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学びあいサークル第5回 あきこさん

学びあいサークル 地域を歩く、話す、つながる(下記※1)

 機関誌『開発教育』71の「学びあいフォーラム実践報告」の中で、サークルについても紹介しました。字数の都合で詳しく語ることができなかった内容(「サークルの活動~地域の写真を読み解く」/サークルメンバー5名への個別インタビュー)を6回に分けてNOTEでお届けします。

第1回「サークルの活動~地域の写真を読み解く」はこちら
第2回「瞳さん」はこちら
第3回「ゆうこさん」はこちら
第4回「かなこさん」はこちら

 第5回はサークルメンバーのあきこさんへのインタビューです。唯一海外から参加していたあきこさん。どんな思いで学びあいサークルに参加していたのか、提案してくれたテーマ回への思いなどを聞きました。

―サークルでは初期は写真を撮ってきて、皆で見て深めていきました。次の展開として、やりたいテーマを出し合った時にあきこさんが出してくれたのが「日本人とは(全2話)」の動画です。これをサークルの題材にしたアイデアの背景にあるもの、思いは何ですか?経緯を教えてください。

あきこ:あの動画を見つけた時、すごくうまく日本の中にある様々な視点を描けていると思ったんです。それまでは街歩きをしながら話を広げてきましたが、日本の街に住んでいる人にもいろいろな人がいますよね。サークルのメンバーには日本語が第一言語じゃない人のお手伝いをしている人もいるし、他のメンバーも活動や地域は様々です。動画は「日本人」について違う視点から描いていて、複雑なことをうまくまとめている作品だと思いました。色々な人に見てもらったら、みんな刺激を受けるのではと思い紹介しました。
 「日本人とは」という問いは固いですよね。タイトルは必ずしも自分にフィットしていませんでしたが、色々な人がいるということ、多様性や、人と人とが分かり合えない部分についての描き方をこのメンバーでシェアできたら、と思いました。それぞれの場所で様々な活動をしているメンバーだから連帯しやすいというか、つながりやすい映像に仕上がっていると感じたんです。

―動画の作者は知っている方ですか?

あきこ:全く知りません。動画は偶然見つけました。自分は日本にルーツがありますが、今は日本の外に住んでいます。日本の外にいながらも、日本語でつながる人が仲間になることが多いんです。そのゆるやかなつながり、国というシステムの単位ではなく、言葉とか、好きな文化とか、言葉や文化は同じベクトルだと思うので、そういうところでつながる仲間との連帯感が映像には収まっていたと感じます。勇気づけられるところもあるし、ビジュアルはより伝わりやすいので、そういうところに鈍感な人に届くツールとしていいのではと。各自の活動にもいかせるのではと思い、紹介したのだと思います。

―その後、あの動画を多文化共生の学習会で紹介させてもらいました。

あきこ:本当に!?よかったよかった。

―日本の外で、日本語でゆるやかにつながっている人たちがいるんですよね。日本の中にいると日本語でのつながりは無意識になります。そうではない、自分を問うている人たちがいるということ。自分の中に新たな見方ができたと思っています。動画の回の時に印象に残っていることはありますか?

あきこ:参加者の中で事前に動画を見た人もいれば、見ていない人もいましたよね。日本にいる人と日本にいない人とで、少しずつ温度が違うのではと思いました。私自身は日本にいない側ですが、社会の中でのマイノリティとしての居場所の見つけ方に共感しました。仲間はいるな、という感覚です。でも(日本の)中にいる人は問題を難しくというか、「課題」みたいな意識があるのかも。ひょっとしたら、そこにはギャップがあるのかなという気がします。

― 一人ひとりの個人のとらえ方に迫るのは難しいですね。だけれど、動画を見た人も見ていない人も、会話の中で思いを重ねていったと記憶しています。具体的にこの人がこれを言ったとかは思い出せませんが…。

あきこ:ビデオの中に色々な人が出てきました。色んな場所に住んでいて、色んなルーツがあって、そのルーツのひとつひとつの話はそれまでにサークルでしてきたことなんですよね。そのエッセンスがぎゅっと動画に収められていて、共感しました。

ゆき:作者はミックスルーツの方でしたね。お父さんは中国から南米への移民、作者は両親がカナダへ移住してから生まれたカナダ人で、妻は日本人。そういう人がいるということが想像の範囲の中にある社会になるといいなと思います。

あきこ:慣れていないんですよね。

―カナダだったら見かけはアジア人でも英語で話しかけられます。英語で道を聞かれたことも、実際に体験しました。日本だと違いますね。見た目で日本語の話せる話せないを判断してしまう。

