読後感想 ラブバード/山本隆博(@SHARP_JP)さん
シャープさんの中の人(@SHARP_JP)、山本隆博さんの作品。
「ブンガクフリマ28ヨウ」に収録された短編小説。
一行目から性交の文字がでてくる。
若い頃の大江健三郎や芥川龍之介を思い浮かべるよりも、私が思い浮かべたのは江戸川乱歩だった。私の読書暦が純文学から程遠く幅が狭いだけで、その先は怪奇でも隠微な描写が続くわけでもなかった。
コールセンターのオペレーターとして勤める男のこだわりは、ほんの少し異質だったが病的といえるほどではない。ただ仕事は勤務時間の長短ではなく内容が過酷だった。クレームを言う客なんていなくなればいいのに。
この小説を読み終わって思い浮かべたのは「境界線」。
文中に出てくるわけではない。
男と周囲の人間
男と電話の先の客
男が自分の回りに結界とも言える境界線を張り、それが彼を守っているようだと思った。
傷つくことから自分を守れたとしても、同時に誰かと親密になるチャンスも放棄することになるほど強固な境界線。
その男が飼うことになったインコは、男の左手に対して性交を試みる。それが冒頭の一文。そのインコは自らの羽を広げ、男にその無防備な内側を見せる。
インコが見せ続けた翼の裏側にある鮮やかな青色は、越えることを許された男だけが見ることのできる特別な色。生きているからこそ境界線があり、インコが男を相手と選んだことで可能になった。
男とインコの暮らしは5年続き、インコは病気で死んでしまう。硬直したインコの翼は、自らも男の手によってもうまく閉じることはできない。
男の恐らく誰にも開示することのない内面にも特別な色があるのだろう。身にまとう服の黒や濃紺ではないように思う。
羽を広げることも閉じることも生きているうちにできること。
男が自分の翼を広げ、その内側を見せる人間と出会うことができたらいいな。
次にもし鳥を飼わないかと勧められたとしても、男は断るだろう。
気づかせてくれたコザクラインコとの思い出を大切にして欲しいと思う。