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クラインフェルター症候群(XXY-male)のよくある誤解
はじめに
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DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)のひとつに,クラインフェルター症候群というものがあります。(ただし後述しますが,海外の医学会では近年,クラインフェルター症候群は性分化疾患には含まれないようになってきています)。
一般的な男性の場合はX・Y染色体の構成が「46,XY」ですが,クラインフェルター症候群は,染色体の構成がXが1つ以上多い「47,XXY」「48,XXXY」「49,XXXXY」の男性(male)の体の状態です。
下のジェンダー論の大学の教科書の図のように,ジェンダー系の学者の方でも,クラインフェルター症候群男性がまるで「男でも女でもない」「中性」であるかのような神話的な誤解・偏見があります。
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ですが,まず結論から言うと,X染色体がいくつ多くても,Y染色体上のSRY遺伝子がある限り,その個体は男性(male)に生まれ育ちます(アンドロゲン不応症などのXY女性を除く)。
実際に,クラインフェルター症候群の男性は,外性器も男性器で,性腺も精巣です。子宮や膣はありません。
ここでは,クラインフェルター症候群とはどのようなものなのか,そして,なぜクラインフェルター症候群(47,XXY)に対しての「男でも女でもない」「中性」といった神話的な誤解・偏見が,学者さんでさえ,21世紀の現代でもはびこっているのか,その理由について解説します。
クラインフェルター症候群とは?
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クラインフェルター症候群は,男性(male)が「X染色体」を1つ以上余分にある(47,XXY以上)ことで発生する症状のことです。
受精前の女性の卵子や男性の精子が作られる段階で,染色体不分離という現象によって,本来はXが1つになるはずの卵細胞が,この現象によって2つ以上のX染色体を持つことで,1つのY染色体を持つ精子細胞にと受精した場合,クラインフェルター症候群になります。これは遺伝性のものではありません。
症状は人によって異なり,明らかな症状がない人や,あっても軽度な人も多くいます。そのため,思春期~成人期まで症状が診断されず,男性不妊検査まで判明しないことが大多数です。ただし,現在海外では,赤ちゃんが生まれる前の新型出生前検査(NIPT)によって判明するというケースも多くなってきています。
クライン男性(male)は,男性二次性徴不全や,発達障害,心疾患,糖尿病,男性乳房発達,高身長など,人によってさまざまな症状・特徴がありますが,極端な精子減少による男性不妊以外の症状は,人によってまちまちです。
ですが,男性不妊以外,明らかな症状が現れないケースが大多数のため,およそ75%の男性が診断されないままであることもわかっています。
また,男性不妊と言っても精子がとても少ないというだけで,射精もありますし,現在ではマイクロ-TESEという生殖補助医療によって,多くのケースで精子を採取することができるようになっており,妊孕性がまったく無いというわけではありません。
クラインフェルター症候群のよくある誤解
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「この世にはクラインフェルター症候群(XXY)という,中性・男でも女でもない人がいる!」
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学者さんや活動家さんは医学の専門家ではありません。全くの素人です。そういう学者や活動家の方たちが,ある種の疾患や障害に対する偏見は,一般社会の人と変わらず,あるいは自分自身の信条というバイアス(偏り)によって,その偏見がさらに強いものになるのもわからなくありません。
また,人間(哺乳類)の男性(male)と女性(female)の違いを決めるのは,X・Y染色体の構成数ではありません。
実際にはY染色体にあるSRY遺伝子(性決定遺伝子)こそが,胎児期に男性(male)に分化・発達する要因であり,X染色体が多くても,女性(female)になる・近づくということはないのです(アンドロゲン不応症などのXY女性を除く)。
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また,X染色体が2つ以上の場合は,「X染色体の不活性化(ライオニゼーション)」という細胞の働きによって,1つのX染色体は機能しなくなります。むしろ,X染色体が2つ以上働くと,その個体は生きていけません。
ですので,どれだけX染色体が多くなっても「女性化」ということにはならないのです。
