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DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)の新基礎知識Q&A



この記事のまとめ

  • DSDsは「男でも女でもない性」ではなく,「女性(female)にも男性(male)にも生まれつき様々な体の状態がある」ということです。

  • DSDsは「両性具有」ではありません。「両性具有(男でも女でもない性)」は「吸血鬼」や「狼男」と同じく,神話的なファンタジーの存在です。

  • 現実には当事者の大多数は「性分化疾患」も「インターセックス」も使いません。安全な包括用語は「DSDs:体の性のさまざまな発達」です。

  • 現在では医学も発展して,然るべき検査によって女性(female)か男性(male)かが判明するようになっています。

  • 当事者人権支援団体は海外でも昔から「男女以外の第三の性別」を求めていません。求めてきたのはエヴィデンスに基づく女性(female)か男性(male)かの性別判定です。


  • DSDsのある人々の大多数は,ジェンダー学者さんなどが言う「男女二元論」を否定したいとは思っていません。

  • DSDs当事者の大多数は自分をLGBTQなど性的マイノリティの一員とは思っていません。「DSDsのある人々は性的マイノリティの一員である」という思い込みの背後には,「男でも女でもない性(両性具有)」という偏見があります。

  • DSDsはトランスジェンダーの皆さんの「性自認」の話ではありません。


  • DSDsのある人々で「男でも女でもない」という性自認の人は約1.2%に過ぎません。

  • DSDsのある人々で性別違和のある人は少なく,性別違和のある人でDSDが見つかることもほとんどありません。

  • 男女以外の「その他」の性別欄は,DSDsのある人々に二次的なトラウマを与えます。

  • 「体の性のスペクトラム(グラデーション)」は人権侵害です。


はじめに

 連日メディア等で、LGBTQ等性的マイノリティの皆さんが注目されています。

 ですが一方で、LGBTQとセットで語られることもある、「DSDs(ディーエスディーズ):Differences of sex development:体の性のさまざまな発達(性分化疾患/インターセックス)に対しては、大学の先生でもLGBTQなど性的マイノリティの活動家の方でも、正確な知識を持っている人はまだ少なく、むしろ「男でも女でもない」「体の性はスペクトラム(グラデーション)」等の差別的な偏見を広めているような状況です。

 性分化疾患はここ20年の間に、医学的・生物学的知見も進歩し、迷信ではない現実の当事者の状況も明らかになっています。そして実は、現実のDSDsを持つ子どもたちや人々は、むしろ切実に女性・男性であることが大多数で、「男でも女でもない中性の人」「性スペクトラム(グラデーション)」といった偏見が、当事者・家族の社会的孤立や自殺企図率を高める原因にもなっているのです

 この記事では、DSDsについての新しく正確な基礎情報を、Q&A形式でご紹介していきます。


Q.DSDs:体の性の様々な発達ってなに?


 DSDsとは、「女性ならばこういう体の構造のはず、男性ならばこういう体の構造のはずとする社会的生物学固定観念とは、生まれつき一部異なる発達をした女性(female)・男性(male)の体の状態」を指す用語です。

 「人間の体の性の構造」(外性器の大きさ・形や、性腺(卵巣・精巣など)の種類、女性の膣・子宮の有無、X・Y染色体の構成)については、「生まれつきこうでなくては女性(female)/男性(male)の体とは言えない」という1950年代以降の固定観念があります。このような固定観念は、女性・男性の体に対する「社会的生物学固定観念」と呼ばれています。

社会的生物学固定観念とは?

 DSDsは、この固定観念とは生まれつき一部異なる女性(female)・男性(male)の体の状態を指します。

 つまりDSDsとは、性自認の話でも荒唐無稽な「両性具有(男でも女でもない性)」でも「グラデーション(スペクトラム」)でもなく、「様々な体の女性(female)・男性(male)がいる」ということなのです。

DSDsは「様々な体の女性(female)・男性(male)がいる」ということ


Q.DSDsは「両性具有(男でも女でもない性)」なのですか?

