page 1 ナツノキオク
《20××年7月》
蓮「お前さ、
あの頃なりたかったもんとかって有る?」
快「あの頃?
何だよ唐突に…」
・
社会人になって初めて行われた高校同窓会は
あんまり変わってない仲間の笑顔で溢れ、
あんまり変わってない話題で終わった。
いつものメンバーで花火を調達して
いつも集まる大通りに位置する公園
歩いて来た俺達の頭上に吹く涼し気な葉音が
あの頃にゆっくり時間を戻して行くように錯覚する。
・
蓮「俺達があの頃描いていた景色ってさ、」
ザッと強く吹いた風が夜空に昇って行く
蓮「どんなだったかなって…」
快「どんな未来を想像してたかなんて
そんなの覚えてないけど
そんなに変わってないだろ
掴めない何かを相変わらず追っかけてばっ
かな所とかさ…」
蓮「ふっ、」
快の視線の先に居るコウの真剣な表情が
線香花火のささやかな光に照らされて
オレンジに明るく色づく
快「昔はこんな風に3人で一緒に居たけど
お前はしっかり社会人って感じでさ、
なんか焦るよ」
蓮「何言ってんだよ
倉本酒店の若社長が」
快「やめろよ、その呼び方」
蓮「しかも、結婚するんだろ?お前達…」
快「いや、コウにはまだ返事もらってないよ」
蓮「再会後…付き合って2年だもんな。
返事なんて必要ない雰囲気なんじゃないの
か?」
快「…でもないよ。
色々有るんだよ。俺達にもさ…」
公園のひんやりとした木製のベンチが
酒に酔った身体を静かに冷やす
向こうに見える赤いタワーの丁度天辺に
月が明るく浮かび
通りの向こうを走り抜ける車の音が花火の燃える火薬のようにヒュッと音を立てて名残り惜しく通り過ぎて行く。
快「蓮は近況とか無いの?
さっきもひたすら人の話を聞いてばっかで
つうかさ、
いいかげん彼女作れよ
お前の連絡先教えろって
何人の女子に声かけられたと思う?
もーさ、
面倒だから結婚とかしちゃえよ」
はははは
蓮「大袈裟なんだよ。お前はいつも…」
遠くに見えるしゃがんだコウの後ろ姿が白く浮かび上がる。
冷たい風に火薬の香の混じった夏の感触が
体を通り過ぎて行くのを感じた。
〈1〉