あきこ:学習会で複言語複文化の紹介ツールとして使ってくれて嬉しいです。だからこそサークルでこの話をしたかったのだと思います。言葉とか文化は、日本の中にいると島国ということもあって、固定されたもの、固定された概念だと思われていますよね。日本の外に多様な人たちがいて、実は世界中でそうなんですよね、日本語人に限らず。それぞれの言語の人たちは移動している。その感覚が持てているか持てていないかはすごく違うのではないかと、移動している私としては思うんです。その体験をイメージできるかどうか。

―このサークルのメンバーはイメージしやすい人たちですよね。身近に感じている人たち。


あきこ:サークルの外で出会う人たちは、まだまだその感覚が持ちづらいと感じています。だから、そこを押し開こうというアクションかなと。開いたらいいなと。

―ひょっとしてこの人はミックスルーツかもしれないねという想像力とか。私とは違う文化かもしれないけれど、日本に来たんだねきっと、と。まずは受け入れるところから接点がありますよね。「え、なに?この人!」からスタートするのとは違う。想像力、その次に共感力が今後ますます必要になってくると思います。

あきこ:自分を守りに入ってしまうというか…怖がりなのかな?

―知らないから怖いのか、知らないから想像もつかないのか。

あきこ:あまり考えたくないのか。 

ベルリンビール工場

―あきこさんにとって、学びあいはどんな場でしたか?

あきこ:「出会いの場所」でした。私から見ると、仲間に出会えた場。場所とかシステムで区切らない、人と人とが日本語でつながって、悩みやモヤモヤや、こうなったらいいな、こういう人ともっと広がったらいいな、を共有できる、まさにサークル。この期間、入れてよかったと。

―職場や家族、友人と違う「サードプレイス」に自分の居場所がある感じでしょうか?

あきこ:私にとってはそうですね。

―オフ会で直接会ってもまったく違和感がないんですよね。

あきこ:知り合うまでのランニング期間が普通はありますよね。それがこのサークルはオンライン空間で、私は遠くに住んでいますけど、あまり関係なかった。本当にサークルですよね。

―他のサークルメンバーとも共通していますね。物理的には遠くても、遠さが問題にならない。最初は写真を見ながら話しましたが、知らない遠いドイツではなく、あきこさんの住んでいる街として、近く感じていました。

あきこ:観光サイトとは違う写真、身近な風景ですね。(外国の人から見た日本を紹介する)YouTubeの視点もそういうものがウケているというのもあると思います。その人が紹介することで、ただの風景ではなく、その人のフィルターで、もっと違った、身近なものに思えてくるというか。

つまずきの石 ドイツ語でStolperstein

ホロコースト犠牲者の名前、生まれた年、死亡した場所などが刻まれている10cm四方の真ちゅうのプレート「Stolperstein 」ストルパーシュタインを設置するプロジェクトは1992年にドイツの芸術家グンター・デムニヒによって始められたプロジェクト。ドイツ国内だけでなくヨーロッパ中、約61,000ヶ所以上に設置されている。(出典:https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?page=ref_view&id=1000331491)

 サークル活動の3年間の間に、海外の拠点が別の国、別の街になったあきこさん。インタビューの後も話は尽きず、近況や気持ちの移り変わりについてもお話ししてくださいました。そもそもの移住の経緯や状況などもあらためてお伺いし、なるほどそうだったのか、知らなかった!というお話がたくさん。これはまたぜひ改めてお話を伺わねばと思ったのでした。あきこさん、どうもありがとうございました。

第6回「Aさん」はこちら

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学びあいサークルとは?
 学びあいフォーラムを通して各地域の団体と関わってきたけれど、自分の地域とはあまり関わっていない、という思いを持つコーディネーター3人が企画し、2021年からサークル活動を開始した。サークルでは、メンバーが自分の地域を歩き、気づきや発見を共有し、地域とつながることを目的とした。サイトを見てDEARを知った人を含む5名が参加し、コーディネーターを入れた8名(地域は東京3、大阪3、兵庫1、ドイツ1)で、オンラインで活動を開始した。メンバーは毎回、地域を歩き、視点を持って撮ってきた写真を共有し、写真を読み解きながら学びあい、次は地域の人と話してさらに深めた結果を持ち寄る、という過程を繰り返した。互いに知らない地域についてであったが歴史、社会、地域のつながりが掘り起こされていった。次年度にはリアルで会うオフ会やテーマごとの回に発展するなど、内容とつながりが深まっていった。

(サークルコーディネーター:大野のどか、佐藤友紀、中村絵乃)


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