 「両性具有(男でも女でもない性別)」は、ヒトを含む哺乳類の場合、相同器官の関係で不可能です。そもそも「両性具有」は神話上のファンタジーの存在です。

 大学の学者さんでも「中性の人もいる!」「男女判別できない人がいる!」と喧伝する人もいますが、それは言ってみれば、多毛症の人や光過敏症の人がいるから「狼男や吸血鬼もいる!」と言っているようなものだと思ってください。

 そのため英語ではHermaphrodite、日本語では「両性具有・半陰陽」といった「男でも女でもない性別」を連想させる用語は、医学的にも人権支援の上でも、差別的で当事者の心を傷つけるものとして世界的に使われなくなっています。

オランダ国家機関調査報告書より


Q.「性分化疾患」と「インターセックス」、どっちがいいの?

 医学的には日本では「性分化疾患」、欧米の政治運動では「インターセックス」とも呼ばれています。ですが日本でも海外でも「インター”セックス”」という用語は「性行為」を連想させるため、大多数の当事者家族は忌避されています。

 もっとも中立的な「DSDs:体の性の様々な発達」という用語が一番安全です。

DSDs:体の性のさまざまな発達(性分化疾患/インターセックス)の適切な用語
用語について

 ですが、「DSDs」はただの包括用語に過ぎず、約30種類(大きく分けると8つほどのグループ)ほどの体の状態があります。DSDsは、いわばASEAN(東南アジア諸国連合)のようなものでしかありません。インドネシアの人に「あなたはASEAN人ですか?」とは聞かないことと同じです。

 欧米の政治運動や、DSDを持ちかつLGBTQ等性的マイノリティの人を除けば、「インターセックス」や「性分化疾患」等を自身のアイデンティティとしてアピールすることはありません。また、国の違いと同じく、あるDSDの人の話を他のDSDにそのまま適用できないことも理解する必要があります。

オランダ国家機関調査報告書より


Q.DSDsにはどのような体の状態がありますか?


女性・男性の様々なDSDs

 ここでは判明時期等「出生時」「思春期前後」「男性不妊検査や出生前検査」の3つにわけて、代表的な体の状態を説明しましょう。

(1)生まれた時に判明するDSDs

 赤ちゃんが生まれた時、たいていは外性器の形で性別が判明します。しかし約0.02%の割合で、外性器の形や大きさ、おしっこが出てくる尿道口の位置等が、一般的とされる女の子・男の子のものとは少し違っていて、性別の判定にしかるべき検査が必要になる女の子・男の子もいます。

 代表的なのは、ホルモン異常によってクリトリスが大きくなって生まれる女の子です。このホルモン異常は命にかかわる疾患であるため、日本では赤ちゃんが全員受ける検査の対象にもなっています。

 他にも、尿道下裂の男の子、膣口や尿道口・肛門が分化せずに生まれる女の子など、さまざまなDSDsがあります。

 大学の学者さんの中には、DSDsの性別判定が必要な外性器の状態で生まれる赤ちゃんの存在を使って、「勝手に性別が決められている!」と古い誤解・偏見を持っている人が今でもいますが、ここで大切なのは、遺伝子検査等の大きな発展もあって、現在では女の子(female)か男の子(male)かの判定がしかるべき検査で行われていることです。

 1960年代以降の昔のいい加減な「性別割り当て」ではない、しかるべき医学的検査で判明した性別なら、性別違和が起きることもほとんどありません。(昔のいい加減な「性別割り当て」については以下のリンクをお読みください)。

 支援団体も、当初よりDSDsを持って生まれた赤ちゃんの男女の性別判定には反対していません。しかるべき検査で男女の判定をして、性別違和がある場合には対応をするように求めているのですが、大学の先生でも「どちらでもない性で育てることを求めている」「思春期まで性別を決めるべきではない!」という誤解・偏見が根強く残っています。

当事者人権支援団体も求めているのは女性か男性かの医学的な判定


(2)思春期前後に判明するDSDs

 この時期で判明するDSDsの大多数が、女性(female)に生まれ育った人の原発性無月経(初潮がまったく始まらない)や成長障害で判明する女性のDSDsです。

 この時期判明のDSDsで最も多いのが、染色体が45,X(Xがひとつ)であることが判明するターナー症候群の女の子です。ターナー症候群の女性(female)は、卵巣も子宮もあるのですが、卵巣の早期機能低下により、女性の二次性徴不全や原発性無月経の状態になります。


