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学びあいサークル第6回 Aさん

学びあいサークル 地域を歩く、話す、つながる(下記※1)

 機関誌『開発教育』71号の「学びあいフォーラム実践報告」の中で、サークルについても紹介しました。字数の都合で詳しく語ることができなかった内容(サークルの活動~地域の写真を読み解く/サークルメンバー5名への個別インタビュー)を6回に分けてNOTEでお届けします。

第1回「サークルの活動~地域の写真を読み解く」はこちら
第2回「瞳さん」はこちら
第3回「ゆうこさん」はこちら
第4回「かなこさん」はこちら
第5回「あきこさん」はこちら

 第6回はサークルメンバーのAさんへのインタビューです。これまで「子どもの居場所づくり」をしてきていて,もともと地域とのつながりをたくさんお持ちのAさんですが、学びあいサークルをきっかけにさらに広がった、というお話を伺いました。

―5月に学びあいサークルのふりかえり会を持った際、「学びあいサークルがきっかけで生じた変化はなんですか」という質問に、「もともとぶらぶら歩くのも好きで、歩いていると挨拶するようになり、挨拶から次の活動へとジャンプして、挨拶以上のものになっていく。それを感じた3年間だった」と答えてくださいました。そのあたりを具体的に話していただけますか。

A:まず、自分の家の近所のぶらぶら歩きからお話します。昔からの知り合いがとてもフレンドリーな方で、歩いている時に車で通りがかりに「どこ行くの?」と話しかけられること、ウェルカムがよくあります。散歩しているだけなんですけどね。立ち話になった時に、お連れ合いさんが有機農法に興味を持ってイチジク栽培するようになった話になり、面白いですね、機会があったら見せてください、と広がるんです。
 学びあいサークルの活動で、気になるところを訪ねようという課題があったじゃないですか。それでいうと、表のドアの横に「〇〇工場」って書いてあるんですけれど、一見すると「え?ほんとに工場なの?」というところがあり,訪ねてみました。従業員6~7人くらいのウェルカムな雰囲気のある町工場で、ふるさと納税品など、アイデア商品を作る社長さんがおられました。何度か訪ねるうちに,私の関わる大学の学生のインターンシップ先になってもらったりしました。そんな場面がいくつもあり、色々な出会いがあり,そこから次の展開へつながっていく、そんな感じです。

―それらは、学びあいサークルがスタートではなく、Aさんが日常されているぶらぶら歩きと地域のつながりから広がりがあったということですか?あるいは、学びあいサークルで地域を歩いてみよう、写真を撮ってみよう、人に話しかけてみよう、という宿題が出たこともきっかけになっていますか?

A:サークルの宿題があったのでネタになることを探そう、と意識をしたことは事実ですし,みなさんと話し合いが刺激になっていました。メンバーに話さないといけないと思うと,普段ならあまり突っ込まないことも訪問先で聞いていたと思います。

―宿題を意識することが話かけてみよう、につながり、話をしたことが次につながっているんですね。そこから先の広がりはAさんの地域力というか、つながり力なのだと思いました。インターンシップの話は今初めて聞きました。サークルでは、柿の木や水路の写真からスタートする話をよくしていましたが、それ以外にチャンネルがたくさんあったんですね。

A:柿の木の話でいうと、今年はあの場所を手放さざるをえなくなったんです。

―サークルで紹介された柿の木は、多様な草が生えた自然豊かな農地に立っていましたよね。高齢になった方の柿農園をAさんたちメンバーが世話していたということでしたが。

豊かな実りの柿園

A:そのメンバーがだんだん抜けて、大学生の元気な力もなくなってしまって、今は私ともう一人だけなんです。この猛暑で続けていくのは無理だと借りていた農家さんに伝えました。そのことで柿園が荒れたままになってしまって…。やはり手入れしないと,柿の木は正直で実がならなかったり,大きくならなかったりします。農地を維持していくことの難しさを感じました。高齢化で手伝いがいないと維持できない。まさにこれが地域の課題でもあるんですけどね。
 もうひとつの、水路の話もそうです。水路は、地域や農家にとっては大切な財産で、水利組合をつくって守ってきたんですが、管理する方が80歳を超えて引退してしまったんです、3月で。なんとか若手、といっても70歳手前の方が後継者になってくださったんですが、なかなか厳しい。

