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『Summer of 85』の話

さわやかなラブストーリーに引き込まれた。

6週間という時間の中に喜びも 怒りも 哀しみも、感情の全部が詰まっているような、儚いけれど幸せな映画だった。

主人公のアレックスが、自分をボート事故から助けてくれた少し年上のダヴィドに恋をする。

初恋の真っ直ぐな気持ちを信じて疑わないアレックスに対して、大人びたところと危うさを持ち合わせたダヴィド。

アレックスは、いくら追いかけても手が届かない憧れの相手を追いかけるように恋をしているのだけど、知らない世界を教えてくれるお兄さんについて行きたくて仕方ない弟のようにも見えてくる。

一点の曇りもなく自分の恋心を信じていて、一緒にいるだけでこの先もずっと幸せでいられると疑わないアレックスに対して「今」を楽しんでいるダヴィド。同じ時間を過ごしていても、2人の目に映る景色は違う。

卒業したら働くか、進学して文学の勉強を続けるか悩むアレックス。一方のダヴィドは父親が亡くなってしまったことで店を継ぎ、この先も店を守らなくてはいけない。

アレックスにはまだ見ぬ未来が見えているけど、ダヴィドの目の前には現実がある。

そんな2人の違いを浮き彫りにするのがケイトの存在だ。ケイトとの関係を隠しもしないダヴィドにアレックスが嫉妬し、口論の末ダヴィドはアレックスに「重い」と言い放つ。

言葉ではアレックスを突き放しているダヴィドの目に浮かぶ涙が印象的で、ダヴィドの本当の気持ちはダヴィド自身にも分かっていないんじゃないかと思ってしまう。

アレックスの未来を奪えないと思ったようにも、真っ直ぐすぎる純粋さが怖くなったようにも見えるし、アレックスの純粋さに嫉妬したのかもしれない。大人びていたってダヴィドも10代なのだ。

このことがきっかけでダヴィドは事故を起こし亡くなってしまい、残されたアレックスは生前にダヴィドと交わした「どちらかが先に死んだら、残された方が相手の墓の上で踊る」と言う約束を果たそうとし、同時にダヴィドの死や自分自身と向き合うことになっていく。

2人に亀裂を作る原因になってしまったケイトは、ダヴィドの死後、アレックスの気持ちに寄り添う理解者になってくれる。そんなケイトに、あなたはダヴィドではなく理想の親友が好きだっただけだと言われ、自分の心を理解していくアレックス。

恋に恋をして、その気持ちを永遠だと疑わなかったアレックスが、自分の気持ちや現実を受け入れ大人になっていく。

悲しい結末を受け入れ、成長し、この先の人生を歩いていくアレックスがたくましくも見えるし、そんな成長にほんの少し切なさも感じる。

自分が通り過ぎて来た純粋さを同じ気持ちで信じることはできなくても、その時の気持ちは忘れないでいたいと思わせてくれる、切なさの中にスッと風が吹くような心地よさの残る映画だった。



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