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スイッチオフしてテイクオフ

まるで、この子と2人だけの孤島にいるよう。

育休中の焦燥感を思い出す。
幸せと背中合わせにあった孤独感。

日がな一日我が子と向き合う。
身支度をし、散歩に出て、食事をさせる。
支援センターに行けば、同じように大人との会話に飢えた親御さんがいた。
とても意義のあることをしているはずなのに、生産性がない自分に落ち込む。働いていた頃のスピード感とまったく違い、目にみえる成果や達成感がない。どんどん社会から追いていかれる感覚。

望んでようやく腕に抱けた我が子なのに。

子にも失礼な自己嫌悪のループから抜け出すべく、子どものお昼寝中や就寝後に、小さな達成感を満たそうと思い立った。
長女は抱いていないと寝られない性質だった。
離れず、体勢を変えず、なるべく物音をかけずにできて、かつ、成果が出るもの。
試行錯誤し、行き着いたのは、携帯の某言語学習アプリだった。

大学時代、第二言語にドイツ語を選択していた。
大して身に付かなかったが興味深く楽しく学べ、またやり直したいなと常々思っていたのだ。
アプリでは母語を英語に選択し、ドイツ語を学ぶことにした。純日本人だけど。
男性/女性名詞や語順などの違いはあれど、言語が近いので、両者を比較しながら一緒に学ぶほうがわかりやすかったからだ。

携帯ひとつで、一時的に育児モードをオフして、言語の世界へテイクオフ。

これが私にはとてもいい発散法だった。
脳の使っていなかった部分の体操にもなり、精神状態もよくなった。
毎日少しずつでも歩みを進めると、それなりに効果を実感してくる。知的好奇心が満たされた。
この習慣は、第二子を妊娠してつわりが始まるまで、結局そのまま2年弱続いた。

言語は翼だ。
また間が空いてずいぶんと単語は抜けてしまったが、興味は広がり、Haller、JEREMIAS、Oehlなどクラシック以外のドイツの音楽シーンにも注目して聴くようになった。
英語圏ではないので情報へのアクセスは容易ではないが、キーボードにドイツ語設定をしておけば、調べながらでも動向を知り追いかけることが可能だ。
好きなものと結びつけば、ささやかにでも学び続ける強い動機になる。なにかを言い訳に、どんな状況でも好きを手放すのはもったいない。

仕事、家事、育児。すべて大切。
それでも一日のどこかですべての役割スイッチを切って、ただの「私」が興味の翼で自由に飛びまわる時間があればいい。
好きのエネルギーは、すごいのだ。

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