<本と映画の答え合わせ>第29回「ミスト」
【本】
〇タイトル:ミスト
〇作者:スティーヴン・キング
〇感想:
・霧が物語の中心に据えられているが、この霧は何なのか、どうやって発生したのか、そしてその中には何が潜んでいるのか。読み進むほどに謎が深まり、物語に引き込まれていく。
・特に霧という日常的な現象を題材にしたキングの発想力には驚かされる。普通なら誰も思い浮かばない霧をホラーに仕立て上げる独創性に驚く
・スーパーマーケットに閉じ込められた人々が、未知の怪物に対する恐怖に苛まれる様子が描かれている。その恐怖が集団心理を揺さぶり、混乱と分裂が生まれていく様子はリアルで、読者としても緊張感を抱く。しかし、登場人物が多いうえ、ファーストネームやファミリーネームが混在しており、またスーパーマーケット内の構造が複雑なため、誰がどこで何をしているのかが把握しづらい
・霧の発生や怪物の正体については、仄かに手がかりが与えられ、読者が自分なりに推測しながら読み進める楽しさがある。だが、いざ結末を迎えると、あまりに曖昧で何も分からないまま終わる。手がかりは示されているが、それがどう繋がるのかは読者の想像に委ねられる形である。夢の中の出来事で片づけてしまうよりははるかにましだが、すっきりしない部分も残る。映画での描かれ方に期待が高まる
〇評価:○
【映画】
〇The Mist(2007年)
〇監督、主演:ランク・ダラボン監督、トーマス・ジェーン、 ローリー・ホールデン
〇感想:
・冒頭、嵐のシーンが少し短く感じたが、湖畔に立つ大きな家や湖、ボートに象徴されるアメリカらしい生活風景に引き込まれた。特に過去にレイク・タホで見た、ボートを牽引する大きな車の光景を思い出し、懐かしさが蘇った
・全体的には本(原作)に忠実な作りで、霧の中の怪物の描写も本(原作)のイメージと大きな違いがなく、視覚的に違和感なく楽しめた。特に怪物との対決シーンは迫力があり、恐怖感を煽られる。一方で、時折登場する残酷なシーンは、ホラーが苦手な人には少し辛いかもしれない
・都会と田舎の対立や弁護士と芸術家、狂信者など、様々な立場の人々が集団の中で衝突し、混乱が増していく様がうまく描かれている。極端な方向へと突き進む集団心理が見事に表現されており、まるで現実世界でも起こり得るかのような恐ろしさがある。実際に歴史上、このように歯止めが利かなかなくなり、騒乱に発展した出来事もあるのであろう
・何より驚いたのは、ラストの展開である。本(原作)とは全く異なり、予想外の結末が待っていた。この終わり方は虚無感と絶望感を与え、主人公同様 "No~" と叫びたくなる。本(原作)の結末の方が、個人的には好みだと感じた
〇評価:○
【総合】
〇感想:
・本(原作)は登場人物や状況が頭の中で整理できず、把握しづらい面があったが、映画では最後の車に残った5人をはじめ、誰がどうなったのかが視覚面から容易に理解できる
・映画と本(原作)の結末が異なる点だけを知っていれば、映画だけでも十分に楽しむことができるだろう。本作品は、科学と軍事の結びつきがもたらす恐怖、特にアローヘッド計画のように、人類の制御を超えた力を手にした時の恐ろしさを描いていると感じた。
・つまり、過去の原子力爆弾の発明のように科学と軍事が結びつくと人類にとって恐ろしいことになるということが本作品の言いたいことと受け止めた
・また、そのような行為が神に対する冒涜であり、破滅を招くという警告も、作品が伝えたい重要なメッセージの一つではないだろうか
・現在の世界情勢を鑑みると、すでにAIの軍事利用がされており、科学と軍事の結びつきが非常に懸念される