないのではないかと思う。そのときは、できれば声優陣は2024年版と変えないで欲しいものだが。アニメがこれだけ悪評になってもX(旧Twitter)では「この機会に原作を読み出しました」みたいな新規勢がいらっしゃることが不幸中の幸いといえるか。


余談だが、2024年の年内に舞台版のBlu-rayの発売がなくなったと告知があったときに、筆者はアニメのBlu-rayの発売が中止になったと勘違いしていた。なので、今回の告知があってX(旧Twitter)でトレンドに入っていて「何を今更」と思ったが、アニメのBlu-ray発売中止は今回が初めてだったのか。結果的に精神的なダメージは軽減されたけども、せっかちというかちゃんと情報を見ていなかったのは反省したほうがいいと我ながら思った。


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