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上の大学の教科書も,X染色体が多いほど「女性に近づく」といった短絡的な誤解が垣間見えています。また,「X染色体が多いほど症状が多くなる」という記述を「女性に近づく」と思い込んでいる人もいますが,たとえば48,XXXYなど,X染色体が多くなる場合は,知的障害や自閉症,心疾患,その他の身体症状が頻発するようになるということなのです。
48,XXXYの男の子のキャメロン君。心疾患や免疫不全,皮膚炎症,好酸球増加症など,様々な症状にさいなまれながらも,懸命に生きています。
49,XXXXYのディラン君とブランドン君。知的障害と強い自閉症があります。
「でもクラインフェルター症候群の人は女性化する人がいるじゃないか!」
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確かにクライン(XXY)男性の何%かは,声変わりや筋肉の成長などの男性二次性徴不全があると言われています。ただし,射精は全員に起こります(他の全く別の疾患がない限り)。
このような男性二次性徴不全を持って,「女性化」と呼ぶのは,ただの男の子・男性である人に対する侮辱でしかありません。そもそも「男性の二次性徴が不足している=女性になる」という発想こそが短絡的です。
たとえば事故で精巣を失った男性に対して「女になった」という人はいないでしょうが,大学の学者さんでさえ,そのような発想になっているわけです。
また,クライン男性の症状の一つに,かつて「女性化乳房」と呼ばれる症状が現れるということもあります。ですが,これもそれほど多くないということも現在では分かっています。ここにはひとつのからくりがあるのですが,これは後で説明しましょう。(現在では欧米の専門医学では,「女性化乳房(gynecomastia)」という表現は使われず,「男性乳房発達(male breast development)」と呼ばれるようになっています)。
それに,実際には一般的なXY男性でも男性二次性徴不全や男子乳房発達はあります。XXY男性もXY男性もそれほど変わりがないわけです。
ちなみに,一般的なXY男性の思春期の乳房発達は,テストステロンの増加によって起きるものがほとんどです。実は多すぎるテストステロン(男性ホルモン)の一部は,脂肪にあるアロマターゼ酵素によって,エストロゲン(女性ホルモン)に変換され,そのエストロゲンの作用によって一般的なXY男性でも,思春期に乳房発達は起きるわけです。
「でもでも,クラインフェルター症候群の人には女性で生きている人もいるじゃないか!」
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あたりまえですが,XY男性にもXXY男性にも性別違和がある人はいて,女性にトランスして生きている人はいます(MtFトランスジェンダー)。どちらも変わりません。
医学でもクラインフェルター症候群だから性別違和が多くなるというわけではないと説明されています。
性分化疾患の中で出生時に然るべき検査が必要な外性器の状態で生まれる男の子・女の子の赤ちゃんがいて,そのような赤ちゃんの場合,マイクロペニスの男の子だと去勢されて無理やり女の子に育てられたという昔の「性別割り当て」(詳しくは後で下記をご覧ください)や,見落とし,男の子・女の子の誤判定があった場合,(これはただ単に出生時の性別の間違いであるため,戸籍法による「性別訂正」が認められています。(この場合はトランスジェンダーではありません)。
ですが,クラインフェルター症候群の場合は出生時にそのようなことはありませんし,一般的なXY男性(male)と変わりありませんので,もちろんたまたま性別違和・トランスジェンダーの人はいて,その場合は性同一性障害特例法による「性別変更」の適用になります。
クラインフェルター症候群判明時に,「性別をどちらにしますか?」と聞かれることもありません。昔はあったかもしれませんが,これは医療でも誤解や偏見が大きかったからです。
一方,性別違和のある人,トランス・クィアの人で,染色体や遺伝子の違いがどれほどあったかという調査研究があったのですが,X・Y染色体,遺伝子の違いがあった人は2人しかいなかったという結果も出ています。
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ちなみに,この表を見せた時に,「47,XXYの人がいるじゃないか」と言った大学の先生がいらっしゃいましたが,実際に出ているのは「47,XYY」(Y染色体が多い体の状態)です。このようなところにも,染色体異数に対する偏見,自分の思想的信条によるバイアスがはたらいていることが見えます。
また,性的指向もXY男性と同じくストレートである人が大多数です。もちろん男性同性愛の人もいます。あたりまえです。
ただし,あるいはですが,XXY男性はXY男性よりも少し性別違和のある人が多いという可能性はありえます。
それは男性二次性徴不全によるものではなく,X・Y染色体が3つ以上の人には(XXY男性だけではなく,XYY男性も),自閉症スペクトラムなどの発達障害が多くなるからです。
