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学びあいサークル3回 ゆうこさん

学びあいサークル 地域を歩く、話す、つながる(下記※1)

 機関誌『開発教育』71号の「学びあいフォーラム実践報告」の中で、サークルについても紹介しました。字数の都合で詳しく語ることができなかった内容(サークルの活動~地域の写真を読み解く/サークルメンバー5名への個別インタビュー)を6回に分けてNOTEでお届けします。

第1回「サークルの活動~地域の写真を読み解く」はこちら
第2回「瞳さん」はこちら

 第3回はサークルメンバーのゆうこさんへのインタビューです。インタビュアーがゆうこさんとリアル対面したのは、オンラインサークル活動が始まって約半年後に東京を訪れた時でした。一緒に時を過ごした思い出のホールでインタビューに答えてくださいました。

―ありがとうございます、思い出の場所からつないでくださって。嬉しいです。

ゆうこ:学びあいサークルの活動の中で、一番印象的だったのがゆきさん(インタビュアー)の訪問だったんです。それまではオンラインで話していて、ネットやテレビのドキュメンタリーのような感じだったけれど、それぞれみんな生きているんだ、と実感しました。リアルで会えるんだ、話せるんだ、と。とても良かったです。

―ゆうこさんには、学びあいサークルで基本パターンにしていた、写真を見ながら対話する際の視点についてお話を聞きたいと思います。これが最初に提供してくださった写真ですよね。写っているバターナイフの謎解きから始まりました。

バターナイフ

ゆうこ:これから広がったことがたくさんあり、思い出深い一枚です。きっかけは小さなことで、団地の真ん中の、入居当時からあるケヤキの木を伐採処分することになったんです。捨ててしまっていいの?ケヤキなのに、もったいない、少し残したいという思いから始まりました。ケヤキはすごく硬くて、木のことをよく知っていたら、いろいろ頭に浮かんで一歩踏み出せなくて、きっと後から後悔したと思います。でも、木工作家の友人と、元図工の先生がバターナイフづくりなら、と手伝ってくれることになりました。地区の理事会にかけたり、大学の先生や学生とつながったりしながら準備をして、当日までどうなるかわからなかったけれど、マンションの藤棚の下で始めたらどんどん人が来て、結果的に大成功しました。大学の先生と学生、友人2名、スタッフも5名、20人がバターナイフづくり体験をして、見学も多かったです。みんな面白そう、で集まってくれて、全員が満足して帰りました。ケヤキはなくなってしまったけれど、20本のバターナイフがそれぞれのお家に残りました。

 先が読めないまま始めたからできたと思います。わかっていたらやらなかった。始める時に深く考えないのがいいのかな、と思います。あの人に声かけてみよう、と広げていくとできちゃうというか。考えなしと言われるかもしれないけれど、自分の世界というのはそんなところから出来上がっていると思います。

―1本のケヤキから少なくとも20本のバターナイフが残った、というのは、ゆうこさんだから紡げるお話ですね。茄子の牛、胡瓜の馬のお盆の習わしの写真を出されたこともありましたね。

お盆の習わし

ゆうこ:(学びあいサークルでは)地域や近所で、なんだろう、おもしろい、と思うことで写真を撮りましょう、という宿題でしたよね。私も以前から同じように地域で写真を撮ってきたんです。
 これを見た時は、自転車で行けるところに、お盆の迎え火や送り火が残っている地域があるということに驚きました。古いしきたりが残る、この辺りでも珍しい地域だと後で知りました。
 歩いてみて、なんだろうと思って写真を撮って記録して、他の人に説明するために調べていく。撮った時は深い思いはなかったけれど、その後深まっていくというか。

―次の水辺の写真は、アングルも面白いし、靴下で池の上に足を伸ばしている、のびのび感がありますよね。これはサークルで見せようと思って撮ったんですか?

水辺

ゆうこ:昔から携帯でよく写真を撮っていて、友人からは携帯写真家と言われています。その積み重ねがこれです。誰かに見せて笑ってもらおうということはあるけれど、学びあいだからというわけではないです。今後、年を重ねていくと、その日の記憶はいつか薄れるかもしれないけれど、若いうちから写真を撮る習慣はその時に役に立つかもしれないです。

―ゆうこさんとしては何気なく撮った一枚をみんなに見せて、どんな反応があったとか、印象に残っていることがありますか?