 その次に多いのがロキタンスキー症候群(MRKH)と呼ばれる女性のDSDです。染色体はXXで性腺は卵巣で、月経以外の女性の二次性徴はあるのですが、原発性無月経によって、膣と子宮が生まれつき無かったことが判明します。


 数は少ないのですが、女性の原発性無月経等で判明する女性アンドロゲン不応症(AIS)が判明する女の子(female)もいます。子宮と膣がなく、染色体がXYで性腺が精巣であることが分かり、大多数の女の子は大きな衝撃を受けます。

 「染色体がXYで性腺が精巣ならだったら絶対男性!」という固定観念は、一般医療者でもジェンダー論の大学の先生にもあります。「私は最新の理論で男女の固定観念を超えている!」と思いこんでいる学者の人たちでも「両性具有パニック」を起こしがちなのですが、むしろそういう学者さんたちこそが社会的生物学固定観念に囚われているわけです。

 実際のところ、こういうAIS女性は本当に女性(female)に生まれ育つのです。性別違和もほとんどありません。そのため欧米のDSDs専門医療機関ではこういうAIS女性に対しては「あなたはお母さんのお腹の中で女の子に生まれ育っています」と言い切っています。

国際内分泌学会作成のDSDs解説より

 そして彼女たちは、生理以外の女性の二次性徴が起こります。一般的には精巣は男性に多いホルモンのテストステロンを作ります。ですがAISの女の子の場合、体の細胞がテストステロンには反応せず、女の子に生まれ・育つのです。過剰なテストステロンはエストロゲンに変換されます。そのため、現在DSDsの領域では、このような女の子の性腺は、男性に特有の精巣ではなく、エストロゲンを作る「機能」を持つ性腺と見なされています。

 ターナー症候群や、AIS、ロキタンスキー症候群の女の子・女性がもっとも悲しむのは、生物学的なつながりがある赤ちゃんを産めないという不妊の事実です。

(3)男性不妊検査や出生前診断で判明するDSDs

 成人した男性不妊検査の段階で判明するDSDsもあります。そのほとんどがX・Y染色体の構成数に関する男性(male)のDSDsです。

 学校では、「男性の染色体はXY、女性の染色体はXX」と習っていると思います。実際に大多数の女性はXX、男性はXYであり、このような知識自体は差別でもなんでもありません。

 ですがこれは、基礎的な知識に過ぎません。確かに大多数の男性(male)の染色体はXY、大多数の女性(female)の染色体はXXですが、XXY染色体(クラインフェルター症候群)の場合は男性(male)に生まれ育ちますし、XXYY染色体の人も男性(male)に生まれ育ちます。

クラインフェルター症候群(XXY)の男の子たちと男性
XXYY症候群の男の子・男性たち

 大学の先生でも「XXYの男でも女でもない人がいる!」と言う人がいますが、やはりこれもX・Y染色体に対する社会的生物学固定観念が強迫的に強く、そういう自分に気が付かないからです。

 実は女性・男性の体の違いを決めるのは、X・Y染色体の数ではなく、Y染色体の有無、より厳密に言えば、一般的にはY染色体上にあるSRY遺伝子の存在なのです。

 たとえばですが、XX染色体でもSRY遺伝子が付随していれば男性(male)に生まれ育ちます(XXmale)。

 1990年にSRY遺伝子が発見されてから現在までに、胎児期からの体の性の発達には、恐らく約100個以上の遺伝子が関係しているだろうと言われています。生物学は既に、染色体の数ではなく、遺伝子の時代になっているのです。

Charmian A. Quigley, MBBS (2009)
Charmian A. Quigley, MBBS (2009)

Q.DSDsの人はどのくらいいるか?

 よく言われる2,000人に1人という数字は古いもので,現在では約5,000人に1人と言われています。ですがこの数字も生まれた時に性別判定検査が必要な状態で生まれた女児(female)・男児(male)の割合に過ぎません。

 DSDsは出生時以外でも思春期前後、不妊検査などで判明することもあり、一生判明しないこともあります。

 判明しない分も含め、総合的には、性教育や人権の先進国オランダ・ベルギーの国家機関の調査で示されている全人口の約0.5%という数字が妥当なところです。


Q.LGBTQ等性的マイノリティの人々との関係って?

