引越しの話
先月。十数年ぶりに引越しをした。
正直、こんなに大変だとは思ってなかった。
前に引越しした時は、仕事しながらでも短期間でするっとやってのけたはずだからと、簡単に考えていた。
なんでだろうと思いながら、今の自分の体力気力の無さと、部屋中の要らないモノの多さを実感して、少し納得した。
そんなに広くもない賃貸の部屋に、こんなにも使っていないものと一緒に住んでいたのか…。
断捨離、もっと頑張らなければ。
驚いたのは、本がすごく増えていたことだった。
読む時間なんてそれほど無かったはずだが、いつ読んだのか自分でも不思議に思った。
本屋さんに行くことが昔から日常的な癒しだったが、その頻度がだんだん増えていたことにも、今さら気づいた。
手放してすっきりするものもあれば、寂しいものもある。
何よりも、長く住んだこの環境を離れるのがいちばん辛いことかもしれない。
自分で選んだことなのに。
慣れた環境は、頭で考えなくても身体がいろいろ覚えていて、それは安心感というものになっていた。
大事にしたい感覚だと思った。
退去立ち会いの日。
約束の時間は午後だった。
近くの小さな神社にお参りして今までのお礼を伝え、何度か行ったパン屋さんに寄ってパンを買って行った。
時間があったので最後にその部屋で食べた。
いつも美味しいパンなのだけど、やっぱりすごく美味しかった。
時間になると不動産屋さんがやってきて、部屋の中のチェックが始まった。
「この扉は前からこんなに重かったですか?」
『長く住んでたので、もう覚えてなくて…』
長く住んだ思い入れのある部屋だからと頑張って掃除したつもりだったけど、わたしの身長では気にならない場所のホコリを、不動産屋さんが指で触っていった。
「今回はお仕事の都合ですか?」
『はい、転職で……。
ここは使いやすかったです。』
「そうですか。○○(地名)に来ることがあればまたお願いします。」
新居へ向かう前に、毎年バレンタインチョコを買っていた洋菓子店に寄り、新しい職場に持っていく手土産を買った。
新居近くにお店を知らないこともあるが、ここで買いたかった。
こんなタイミングでポイントカードがいっぱいになって、500円券が発行された。
一瞬、複雑な気持ちになった。
新居からは、電車で約1時間の距離。
次のバレンタインシーズンに、また来ているのかもしれない。
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