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性別違和のある人には何らかの性分化疾患があるのではないかと思う人も多いでしょう。昔は医学でもそのように短絡されていました。ですが,先程の通り,トランスジェンダー・性別違和のある人で性分化疾患が見つかることは,一般人口と変わりません。
そのため現在,性別違和のある人や,トランスジェンダー,クィアのみなさんには,性分化疾患ではなく,自閉症スペクトラムの人がよほど多いという相関関係が多くの質の高いエヴィデンスで示されるようになっています。
もちろん,クラインフェルター症候群男性で自閉症スペクトラムの人は多くても27%,さらに自閉症スペクトラムの人で性別違和のある人は5%ほどと言われていますので,やはり,クラインフェルター症候群だから性別違和の人が多いとまでは言えません。
「でもでもでも,XXYの人で,女性に生まれ育った人の論文もあるぞ!」
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海外では,ここまでガンバる人もいます。。
はじめて性分化疾患のことを聞かれる方は驚かれる方もいますが,実は染色体がXYでも,女性(female)に生まれ育つことがあるのです。
アンドロゲン不応症や,スワイヤー症候群,フレイジャー症候群など,染色体がXYでも女性(female)に生まれ育つ「XY女性(female)」と呼ばれる体の状態があるのです。
彼女たちの体の状態は,Y染色体上のSRY遺伝子の働きがあるのですが,AR遺伝子やMAP3K1遺伝子など他の遺伝子の作用によって,胎児期からテストステロンが出ていても,体の細胞のほうがそれに反応しなかったり,原性腺(卵巣や精巣に分化する前の性腺)が胎児期早期に退縮するために,テストステロンの影響を受けず,人間の原型の女性(female)のまま生まれてくるのです。
詳しくは,後でこちらをご覧いただければと思います。
結論を言うと,XY染色体の人でも女性(female)に生まれ育つ人はいますし,したがって,あたりまえですが,XY染色体個体と同じく,XXY染色体個体でも,アンドロゲン不応症などが併発する場合は,女性に生まれ育つことがあると言うだけで,それは別にXの数が多いからではありません。
アンドロゲン不応症などのXY女性(female)の発生率は,約13万人に1人であり,一方,クラインフェルター症候群(XXY)の男性(male)は,男性の500人から1,000人に1人と言われており,染色体の違いの中では最も多い体の状態です。
それだけ多いクラインフェルター症候群ですので,たまたま他の疾患が重なることがあるというだけなのです。
海外の方で,「XXYの人で,女性に生まれ育った人の論文もある!」と声高に叫ぶ人は,やはり染色体の構成数ばかりに目が行って,自分の短絡的にな固定観念には気が付かない傾向があるわけですね。
とりあえず…
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ここまで,まずはクラインフェルター症候群(XXY男性)に対するよくある誤解をまとめましたが,なぜこのような誤解偏見が発生するようになったのかということには,いくつかの理由があります。勘の良い方はすぐに分かると思います。
これを書き出すとまたとても長くなるので,後日まとめたいと思いますが,今はタイトルだけ少し書いておきましょう。
XXY男性が「女っぽい」「中性」と言われるようになったのは,実は1960年以降の,「X・Y染色体のジェンダー化」が関係している。
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クラインフェルター症候群(XXY)が診断されるのは,男性二次性徴不全と,性別違和のある人が大多数であることによる,母集団の見かけのバイアス(隔たり)
「ポーザー」(本当は性分化疾患がないのに,自分はそういうものを持っていると詐称する,思い込む人々)の存在。その中で最も多いのが,「自分はクラインフェルター症候群だ」という詐称・思い込み。
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「私はあの人達とは違う」。クラインフェルター症候群でたまたまトランスジェンダー女性の一部には,LGBTQ等の性的マイノリティのみなさんのコミュニティで言う「内面化されたトランスフォビア」を持つ人がいる。
これについて先に言っておきたいのですが,クラインフェルター症候群で,たまたまトランスジェンダーのみなさんを始めとするLGBTQ等の性的マイノリティのみなさんの大多数は,自分がXXYであるということを理由に使おうとはしません。
それは,とてもすごいことです。とてもかっこいいことです。こういう人々は,XXYであることにもLGBTQであることにもプライドを持たず,自分自身であること,自分がどんな逆境でも生き抜いていることに矜持を持っている方たちです。僕は本当に尊敬しています。
これらの要因については,またまとめていきます。
最後に,クラインフェルター症候群男性(male)の皆さんの動画をご覧ください。