LGBTQなど性的マイノリティの人々とDSDsとの関係

 まず、LGB(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル)は、同性愛・両性愛など、どういう人に愛情を感じるかという「性的指向」を表し、T(トランスジェンダー)、Q(ジェンダークィア・ノンバイナリー:日本ではXジェンダー)は、その人の性自認(出生時の性別とは異なる性自認、あるいは男でも女でもないという性自認)を表すものです。

 一方DSDsは、性自認や性的指向ではなく、あくまで外性器の大きさ・形や、性腺の種類、染色体の構成、女性の子宮の有無など、「これが『普通の』女性の体・男性の体」とする社会的生物学固定観念とは一部異なる女性(female)・男性(male)の「体の性の構造のバリエーション」を表す概念です。

 そしてDSDsを持つ人々の大多数は、自身をLGBT等性的マイノリティの皆さんの一員とは考えていません。これは、DSDsを持つ人々の体験が、LGBTQの皆さんのような内発的なものではなく、むしろ事故やガンで子宮や卵巣を失った女性などの外的なトラウマ体験に近いということも理由のひとつでしょう。そういう人が自分を性的マイノリティと考えないのと同じなのです。

 さらにDSDsを持つ人々の大多数は、自分が女性・男性であることにほとんど全く疑いを持ったことがなく、むしろ自分の体が完全な女性・男性と見られないのではないか?と不安に思っています。

 LGBTQなど性的マイノリティの活動家の方や大学の学者さんが、DSDsのある人々を使って「体の性もグラデーション(スペクトラム)だから、男女二元論は間違い!」と訴えることがありますが、DSDsのある人々はそんな希望はまったく持っていない、むしろそういう言説に自分のきわめてセンシティブでプライベートな領域を利用されることを嫌がっている人が大多数なのです。

オランダ国家機関報告書より
ベルギー国家機関報告書より

 ただし、もちろん、DSDsを持つマイノリティの人々にも、様々なマイノリティの人がいるのと同様、LGBT等性的マイノリティやその支援者の人々はいらっしゃいます。

 ですが、メディアやLGBTQの皆さんの前に登場するDSDsを持つ人々は、その中でも性的マイノリティの人々に限られてしまい、センセーショナリズムも相まって、更にステレオタイプなイメージを広めている状況があります。(性的マイノリティの皆さんの「オネエ問題」に近いかもしれません)。その背後には、社会的偏見にじっと耐えている、多くの当事者家族の皆さんがいるのです。

 また、LGBTQなど性的マイノリティの皆さんのコミュニティや社会一般で、DSDsのある人々に対する「男でも女でもない」という偏見が広がりやすい原因の一つには、「ポーザー問題」というものがあります。

 「ポーザー(振りをする人)」とは、本当は何らのDSDsを持っていないのに「自分は性分化疾患だ」「自分はインターセックスだ」と自称する人・思い込んでいる人、あるいは何らかのDSDsがあっても自分の身体の状態を大げさに言う人を意味します。

 大学の先生でも、実際にはDSDsに対する誤解・偏見しかなく、正確な知識を持っておらず、自分の言いたいことの証明とするために、ポーザーの人の言うことを信じ込んで、講義のゲストに招くということもあります。

 また、EU圏のLGBTQコミュニティに対する調査では、「自分はインターセックスだ」とする人で、何らかのDSDsの診断を受けたと自己申告した人は14%だけだったという結果が出ています。このようなポーザーの人はLGBTQコミュニティにはとても多く、LGBTQなど性的マイノリティの皆さんもDSDsの正確な知識をほとんど持っていないために信じ込んでしまい,DSDsに対する誤解・偏見が広まる原因になっているわけです。

 DSDsを持つ当事者の皆さんの思いを通り越して、性的マイノリティの一員に加える事は、例えば国と国との関係で考えるといいでしょう。それぞれの国には「主権」というものがあり、周りの都合で勝手に組み入れることはできないのです。LGBTQ等性的マイノリティの皆さんとDSDsを持つ人々との関係は、互いが互いの理解者となることが大切になってくるでしょう。

Q.トランスジェンダーの人とはどう違うの?

