10パーセントの自分 『Hマートで泣きながら』
家族との関係や自分の存在の意味について考えた経験は、どんな人にも少なからずある気がする。
私は、日本生まれ日本育ちの両親から生まれた、日本生まれ日本育ちの日本人で、学生時代から社会人生活まで、生まれた場所からそう遠くない場所で生きてきた。
この本の作者は、アメリカ人の父と韓国人の母の間に生まれたアメリカ育ちで、そんな作者を韓国とつないでいた存在である母を亡くしてからの作者の話。
本の中で作者の母親が「10パーセントは自分のために取っておきなさい」と作者に話す。どんなに愛している相手にでも、自分の全部を渡してはいけない。何かあった時に頼れるものを残すためだと。
私はこの言葉が象的で、すごくいいなと思った。
私は生活圏のすべてが生まれ育った場所からあまり離れていないから、自分の多くが近くにある。それは、安心できる環境でもあると同時に、自分の心を逃がす場所が少ない環境でもあると感じることもある。
今いる場所とは違う場所に、別の暮らしの記憶や、別の自分がいる記憶があればいいのにと、子供の頃は祖父母の家が遠くにある子が羨ましくなったり、転校生が特別に見えたりもしたし、大学生くらいになった時は、上京組の友達が羨ましかったりもした。
だから、”自分の中に10パーセントを残しておく”と言う、この言葉がすてきだなと思った。
自分の全部を分かってくれる人がいて、何もかもが手に届く範囲にある事が怖くなることもある。だから、誰に対しても10パーセントを取っておくことが、自分を守る盾になることもある。
そう言えば、タイタニックに出てくるこのセリフも大好きで、その理由は10パーセントを取っておくことに似ているからかもしれない。
誰にも見せない、私しか知らない10パーセントの私がいるのも悪くない。