 また,ある集まりに行った時の話です。先の後継者さんは水田を2ヘクタール持っているのだけれど、米の価格が低くて赤字になるし、子どもに継がせられない、と言っていたんです。今年は農薬も肥料も値上がりしたし、農協の引き取り価格の問題もあると。すると、隣に座っていた農家さんが、有機栽培で作れば、安くできるし、環境保全にもなるし、安全だし、儲かるよ、って言うんです。有機に転換することもできるよね、とお互いに交流していました。慣行農業(農薬や肥料を使う一般的な農法)の方は、イモチ病などが怖いんですよね。村全体の田んぼに影響が出ちゃうから。それに対して、有機栽培で作ったお米は病気にも強いよ、そうなんだ、という話も出ました。
 その話を、若い世代のお母さんお父さん達も聞いておられました。その人たちは「有機野菜を学校給食に」という動きをされておられているんです。なんとか「安全な食を子どもたちへ」、という思いですね。この方々は全国の事例を調べています。今年は、食べる側からの願いと作る側の思いとがうまく出会って、一緒に考えられたらいいよね、という話になり,活動も進み始めました。どんどん広がっている感じです。

―先ほどお話に出た工場は、何を作っている工場なんですか?そこにAさんの大学から学生がインターンシップに行っておられるんですね。

A:金属加工ですが、箸置きや一輪挿しなどアイデア商品をつくっています。学生の中には教員をめざす人もいますが、教師ってどうしても世間知らずな部分がありますよね。子どもを理解するためにも保護者の仕事を知ることが大事だし、町工場の大変さやおもしろさなど社会的な学びも含めて、行っておいで、ということです。

―いろいろな広がりがある中で、Aさん自身が意識しているテーマやこだわりはありますか。

A:以前から水について追っていたんですが、ここ何年かは、農業と食べることのつながりということに自分の関心がシフトしていると思います。一方で、まちづくり、コミュニティづくりも以前からのテーマとして続いています。昨日も地域でFMラジオを12月に開局したいので手伝ってくれ、という話がありました。障害を持っている人が地域で生きていくということもテーマです。

―Aさんは、物理的に地域をぶらぶら歩くだけではなくて、いろいろなことをしている人と人の間を歩きながら、いろいろなことを引き出している感じがします。人と人をつなぐぶらぶら歩き、というか。肩に力の入ったネットワークづくりではなく、ゆるやかな出会いが広がりなるというか。Aさんみたいな人が地域にいると、いろいろなことの発見や解決につながりそうです。

A:ありがとうございます。(私のような歩き方をすると)私みたいな人たちと出会っていきます。おもしろいやん、やってみよう、と次々つながっていくのが基本的に楽しみなんでしょうね。無理につなげようとは思っていないかな。

―最後に、Aさんにとって学びあいサークルはどんな場でしたか?

A:サークルでは視点をいただきました。他のメンバーの視点や、例えば有機農法や防災など話題から、あ、そういう視点でもやってみようかな、と思えました。また逆に、この場で話してみようということがきっかけになったりもしました。自分の頭の中では広がっていても、家でも職場でもつながりの中でもあまり言えないことを話せる場としてよかったと思います。

―家とも職場とも違う、ちょっと違う空間で、お互いに興味を持って意見を言い合える仲間ということでしょうか。どうもありがとうございました。 

最近は農業についてもっと知りたいと勉強中というAさん。サークルで度々登場した柿農園のビフォーアフターのお話、今後予定している里山・棚田保全をしている方への聞き取り取材のお話など、農業や農業にまつわる課題についてお話を聞く会を持つことになりました。先日収穫した柿がちゃんと干し柿になっているかな?という話から、気候変動とのつながりも。また話題が広がりそうです。

※1
学びあいサークルとは?
 学びあいフォーラムを通して各地域の団体と関わってきたけれど、自分の地域とはあまり関わっていない、という思いを持つコーディネーター3人が企画し、2021年からサークル活動を開始した。サークルでは、メンバーが自分の地域を歩き、気づきや発見を共有し、地域とつながることを目的とした。サイトを見てDEARを知った人を含む5名が参加し、コーディネーターを入れた8名(地域は東京3、大阪3、兵庫1、ドイツ1)で、オンラインで活動を開始した。メンバーは毎回、地域を歩き、視点を持って撮ってきた写真を共有し、写真を読み解きながら学びあい、次は地域の人と話してさらに深めた結果を持ち寄る、という過程を繰り返した。互いに知らない地域についてであったが歴史、社会、地域のつながりが掘り起こされていった。次年度にはリアルで会うオフ会やテーマごとの回に発展するなど、内容とつながりが深まっていった。

(サークルコーディネーター:大野のどか、佐藤友紀、中村絵乃)


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