遠足のバスではいつもドラえもんの映画が流れていた
遠足といえばバスだった。
帰りの車内、はしゃぎ疲れて静かになるタイミングで、頭上の小さなテレビからは映画が流れ始める。なぜか毎回「ドラえもん のび太の創世日記」だった。
「ドラえもん のび太の創生日記」とは、のび太が夏休みの自由研究としてイチから地球を作っていく物語。
“地球創生キット” のような秘密道具が登場する。部屋に敷く1畳ほどマットで、そのマットの中には宇宙が広がっている。神様の杖みたいなものでかき混ぜていると、ビッグバンが起きて、地球が生まれ、生命が生まれ、徐々に発展していき……?
と、もう20年ほど前の記憶なのだが、今でもストーリーを覚えている。遠足のたびに何度も観ていたからだろう。
バスで観る映画にはひとつ弱点がある。それは、目的地に到着してしまうと最後まで観れないことだ。実際僕は「ドラえもん のび太の創世日記」の冒頭シーンを何度も観ているが、オチを知らない。
トレンチコートを来たカマキリの宇宙人が侵入してくるシーンで記憶は途切れている。あのあと地球は無事なのだろうか。のび太は夏休みの自由研究を提出できるのだろうか。
・・・
僕はいま大人になった。動画配信サービスで続きを観ることができるし、wikiであらすじを読むこともできる。本気を出せば今すぐオチに辿り着ける状態だ。
だけど、あの頃の記憶から進めてしまうのはなんか違う。僕の中の「ドラえもん のび太の創世日記」は未完だからこそいいのだ。