ゆうこ:自分の写真より、他のメンバーの写真が印象に残っています。その人は毎日見てる風景でしょうが、初めての私にとったらすごい驚きでした。普段の風景ってあまり意識して見ませんよね。自分の住むニュータウンと、古い建物が残る地域の違いに気がついたり、こんなため池がある地域があるのね、と思ったり、他の人の写真が面白くて、普通の風景が楽しかったです。私の写真も、きっとみなさんがそんな風に面白いと思ってくださったんだと思います。地域の様子は今後変わってしまうかもしれないけれど、この時期にこの景色があったことは、写真に残りますしね。

―普通の、しかも自分が知らない場所の写真を見てこんなに楽しめるなんて、企画者としても実は意外なことでした。お話を伺いながら、ゆうこさんは元々近所で楽しむ視点を持っている方なんだ、と改めて思いました。

ゆうこ:小さいことで笑えること、という視点は自分にあって、写真を撮っておこうとしていたけれど、それほど親しい人でないメンバーにシェアできる機会というのはDEARの学びあいサークルだけですね。しかも、本人が会いに来ちゃうなんて。

―直接会うと、不思議な親密感がありましたよね。オンラインでのつながりはある意味バーチャルなのに、リアリティが急に出る、みたいな。

ゆうこ:元からリアルで知っていた人も、その人の撮った写真を通じて内面を初めて知ったり、逆に、地域や知り合いが重なっている人とは、オンラインを通じてのゆるやかで心地よい関係だな、と思えたりしました。

―企画者としては、写真を撮った人の視点で世界を知るおもしろさを想定していたけれど、普通の風景が楽しい、というキーワードは考えていませんでした。他の人が目を留めたことについて、自分の周りにはどんなことがあるのだろう、という広がりやつながりが生まれていましたね。

ゆうこ:まち歩きの写真を見ていると、自分がそこにいなくても、この道の先にはこれがあって、裏にはこれがあって、など、体験している感じがします。行こうと思えば行けるけど、メンバーが行ってくれているからまた今度でもいいかな、と思ったり。

―最後に、ゆうこさんにとって学びあいサークルはどんな場でしたか?

ゆうこ:自分の身の回り、自転車で行けるくらいの半径を、世界の人…日本だけじゃなくて、違う場所、時間で同時に生きている世界の人と共有する場でした。普段は自分のところが世界のすべてだけれど、あの人にはあの人の世界と時間がある。それぞれが生きていて、自分の当たり前が当たり前じゃない、その気付きが学びあいサークルにありました。

 近況報告として今年3月に修了した大学院と修士論文のお話を聞きました。植民地時代に朝鮮と日本の架け橋となった女性、柳兼子(民藝運動の父と言われる柳宗悦の妻)をテーマに選び、先行論文や資料少ない中、韓国に語学留学して現地の図書館に行ったり、自分の感覚で雑談の中から情報を得たりして記録していくことがおもしろかった、というゆうこさん。大学でのゴールを決めない学び方は、学びあいサークルでの活動の方向性とも重なって、それが収穫だった、とおっしゃっていました。現在は学内学会誌に向けて論文の校正中とのこと。論文の抜き刷りができたらメンバーに送って、その論文に収録しきれなかった面白いところをたっぷり聴く、という次の楽しみが生まれました。

ゆうこさん、どうもありがとうございました。

第4回「かなこさん」はこちら
第5回「あきこさん」はこちら
第6回「Aさん」はこちら

※1
学びあいサークルとは? 
 学びあいフォーラムを通して各地域の団体と関わってきたけれど、自分の地域とはあまり関わっていない、という思いを持つコーディネーター3人が企画し、2021年からサークル活動を開始した。サークルでは、メンバーが自分の地域を歩き、気づきや発見を共有し、地域とつながることを目的とした。サイトを見てDEARを知った人を含む5名が参加し、コーディネーターを入れた8名(地域は東京3、大阪3、兵庫1、ドイツ1)で、オンラインで活動を開始した。メンバーは毎回、地域を歩き、視点を持って撮ってきた写真を共有し、写真を読み解きながら学びあい、次は地域の人と話してさらに深めた結果を持ち寄る、という過程を繰り返した。互いに知らない地域についてであったが歴史、社会、地域のつながりが掘り起こされていった。次年度にはリアルで会うオフ会やテーマごとの回に発展するなど、内容とつながりが深まっていった。

(サークルコーディネーター:大野のどか、佐藤友紀、中村絵乃)


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