 DSDsを持つ人々と、トランスジェンダー・性別違和(性同一性障害)、ジェンダークィア・ノンバイナリー(Xジェンダー)の人々との混同は、今でも根強くあります。

 たとえば、DSDsを持つ人々に対して「性自認は女性(男性)なんですね」と言うことは、一見配慮しているように見えますが、これは「あなたの身体は女性(男性)とは言えないけど、自分を女性(男性)と思っているので、女性(男性)と認めます」と言っているようなものになります。

 当事者人権支援団体も20年近く前から「ジェンダーの問題ではない」と言っているとおり、DSDsを性自認やジェンダーの問題とはとらえていません。

 また、自身の生まれの性別に違和感を感じる人の中で、何らかのDSDsが見つかる人というのはごく少数であることも分かっています。さらに、自身を「男でも女でもない」等の自認する人は、LGBTQの「Q:ジェンダークィア・ノンバイナリー・Xジェンダー」の人々で、その大多数はDSDsを持つ人々ではありません。

 DSDsの問題群を、すぐさま性自認や男性・女性というジェンダーの問題と受け取る意識の背後には、むしろ「これが『普通の』男性・女性の体だ。(それに合わなければ男性・女性とは言えない)」という社会的生物学固定観念が働いているわけです。

まとめ:性を、人を大切にするとはどういうことか?

 AISを持つあるおばあちゃんは、もう50年ほど前、彼氏に「私は染色体がXYで子どもが産めない」と勇気を持って伝えました。彼氏の返答は、「僕が好きなのは君の染色体でも君の赤ちゃんでもない。君なんだ!」というものでした。

 一方で、同じAISを持つある女性は、カウンセラーに自分の体の話を打ち明けたところ、「あなたは男でも女でもないと受け入れるべき」と無理強いされ、「私は女です!」と反発すると、逆に怒りをぶつけられました。

 このふたつのエピソードを分けるものは何でしょう?

 DSDsを持つ子どもたちや人々は、「両性具有・男でも女でもない性別」という神話的イメージが投影され、被差別対象や性的・耽溺的なファンタジーの対象となることがあります。また、男性・女性という枠組みを超える理念や理想を語るためや、「ジェンダー」「性自認」の概念の補強「材料」のように気軽に利用されることもあります。

 ですが、そのような人たちは、背後の人々がどのような思いをしているのかも顧みず、なかには当事者女性の全裸の写真を用いて、多様性のひとつとして言及するようなLGBT活動家の方や大学の学者さんもいるような状況です。

 想像してみてください。自分や自分のお子さんの「性器」について、自分の預かり知らないところで、「拒否的」であれ「好意的」であれ、様々な人々が様々な「意見」を述べあっているという状況を。

 このような状況は「オブジェクティフィケーション(モノ化・自己目的化)」、あるいは「観客の問題」と呼ばれています。

 LGBT活動家や学者のみなさんが、トランスジェンダーの皆さんの人権を訴えている一方、DSDsを持つ人々に対しては、まるで自分が良いことをしているかのように、他人の家の子どもの最もプライベートでセンシティブな領域であるはずの性器の話を「男でも女でもない」という偏見の上で自分のモノのように自分の道具のように利用しているというのはあまりに倒錯していると言わざるを得ません。

 理念や理想というものは、それがどれほどだけ高邁なものであっても、時に急進的になり、ひどい場合は現実の人々を抑圧し、否定しかねません。医療人類学者のアリス・ドレガーさんは、自分の理念や理想を語るために、このような体の状態を持つ人々を引き合いに出す状況を、「生け贄」という強い言葉で表現されています。

医療人類学者アリス・ドレガーさん

 「性」という領域では、自他の区別が失われることが多くあります。しかし、自分の「欲望」と相手の「望み」との混同は、性的ハラスメントや痴漢・レイプ被害のように、相手の心を深く損なうことがあります。

 特にDSDsは、性の中でも「性器」という極めて私的でセンシティブな領域に関わる話です。その人の染色体や性器、性自認、性の理想の話ばかりに拘泥することなく、不断に「人間」を見失わない態度が必要になります。そうした態度の上で、正確な知識をアップデートしていく。そのための基礎知識として、この記事を参考にいただければと願います。


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